“のん”さんが監督・脚本・主演etc...を務めた映画『Ribbon』を観てきました。かの朝ドラ『あまちゃん』以降、のんさんのことは活動を熱心に追うわけではないものの常に身近な感覚で気にしていました。事情はよく知らないけどいろいろ大変だったんだろうな、それでも粘り強く表舞台に立ち続けていてすごいな、嬉しいな、という感じの存在でした。
そんなのんさんが映画監督デビューということで(厳密には2019年の『おちをつけなんせ』というYouTube製作?の作品が1作目のようですが、劇場公開長編映画としては今作が「初」となるはずです)それは当然観ますよね。公開間もないテアトル新宿へ行ってまいりました。
なるべく事前情報を入れずに観たいタイプなので、今回もどんな映画なのか全く知らないまま鑑賞。ずばり、多摩美全面協力のもと「コロナ禍の美大生」を描いた作品となっておりました。それも思った以上に「コロナ禍映画」の色が強い作品で、コロナ禍を切り取った映画はここのところ何本も観ていますが、ひときわダイレクトな「コロナ禍を描いた映画」だったと思います。「いち要素」「いち背景」に留まらず、まるまる2時間「コロナ禍」を描いてしまえる度胸、新鋭監督ならではの強みなのかもしれません。
とはいえ正直に申し上げれば「何を見せられてるのかな〜」みたいな時間がしばらく続き、まあ「1作目」の荒削りさというやつですよね、どの監督だってそうだよね、その最初に立ち会えているんだな、なんて生暖かい何様な目で観てたんです。ただ、最後の最後で、あれ?? これはもしかして意図的に「無意義な時間」を見せられていたのか?? と。
つまりこの映画って、1回目の緊急事態宣言でみんなが「本当に“自粛生活”を送っていた」時期を描いているんですけど、その時期の「ただ過ぎゆく時間、何も生み出さない時間」をもしかしたら作劇として表現していたのか?? と思ったんですよね。美大生の話なのに全然何もクリエイトしないぞ、どーなっとんねんと、そんな時間が実質、劇中の9割を占めている。でも、だから、そのぶん、終盤に思わぬエモーションが襲ってくる。そうか、映画全体の構成でコロナ禍のフラストレーションを表現していたんだ。
またその終盤のエモーションというのが捨てたり壊したりするところから湧き上がっていくのもアート的でいいなあと思いました(RibbonはReborn=再生ともかかっているといいます、後付けらしいですけど)。あのへんの「壊してでも持ち帰りたい」みたいな感覚というのはわたしには全然わからない部分なのですが、そんなアーティスト的感情の爆発を経て創作意欲がむくむくと吹き返していく一連の流れは、もう理屈抜きに観客を引っ張っていく力があって素晴らしかったです。
それに加えてあの場面が素晴らしいのは作劇のみならず、具象化された「アート」の説得力ですね。部屋の隅で生気を失っていた絵にみるみる血が注入されていくような瞬間。さらには破壊から見事なかたちで蘇ったもうひとつの絵。そして無数のリボン。このビジュアルの力が半端なものだったらラストでここまで感想が好転することもなかった気がするので、本当に素晴らしい美術のお仕事です。どなたが描かれたんだろう。……と思ったらのん画伯ですって…!!! どこまで天才だよ…!!! 平井の絵はさすがに違うのかな、違うと言ってくれ。
リボンもね、最初出てきたときは『私をくいとめて(2020)』の、『君は天然色』のバルーンみたいだななんて思ってたんですけど、なんと樋口真嗣さんによる特撮なんですって。CGじゃないんだ……!! CGが使われてるところもあるみたいですけど、そのへんも のん監督自らかなり具体的にディレクションしていて、恐れ入りました。メイキング映像にちょっとだけ出てきます。
とそんなわけで9割無意義、ラスト1割でぐわっと感情が持っていかれる、作品の評価がぐるっとひっくり返る、さらにはダメ押しのサンボマスター、「翼」に触れるのは反則だぜ。ううん、やられました。完璧な作品とも違うと思うけど、ものすごい熱量と力を秘めた作品なのは間違いありません。そして何より、この鬱々とした時代に前向きな気持ちで映画館を後にできる作品。のん監督、いい映画でした。公開おめでとうございます。
はみ出し雑感(ややネガティブ感想も含む)
お母さんのシーンが個人的にはだいぶ引っかかっちゃって。美大生の親でそこまで理解ないことある??なんて思ったのだけど案外あるあるだったりするのだろうか。あと、言うほど「理解できない系」の絵じゃないような。普通にめっちゃ上手いし売れそうな絵じゃん。もっと抽象画とかならわかるんだけど。ゴミ扱いされるには(いい意味で)わかりやすく上手すぎる。そうかつまり、のん画伯がキャッチーに上手すぎたということか(笑)
いつまで家族来るんだよと食傷気味だったものの、密回避だったんかい、とそこには笑った。小野花梨さん演じる妹がめっちゃいいキャラ。ちょっと『ベイビーわるきゅーれ(2021)』のちさとっぽい狂い方。顔が見えたところで、あれっ、見覚えのあるお顔。しばし考え、『カムカムエヴリバディ』の絹ちゃんだと気付く。ていうかこっちもほぼ同じキャラだな(笑) 第二の伊藤沙莉さん的ポジションで期待してます!
ああいう古アパートのインターホン描写、どの映画でも基本みんな覗き穴すら覗かずいきなりドア開けるの警戒心なさすぎてほんと良くない。わかるよ、わかる、その、開けたら予想外の人物!みたいなことが必要なんだろうけど、いや、一人暮らしでいきなりドア開けちゃだめ。なんなら「はーい」も言っちゃだめ。危ないから。気をつけて!!!
山下リオさんはいいですよね〜、なんて思いつつ、GMTメンバーだったことはすっかり忘れていた(GMT=『あまちゃん』に登場したアイドルグループ。のんさん演じるヒロインも所属)。『私をくいとめて』の橋本愛さんに続く胸熱リユニオンだったんじゃん!
平井はあんまり積極的にマスクしたくないタイプ。抗いたいタイプ。不織布にもしないタイプ(まあこの時期はまだそんなに言われてなかったしね)。端々からいろいろ滲み出てて良かった。ただ進路のこととかはもうちょっと序盤に描き込んでおいた方が良かったんじゃなかろうか。後半のいつかの激昂が唐突に思えた。最終的には理解できたから十分なのかもしれないけど。きっとだいぶカットしたのだろうな。
渡辺大知さんはこういう役ほんとハマる。いつかを肯定してくれる数少ない人物。泣いちゃうじゃん。マイスイートホーメだなあ(fromアフター6ジャンクション)。
のんさんはね、一箇所どこだったか、横向きに寝転んでるところでリボンが舞ってて、瞳にそれが映り込むってシーン。あそこの瞳がすっごく綺麗で。印象に残ってます。あ、予告に使われてますね。
パンフ、買う予定なかったけど気持ちが高まって売り場へ直行してしまった。かわいい真四角の、ちっちゃいパンフなんですけども。ただのおしゃれ系パンフ(って何)かな?と思ったら大間違いで中身はかなり濃い! 綿矢りささんとの対談なんかまで収録されてます。あの絵もしっかり見れるし、これはおすすめです。
テアトル新宿、地上階入り口から階段、メインフロアに至るまで今現在『Ribbon』尽くしの装飾となっておりましたのでお近くの方はぜひ。「重い」リボンドレスの展示もあります。
以上、毎度のごとく乱文ではございますが『Ribbon』感想でした。なかなか類を見ないド直球のコロナ禍映画、お見逃しのありませんよう。なんだか意欲がすっかり……という方に、特におすすめしたいです。
(2022年34本目/劇場鑑賞)
予告編は岩井俊二監督が作っているのだそう。映画人たちに愛されているのんさん、よかった。ますます幸あれ。