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【よかった】映画「キャッツ(2019)」雑感

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不運なことに散々な前評判が一人歩きしてしまった映画版『キャッツ』、観てきました。タイトルから早速アピールしてみましたが、楽しめたよ!っていうほうの感想です。観ようか迷っててもうひと押しが欲しい方、お読みいただけたら!(もうひと押しにしては、例のごとく長文ですが)

『キャッツ』について

T・S・エリオットによる1939年発表の詩集『キャッツ - ポッサムおじさんの猫とつき合う法』を原作としたミュージカル作品。『オペラ座の怪人』などのアンドリュー・ロイド=ウェバーが音楽を担当し、1980年代前半からロンドン、NY、日本でいずれも記録的ロングラン公演として上演。日本では劇団四季の人気タイトルとして定着、2020年現在も公演中。このたび初めて映画化された。

なおわたしは、ちょうど一年前に劇団四季で「初キャッツ」いたしました。 これ以降の文中で「舞台版」とあった場合は基本的にこの劇団四季バージョン(2019年1月時点での演出版)を指しています。

あらすじ

ある満月の夜。“ジェリクルキャッツ”たちがロンドンの片隅に集まってきた。年に一度しかない特別なこの日、天上へ上り新たな命を手にするたった一匹のジェリクルキャッツが選ばれるのだ。

これぞキャッツ

不思議な音楽が鳴り響き、猫たちが四方八方で囁く。次から次へと個性的な猫たちが登場し、フィーチャーされる。そしてそれは夜明け前まで延々と続く。本作を観た一番の感想は「キャッツそのものだった!」というものでした。

というわけで先に結論的なことを書いておくと、舞台版『キャッツ』を観たことがある方なら本作、違和感は最小限。これぞキャッツ。むしろ、よくここまでそのまま映画化できたな?!と驚くのではないでしょうか。かなり硬派なミュージカル映画で、かつ恋愛物語でもない、今時こんな映画を作るのにはかなりの勇気がいるはず。

本国公開時のバリエーション豊かな「悪評」が映画ファンのみならず一般的にもバズってしまった本作ですが、全てがそうであるとは言わないまでも、批評の域を超えた単なる罵詈雑言のような酷評については「舞台版を観たことがないのでは?」と思ってしまいます。

確かにものすごくシュールな世界観で、一体何を見せられているんだ…という時間が結構な割合を占め、これといった起承転結もない。でも、それがキャッツなんですよ。舞台版を観ても、その感想になるんですよ。参考までにこちら、一年前に劇団四季バージョンを観たわたしの感想です。

お話がそもそもよくわからんとか、わりと何を言ってるか聞き取れんとか、スーパー戦隊ショーを見せられているのかな?と思ってしまうようなシーンの多さとか、少なくとも予備知識なしの初見では満点かと問われればNOだったんですが、猫だと言われてしまえば納得といいますか、猫の気まぐれショウなんですよ、確かに。

劇団四季「キャッツ」 / 大井町キャッツ・シアター(2019/01/27) - 353log

映画版でもそうなんですけど、延々と猫の見本市をやられた最後に「いかがでしたか? 猫のこと、ちょっとは分かりました?」って突然語りかけられて終わるんです。ほんと妙ちきりんな作品なんですよ。

なので、この映画版『キャッツ』、単純におすすめできるのはまず劇団四季等で舞台版を観たことがある方。そうでない方は、以上のことから心づもりをしていただいて、もともと「ストーリーに起伏のない妙ちきりんな作品」である!という前提のもと観ていただければ完全初見でもそれなりに楽しめるのではと思います。

しいて言うと「劇中の95%くらいが歌」なので、ミュージカルに苦手意識のある方は結構きびしいかもしれません。ずっと曲が続いてるけどこれいつになったらストーリー始まるんだろう…。始まりません。こういう作品です。逆に言うと、劇中のナンバーに魅了された場合はラッキーです。劇団四季の劇場に行けばこのまんまほぼ全曲聴けるし手拍子だってできます。

『キャッツ』は知名度こそ『ライオン・キング』や『アラジン』などと同等でありながらこれまで映画版が存在しなかったため、観るハードルの高い作品でした。劇団四季のチケットにしても観たいと思ってすぐ取れるものではなく、どんな話なのか知らずにいた人は多いでしょう(それもあっての、あの反応だったのかもしれません。まさかあの有名なキャッツがこんな奇妙なお話のはずがない、と)。それが手軽に、今なら映画館で観れるし、数ヶ月後には配信やBlu-ray等でいつでも観れるようになる。しかも舞台版の雰囲気をそのままに、個性的な楽曲も全部入ってる。めちゃくちゃいいニュースです。

ただ、言わんとしていることはわかる

その、まずビジュアルですね。確かに、わかる、わかるよ、ギリギリアウトなのが結構いるよ。リアル志向な猫ボディになぜ人面を貼り付けたのだ……という不可解な気持ちはわかるよ。少しは慣れたかなと思いきや、我に返ってギョッとしてしまうシーンはいくつもあったよ。

『SING/シング(2016)』のようなアニメキャラ路線、はたまた『ライオン・キング(2019)』に続く超実写版路線、もちろん舞台版スタイリング&メイクの路線、いろいろあったろうに様々な選択肢から「あれ」を選んだのは、なんていうか強い。

それから「G」問題。噂には聞いていたので覚悟して、心を無に、視界をおぼろげにしてただ時が過ぎ去るのを待つことで対処したわけですが、きついものはきつい。ちなみにこれはですね、舞台版にも出てくるんですよ。とはいえ、スクリーンで見せられるのとは話が別。エンタメ映画でカジュアルにG出してくるの断固反対。

でもまあ、ささいなことです(Gは序盤だし)(ビジュアルは脳が諦めるし)。

はみだし雑感

  • 音楽がそのままだったのすごく嬉しかった。『キャッツ』の魅力は一癖も二癖もあるあの多様な楽曲たちにある!と改めて実感。

  • なかでも、ラム・タム・タガーの曲、鉄道猫の曲、手品猫の曲あたりが好き。特に手品猫はイントロのトランペットが聞こえてきただけで条件反射的に目が熱くなる。四季版ではカーテンコールの曲なんですよ。

  • 鉄道猫は舞台版だとあの楽しい仕掛けがあるけど、それは舞台で楽しんでねってことなのかな。だとしたらそれはそれで粋。代わりに、タップがえらい良かった。

  • 劇場猫ガスはマッケラン猫があんまり歌えないのか崩しまくっていて少々物足りなかった。あれもすごくいい曲なんだけどな、ちょいと伝わりにくかった。船が別枠で出てくるのはなるほど、だった。

  • ジュディ・デンチ猫めっちゃ良かった。というかまず、デュトロノミーが雌猫!っていう驚き(原作や舞台版ではおじいさん猫のはず)。悪評高いリアル毛玉のなかでもデンチ猫は自然そのもので、何ら違和感なかったな。素晴らしかった。

  • 「メモリー」の力技がすごくて、ああ、天上行くのこの人だわ、ってあっちの世界でもこっちの世界でも納得させられるものがあった(ジェニファー・ハドソンで納得)。これはクローズアップを使える映画の強み、とも思う。舞台だと表情の細かいところまで見るのは難しい。

  • 天上に行くシーンは、舞台版のあまりにも神々しい「召され感」と比べるとだいぶあっさりしていてやや期待とは違った。『オズの魔法使(1939)』で元の世界に帰るシーンみたいだったな。ただこの演出もこれはこれでいいというか、カジュアルに新しい人生送れるんだな〜よかったな〜って感じで、むしろ舞台版は儀式的すぎたかもしれない。こわい。

  • テイラー・スウィフト猫が一番違和感なく可愛かった。狂言回しのフランチェスカ・ヘイワード猫は最後までずっとシュールだった。ギリギリアウトだったのはイドリス・エルバ猫。

  • フィナーレの「猫は!犬に!あらず!!!」が仰々しすぎて大好き。「猫だもんな、仕方ないな」でこれまでの全てを納得させてくれる、この作品の最高にずるい部分。ロンドンの広場でライオン像に「乗っかって」これを歌ってるのもよい。ネコ科ヒエラルキー最上層ねこ。

観てください

あんな誰も得しないようなネガティブキャンペーンにまんまと乗せられちゃってる感じが自分含めてなんともモヤッとする案件だったので、気になってる方はぜひ映画館でご確認ください。確実に好き嫌いの大きく分かれる映画ではありますが、名作・傑作かどうかとはまた別の話ですが、あんな酷評されるようなものでもないと思います。

日本語吹き替え版は『SING/シング』と同じく蔦谷好位置さんがプロデュースされてるとのことで、こちらも期待できるんじゃないでしょうか。劇団四季の日本語版を先に聴いている場合むしろ吹き替えのほうがしっくりくるかもしれませんね。『メモリー』の日本語版は、YUKI坂本真綾のコーラスで何度も拝見していた高橋あずみさんが担当されているということを今思い出して(そういえば前にニュースで見て驚いてた! 大抜擢!)、より観たくなってます。

以上、わたしは擁護猫でありたい。という記事でした。プロモーションではない。

(2020年16本目/劇場鑑賞)

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