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主に映画の感想文を書いています

「お砂糖とスパイスと爆発的な何か(北村紗衣)」書籍の紹介

最近読んだ本をご紹介します。ここのところノンフィクション系をいくつか読んでいましたが、今回はちょっと毛色の違う本です。

お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門(北村紗衣)

書店でこの本と出会ったのは3週間ほど前でした。個性的なタイトル、ポップな表紙絵、おまけにライムスター宇多丸さんの帯コメントが付いていたことから気になって手に取り、立ち読みした前書きの軽妙な文体が「フェミニスト批評」なるワードのイメージとは違っておもしろいなあと思いつつもその時は買わず。

▲前書きの試し読みができます

あとで調べてみると、著者である北村紗衣さんのインタビュー記事を少し前に興味深く読んでいたことを思い出しました。そりゃ、気になるわけですね。

やはり直感を信じて買うべきだった…と行く書店行く書店で探すもことごとく在庫なし。なんとなく実店舗で買いたかったのでしばらく探し続け、ようやく再会して購入、あっという間に読み終えました。

フェミニスト批評とは、少なくともこの本においてはその字面からイメージするほど殺伐としたものではなくて、普段「性差別的」だなんて思わないようなことでも、それはもしかしたら男性中心の社会でかたちづくられてきた偏りのある固定概念なのかもしれないよ? という例を見つけ出していくものです。

ここのところ炎上している献血ポスターの話題(巨乳な二次元キャラの起用是非)でなるほどなーと思ったツイートがあって、それは「適切か不適切かは別として、その絵がエロいのは事実だよ(そこは否定しちゃだめよ)」という旨のもの。フェミニスト批評というのは多分こういうニュアンスの話だと思います。

この本では著者北村さんの専門であるシェイクスピア作品や、馴染みのある映画作品などを例に挙げて、フェミニスト批評とはなんぞやを楽しく学んでいくことができます。楽しく、というのがポイントです。

フェミニズムに関する話題というのは男性にとってなんとも肩身が狭く穏やかとは言いがたい話であることが多いのですが、本書はとてもフラットな目線で考え方を提示してくれるためムッとすることもなく素直に受け入れることができました。まさに「入門書」であると言えます。

※なお、たまに間違えられるので定期的に書いておきますがわたしは男です。

当ブログ的なことでいえば、これからの最新映画を楽しむ上で、もちろん過去作を楽しむ上でも、必要不可欠な「アップデート」となることは間違いありません。

映画というコンテンツは常に世相を大きく反映しています。それは新作に限らず古典のリメイクなどでも「(古典は)翻案の際にどんどん変更されるもの(p177)なのだそうです。最近だとわたしは実写版の「アラジン」で追加されたジャスミンの新曲(唐突にフェミニズムが強い)にモヤッとしてしまったのですが、本書を読み、作品のバランスとしては未だ納得こそしていないものの理解はできるようになったと思います。

同頁、アガサ・クリスティの「ミス・マープル」シリーズを扱った部分でこんな一文がありました。

ミス・マープルは『バートラム・ホテルにて』で「世の中の移り変わりは、やはり受け入れなければしかたありませんものね」と言いますが、クリスティを受容する我々もミス・マープル同様の態度でのぞんだほうが今後いろいろな翻案作品を楽しみやすいだろうと思います。(p177)

こういうスタンスの一冊です。あくまで、より楽しむためのアップデートを助けてくれる本です。特に「フェミニスト」という響きに思わず怯んでしまう男性の皆様、怖くないので是非お手に取ってみてください。


北村紗衣さんとWikipedia

北村さんは大学で受け持つ授業の一環としてWikipediaの記事作りに取り組んでおられるとのことで、本書に帯コメントを寄せているライムスター宇多丸さんのラジオ番組にてWikipedia特集回でゲスト出演されていました。 意外と知らないWikipediaのあんなことこんなことが次々と登場する、とてもおもしろい特集です。公式に音声が上がっていますのでご興味ある方は是非。