男性視点での「82年生まれ、キム・ジヨン(チョ・ナムジュ 著/斎藤真理子 訳)」感想
できれば避けて通りたいと思っていた話題作『82年生まれ、キム・ジヨン』を、重い重い腰を上げて読みました。この本は韓国のフェミニズム文学で、本国では2016年の発表以来130万部の大ヒット、その後世界各国の言語で翻訳され、日本においても韓国文学としては異例の大ベストセラーになりました。
なぜ避けて通りたいと思っていたのかというと、前述のとおり本書はフェミニズム文学であり、そしてわたしが男性だからです。端的に言えば読むのが怖いわけです。とはいえこの時代、もう避けては通れません。いつかは読まなければ。ならば早いほうがいい。
本書の翻訳が斎藤真理子さんによるもの、というのも後押しになりました。斎藤さんは先日読んだ韓国文学『フィフティ・ピープル』の翻訳もしておられて、詳しくは感想記事に書きましたが最近すっかりファンなのです。信頼できる「推し翻訳家」の手がけた作品ならばきっと抵抗なく読める、と思ったのでした。
そんなわけで戦々恐々手に取った『82年生まれ、キム・ジヨン』。意外や読みやすく、数時間で一気に読み切ってしまいました。気にはなっているけど読む勇気が出ない男性諸氏に向けた感想およびリコメンドです。
決して男に攻撃的ではない本
「フェミニズム」。男性からして今いちばん怖いワードと言って過言ではないでしょう。Twitterなどもそういった内容の投稿が増え、もはやフェミニズムというより男性嫌悪な意見を目にすることも多くなりました。なのでフェミニズム関連のコンテンツを摂取する際は、こう言っちゃなんですが刺激の少ないものを選びたい気持ちは少なからずあります。
本書はその点、意外と低刺激(攻撃性が低い、と言ったほうが適切かも。刺激はある)だと思いました。主語の大きな男性嫌悪的論法ではないのでとても読みやすかったです。決して「主人公キム・ジヨンのまわりにクソみたいな男が山ほどいて、だから男は、だから女は」みたいな話ではないのです。おそらくそれは最初の数ページをぱらぱらと読んでみるだけでも感じると思うのでぜひ試し読みをしてみてください。
とはいえそれなりに張り詰めた心持ちで読み進めていくと、男性読者としては62ページできっと一旦気持ちが楽になると思います。そういうスタンスでいってくれるんだったら最後まで読める、大丈夫。そう思える言葉が比較的序盤に入っているのはありがたかったです。
以前読んだ北村紗衣さんの『お砂糖とスパイスと爆発的な何か 不真面目な批評家によるフェミニスト批評入門』もそうでしたが、フラットな視点でフェミニズムについて教えてくれる本というのは男性にとって非常に貴重です。
▲フェミニズム入門書として、あわせておすすめの一冊です。そういうことなんだよな
読みやすい、とは言いましたが、それはこのためだったのかなと思ってしまうような一文が最後に待っています。これがじつに秀逸というか効果てきめんというか。
男としては、つい反論したくなってしまうところだってあるわけです。生まれてきたら男だっただけだし、なんでこんな言われ方しなきゃいけないのと思うことも多々です。つとめてフラットに書かれたこの本ですら「でもさ」と言いたくなる気持ちはなくはなかったんです。
ただ、最後の一文を読んだときその気持ちがなくなったのですよね。頭に浮かんだ感想は「そういうことなんだよな」。この一文がなければわたしはこの本の言わんとすることを理解しないまま、「でもさ」という感想をここに併記していたかもしれません。本当によく構成された本だと思いました。
男性のみなさま、ぜひ重い腰を上げて読んでみてください。何より普通に、一気読みできちゃうほど面白い本です。
- 作者:チョ・ナムジュ
- 発売日: 2018/12/07
- メディア: 単行本(ソフトカバー)
ちなみに「キム・ジヨン」は82年生まれの韓国人女性に一番多い名前なのだとか。韓国人の男性からすれば身近に同姓同名の女性がいる確率も高いわけで、そのぶん日本人男性が読むよりもかなり刺激高めに感じるらしいです。日本人が海外文学でフェミニズムを学ぶ利点はそういうところにもあるみたいですよ(たしかに、と思いました。セコい!)。
追記:実写映画版の感想を、主に原作からの改変点について書きました。