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映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け(2022)」感想|ワインスタイン報道に尽力したジャーナリストたちの手記を映画化

ご無沙汰しております。ようやくあれこれ落ち着いてきて、元日ぶりに映画館へ行きました。何にしようか迷ったのですが、どっぷり入り込みたい気持ちだったので『SHE SAID/シー・セッド その名を暴け』をセレクト。


映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」本国版ポスター
映画「SHE SAID/シー・セッド その名を暴け」本国版ポスター


大物映画プロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが長年にわたり多くの女性たちに性的暴行・嫌がらせをしてきたことへの告発=「ワインスタイン報道」を扱った作品で、調査報道に尽力したニューヨーク・タイムズ紙の記者たちによる手記「その名を暴け: #MeTooに火をつけたジャーナリストたちの闘い(原題『SHE SAID』)」を原作としています。

この本、TBSラジオアフター6ジャンクション」で特集されていたこともあり刊行タイミングで購入し読んでおりまして、映画化が発表された際には、非常にデリケートな問題を扱ったあの本を??と不安も覚えました。

ただ蓋を開けてみるとその点は考え抜かれていて、性的暴行そのもののシーンやワインスタインの姿はほぼ出てきませんし、過度にドラマを盛り上げるような演出もなく(それでいて劇伴は絶品!)、もう本当に「本を読んでいたときの感覚」をそのまま映像化したような作品となっていました。登場人物の多い手記なので、人物がビジュアルで見えるメリットは大きかったですね。

本作、映画でも本でもよいのですけど、とにかくこの「SHE SAID」に触れていただきたいのは、「〈#MeToo運動〉ってなんかモヤるんですけど」という人、特に男性です。かつてのわたしもその一人で、Twitterハッシュタグ#MeTooが散見されるようになってから一部の「フェミニスト」に対する警戒心が生まれてしまったことは否めません。

実際のところ、過激すぎる〈#MeToo運動〉もあると思います。しかし、そもそもの〈#MeToo〉がどういった経緯で、どれほどの年月をかけて生まれるに至ったか。それは非常に大切な話です。本作の、とてつもない切れ味の幕引きで滾った直後に見る〈#MeToo〉の文字は、きっと涙が出るほどの感情をもたらすはず。

当然、ジャーナリズム映画としても抜群におもしろいです。原作の共著者であるミーガン・トゥーイーとジョディ・カンターを演じたキャリー・マリガンとゾーイ・カザン、二人のバディ感がもう最高で、なかでもキャリー・マリガンの格好良さったら。いや最初はね、養分吸い取られた感じで出てくるんですよ。でもみるみる覇気に溢れていって、どんどん頭身も上がっていくような気がする。この人こんなにパンツルック似合うんだ。

前述した「とてつもない切れ味の幕引き」も本当に気持ちよくて。輪転機を通さないウェブメディアの「味気なさ」をあそこまでエキサイティングに演出できるか?!と最後の最後で大興奮。また、あの「読み返す」シーンも最高なんですよね。よく聞くと深めの鼻息が聞こえてくるの。で、実際わたしも同じような鼻呼吸しながら観ていて。だよね、そのシチュエーションにはその呼吸だよね。

頻繁に登場するニューヨーク・タイムズのカフェテリアを見て、先日まで放送していたドラマ『エルピス —希望、あるいは災い—』を連想した人も一定数いるのでは。フェアネスな描き方含め、日本のドラマが対等に張れているなあと嬉しくなりました。

などなど、大枠としては『大統領の陰謀』『ペンタゴン・ペーパーズ』『スポットライト』といったジャーナリズム映画の系譜にある作品ですので、そのあたりの映画がお好きな方はまず間違いなく刺さるはず。そして得るものも多いはず。ぜひ映画館の集中できる環境でご覧ください。

(2023年27本目/劇場鑑賞)