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主に映画の感想文を書いています

是枝裕和監督作品「真実(2019)」雑感

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是枝裕和監督の最新作、なんとなく気になっていたので観てきました。

日仏合作ということですが、なんたってカトリーヌ・ドヌーヴジュリエット・ビノシュのダブル主演です。凄すぎませんか。

正直なところ、「日本映画もちゃんと観ないとな…」「手始めに、少なくともドヌーヴとビノシュを見れるこれにしよう」くらいの気持ちで選んだ本作。どっこい蓋を開けてみれば完全にフランス映画だったし、予告編からは予想できないような展開を見せるし、何より、すごく良かったです。本当にいい映画でした。やっぱり映画ってのは観てみないとわからないものだな、と久々に痛感しました。

以降、あらすじから内容にだいぶ触れますのでご注意ください。家族ものでハートウォーミングなのは間違いないけれど、結構意外な方向へいく映画ですよ。予告編動画を挟んで、ネタバレあらすじです(笑)


あらすじ

パリに住む大女優ファビエンヌカトリーヌ・ドヌーヴは『真実』と題した自伝を出版。そのお祝いも兼ねて娘家族がニューヨークから訪ねて来たが、娘リュミールジュリエット・ビノシュファビエンヌの間には長年の確執があり、ましてや自伝に書かれた母娘の関係はデタラメもいいところ。今回の滞在も衝突の絶えないものとなりそうだ。

ファビエンヌは映画の撮影中だった。地球を離れて療養生活中の母親と、地球に残された娘のSF物語。宇宙では不老だという母親が娘と面会できるのは7年おき。皮肉にも娘は歳をとっていき、母の年齢を越す。ファビエンヌが演じるのは73歳になった娘の役で、母親役は新鋭女優のマノンが全編演じる。

マノンはとある往年の名女優の再来と言われていた。そして実はその名女優こそが、ファビエンヌとリュミールの間に走る大きな亀裂の要因となっていたのだ。しかし彼女の名前は自伝に一切登場していない。マノンとの仕事を通し、少しずつ母娘の「真実」が溶け出てくる。

かなり真面目にあらすじを書いてしまいました。あまりにもいい映画だったもので、きっと感想をうまく文章化できないだろうという弱気の姿勢でとりあえずあらすじだけでもしっかりと。

導入部

青味がかった、被写界深度の深い映像。舞台は秋のパリ、しかし過度に美しく見せようとはせず、あくまで日常的な空気感。ギシギシと、床板の音が生々しく響く。テラスで何かのインタビューを受けているファビエンヌ。耳慣れないフランス語特有の発音が、初めて「シェルブールの雨傘(1964)」を観たときの感覚を思い起こさせる-。

そんな導入部から受ける印象は、是枝監督の作品だということを忘れてしまうほど完全にフランス映画そのもの。かくして、「日本映画を観よう」という本来の目的は果たせなかったのでした。

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ちなみにわたくし、是枝監督の作品は「海街diary(2015)」以外未見です。あれは素晴らしかった。その後「万引き家族(2018)」は重そうでなんとなくスルーしてしまい、そのまま。遅ればせながら過去作コンプリートしなくてはという気持ちになっております。邦画は「なんとなくスルー」してしまう率が極めて高い…。猛反省。

不在の中心人物『サラ』

本作で非常に印象的なのが「サラ」という人物。それぞれの登場人物にとって共通した大きな存在であるこのサラは、語られるのみで一度も姿が出てきません。どうやら故人でありながら、写真すら映らないのです。

ファビエンヌの告白から推測するに、彼女が自伝にサラのことを書かなかったのは、サラのいない世界を作り上げたかったから。彼女はサラに嫉妬していました。サラのいない世界なら、娘に素直な愛情を注げていたに違いない。そんな「真実」を作ったのでしょう。

執拗に「見せない」見せ方をしてきたぶん、終盤、とある方法を使ってサラが実体化するシーンではかなり不思議な気分にさせられました。長い間サラから目を背けてきたファビエンヌはこのとき初めて能動的にサラと向き合い、「実体化したサラ」はそのままの姿でファビエンヌの家を出て行きます。成仏したのかも、と思いました。

撮影所

「意外な展開」と思ったのがこの撮影所のくだり。密室劇のように進んでいくのかと思いきや、舞台はファビエンヌの仕事場である撮影所へとたびたび移動します。カメラに照明、家屋のセットとグリーンスクリーン。内幕もの大好きマンのわたしとしては「あれっ」と、よだれが垂れてきてしまう展開です。

ここで撮影される映画が、本作の「劇中劇」となります。劇中劇と重なるかたちで物語が進んでいく様は、記憶に新しい「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)」を思わせるじゃありませんか。まさかこの作品で「ワンハリ」に繋がるとは思ってもいなかった…。

劇中劇の概要はあらすじに書いた通りどことなくB級の香り漂うSFもので、そのマッチングがなんとも絶妙。内容は違うけれど、観たことのある数少ないSFノワールアルファヴィル(1965)」なんかを連想しました。独特な雰囲気作りに間違いなく貢献しているのは「主演女優役」のやはり新進気鋭女優マノン・クラヴェルさん。またどこかのスクリーンでお会いしたいです。

カトリーヌ・ドヌーヴ

映画評論家の町山智浩さんですら「カトリーヌ・ドヌーヴ樹木希林にしか見えない!」とかいう見たまんまなコメントを付けてしまうほどの、いや、でも実際このドヌーヴ、希林さんですよね…っていうドヌーヴ。

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ドヌーヴは、わたしが映画を沢山観るようになった初期にちょうど「シェルブールの雨傘(1964)」や「ロシュフォールの恋人たち(1967)」を観ていたので馴染みがありました。でもそこ止まり。言わんとしていることはお分かりですね。樹木希林じゃなかった頃のドヌーヴしか知らないわけです。

厳密には、思い返してみれば「ダンサー・イン・ザ・ダーク(2000)」「8人の女たち(2002)」など、お歳を召してきてからのドヌーヴも見ているようですが、主演ではない。へえ、ドヌーヴだったんだ…(以下自主規制)、で済むポジション。

しかし今回は主演ですから。目をそらさずにはいられない。がっかりしちゃうんじゃないかと思ったりもしたけど、杞憂でした。昔は可愛かった女優、「もう死んだっけ?」枠の女優(※これはドヌーヴの台詞です)というような認識から、「現役女優」にアップデートできました。スクリーンで見れてよかった、現役のドヌーヴ。

印象的な場面がひとつ。ファビエンヌがある朝ほんの一瞬だけ神々しく、光のオーラをまとっているように見えるシーンがあって。気のせいかなと思ったら、イーサン・ホークが「今なんかお義母さんめっちゃ綺麗だったよ」みたいなことを言って。意図的に光のオーラをまとえる女優、すげー!と感動したのでした。あ、イーサン・ホークもめっちゃいいパパ役で最高ですよ(笑)

ジュリエット・ビノシュ

本作はもう、ジュリエット・ビノシュが素敵で素敵で。ビノシュって多分それこそ「ポンヌフの恋人(1991)」くらいでしか主演級では観たことがないんですが、あの映画って基本暗くて汚いじゃないですか。どんな顔してるのかもいまいち分からないわけですよ。だから印象がなくて。

それが今回、うわーこんなに素敵な人だったのかビノシュ!!とですね、もはやカルチャーショックの域でした。格好良いんですよね。肩のカッチリしたジャケットがよく似合って。レイチェル・ワイズあたりとも通じる怪訝な目つき、強い感じ。

現在55歳とのことですが、ウェービーな髪型も飾らない服装もよく似合っていて、とにかくお若い。超理想的な年齢の重ね方をされてます。過去作、近年の作品、ともに観てみたいと思いました。

ちなみに本作の企画はビノシュが是枝監督に「何か一緒にやりましょうよ」と声をかけたことから始まっているそう。そんな間柄だったんですね、すごいですね。是枝監督の海外制作作品も、これからもっと観てみたいです。

今回の掘り出し物といえば、ビノシュの娘役でありドヌーヴの孫役、シャルロットを演じたクレモンティーヌグルニエさん、ちゃん? 演じてる感がなくてただただ可愛い。めちゃくちゃ可愛い。でもなんと演技未経験の超新人。これ一作で終わりにするのか、女優の仕事を続けてみるのか。続けてみてほしい。そしてドヌーヴのDNAを受け継いだたった一人の女優になってほしい(笑)

「記憶は当てにならない」「真実はつまらない」そんな言葉がたびたび聞こえてきた本作ですが、終盤シャルロットは「記憶という真実」を“魔法”で作り出します。その反面で彼女は写真がお好き。家族みんなで見上げた綺麗な秋の空を、記憶だけでなくフィルムにも残しておきます。この一家の今後がいい意味で気になる、後味爽やかな幕引きです。

というわけで、きりのない感想文もこのへんで。「なんとなくスルー」しなくて本当によかったです。素晴らしい映画でした!

(2019年118本目/劇場鑑賞)

上記「アトロク」のゲスト出演回や、各種サイトで公開されているインタビューなど、どれも是枝監督のお話が興味深かったです。制作の舞台裏を書いた「こんな雨の日に」も読んでみたいと思いました。