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「ワンダフルライフ(1999)」雑感

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是枝裕和監督の著書「映画を撮りながら考えたこと」に書かれたエピソードを参照しつつ、順番に是枝作品を観ていく企画?です。今回は2作目「ワンダフルライフ」。犬の話ではありません。

映画を撮りながら考えたこと

映画を撮りながら考えたこと


あらすじ

人は死ぬと、天国へ行く前にある施設を訪れるという。故人はそこで一週間を過ごし、自分の人生を振り返って「大切な想い出をひとつだけ」選ばなければならない。選ばれた想い出は職員たちの手で「再現映像」として撮影され、最終日の上映会で披露される。それを観て心が満たされた時、彼らは想い出だけを胸に天国へと旅立っていくのだ。月曜日、今週も22人の故人たちが施設の門をくぐった。

雑感

これはかなり好きなタイプのファンタジー作品でした。ルックスは全くの地続きなのに設定だけぶっとんでいるお話が好きなんです。というと真っ先に連想したのが、ヨルゴス・ランティモス監督の「ロブスター(2015)」。

自分の感想文から引用すると 「独り身が45日間続くと動物にされちゃう近未来のお話」 「つまるところ『強制婚活所』であるホテルに収容された独り身たちは入所した日から45日間の人間寿命を与えられ、配偶者が見つからないまま残り0日になると人間の資格を剥奪され、希望した動物へと変えられてしま(う)」 ということで、かなり雰囲気似てます。

本作での時間制限は7日間。廃校をそのまま使っているような施設。記憶の映像化を経て正式に「死ぬ」ことができるシステム。「ロブスター」でも、タイムアウトした利用者が最期の1日を自由に過ごしたのち動物になってしまう不思議な切なさのシーンがありましたが、あの感じに似てるなあと思いましたね。

またこれは未見(日本語版が流通していない)なのであくまでイメージ止まりですが、同じくヨルゴス・ランティモス作品で「アルプス(2011)」というのがあって、こちらは遺族に対し「故人になり切って」接する福祉サービスみたいな、そんな話らしいです。「ロブスター」と「アルプス」を合わせると「ワンダフルライフ」になるような気がします。国内よりも海外での評価がより高い作品とのことで、ヨルゴス・ランティモス監督も観てたりするかもしれません。

映画前半は、定点バストアップで故人たちが自分の記憶と向き合う、ドキュメンタリー色の強い映像になっています。ここに登場する「故人たち」の大半は役者ではなく一般人。制作にあたってなんと約600名ぶんの街頭インタビューを集めたそうで、そこから厳選した20名ほどが本作に出演しているということになります。なので語られる「想い出」は、基本実話。ドキュメンタリック!

後半からはいきなり本格的な「撮影」が始まるのですが、「いきなりセットに飛ぶの?!」っていうこの感じはまさに是枝監督の最新作「真実(2019)」の劇中劇シーンを思わせます。それだけでなく本作自体が「真実」と同じく「記憶と向き合うなかで真実が見えてくる」「作られた記憶はときに真実となりうる」的なテーマを持っているので、かなり通じてくるんですよね。おもしろいなあと。

ちなみに、この撮影内幕シーンはあくまでオマケで、本来は「再現映像」そのものを劇中に組み込むつもりだったそうです。が、撮影の山崎裕さんが内幕をおもしろがってずっと撮り続けていたことから方向性を変えたのだとか。最終的に「再現映像」そのものは登場しなくなりました。のちに是枝作品の特徴になっていくと思われる「肝心なものを、視線の先を『見せない』」手法はこのあたりから始まったのかもしれません。

ヨルゴス・ランティモス作品に通じるような世界観を堪能できるのはもちろん、本作がずっと投げかけている「あなたの人生にとっていちばん大切な想い出はなんですか」という考えごたえのある問いもまた深く、様々な面から楽しめる映画でした。

(2019年138本目)

ワンダフルライフ [Blu-ray]

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PrimeVideoの会員特典で観れます(なんかリンクうまく出ないので載せてません)。意外な人がたくさん出ていて、後からびっくり。谷啓さんがちゃっかりトロンボーン吹いてるの、好きです。