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「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト(1968)」2時間45分オリジナル版

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概要

日本では「ウエスタン」のタイトルで1969年に公開されたセルジオ・レオーネ監督作品。公開から50年が経った今年、当時カットされていた20分を復活させた2時間45分のオリジナル版が、タイトルを「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」と原題に戻して日本初公開。

「この映画を見て映画監督になろうと思った」

クエンティン・タランティーノ監督の、最近すっかり有名な言葉。というのも、劇場によっては「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(2019)」の上映前に本作の予告編を流していて、そのなかでこの言葉が出てきたから。なかなか胸熱で、ニクい演出でした。あの予告を見て本作を観ようと思った人は多いんじゃないでしょうか。

レオーネ監督、マカロニ・ウェスタンの巨匠というイメージがありますが、この頃から晩年まではあまり評価されていなかったそう。その風潮を変えた人物の筆頭が、ことあるごとに上記の言葉を添えて本作をリスペクトしまくってきたタランティーノ監督だというのだからオタクの鑑です。なんとなく星野源細野晴臣リスペクトっぽい。

わたしはといえば、とにかく「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984」が好きなので、「ワンス・アポン・ア・タイム」シリーズならなんでも観たいという単純な気持ちと、予告で初めて聴いたモリコーネのテーマ曲をもっと聴きたいという気持ちで劇場へ行きました。「ウエスタン」含め初見です。


駅での長い長いオープニングシーン。一触即発な空気のなか、風車がきしみ、水が滴り、男の顔にはハエがまとわりついて、重く鋭い金属音を立てながら汽車が到着するも、まだ何も起きない。と、その時!!

この展開を観たとき真っ先に思ったのはタランティーノだ…」でした。タランティーノお得意の「引き伸ばして引き伸ばして…バン!!!」は西部劇の手法だったのかと妙に納得がいきました。

他にもこのシーンでは、駅で働く女性を逃がしてやる場面の構図が「イングロリアス・バスターズ(2009)」の第1章ラスト「達者でな!ショシャナ!」と完全に一致していたり、とにかくタランティーノの原点が詰まった映画という感じがしました。

2時間45分と長尺の映画ですが、そうテンポよく進むわけでもありません。どちらかというと時間の使い方は贅沢。眠くなるようなシーンも多々。でもそんなところでハッとさせてくれるのが、モリコーネの音楽。

やっぱりこのテーマ曲を聴きたかったので、最初に聴こえてきたときはゾクッとしました。達観した気持ちになるスケール感は「〜イン・アメリカ」のテーマとよく似ていますが、こちらのほうがより琴線に触れ自分の中に入り込んでくるような気がするのは、冒頭数小節のカノン進行が効いているのかもしれません。日本人が弱いやつ。

ちょっと眠くなってきたなというところでこの曲が流れると、穏やかな曲調なのに不思議と眠気は覚め、次の給水ポイントまでシャキッと観るぞ、と心が改まります(でもまた眠くはなる)。

モリコーネの情緒系劇伴は内容どうあれ強引にねじ伏せてくるんですよね。ああ…もう…素晴らしいシーンだこれは…と脳が勝手に判断してしまう。こういう音楽を映画館で没入して聴くのは得難い体験です。

あと、チャールズ・ブロンソン*1演じる「ハーモニカ野郎」のテーマ曲。なんともいけ好かないキャラ&演出ですが、ちゃんと「理由」もあるのがおもしろい。だんだん状況把握ができていくあの「理由」のシーンはかなりエグいです。

キャラクターを象徴づけるアイテムと音楽の密接した関係というと、「〜イン・アメリカ」のパンフルートがまさに同じ。辿ればマカロニ時代の口笛もそんな感じでしょうか。イーストウッドが口笛吹いてたかどうか覚えてはいないですけども。

ときは西部開拓時代。ヒロインの夫となる予定だった男は、鉄道事業で一儲けするべく購入していた土地を狙われ、序盤であっけなく殺されてしまいます。アイルランド移民という設定になっているこの男、そういえば「風と共に去りぬ(1939)」のオハラ家もアイルランド移民の一家でした。観終わった後味が「風と共に去りぬ」のそれとよく似ているように思えたのはもっともなのかもしれません。

本作のヒロインであるジルは、スカーレット・オハラと違って口数もあまり多くなく、愛想も全く振りまかないのですが、いつしか多少は通じ合えたかなと思えてくる不思議な人物。ラストシーン、労働者たちに休憩を呼び掛ける彼女を見ながらちょっとよくわからないほど涙が出てきてしまい、ああ感情移入できてたんだと。すぐにエンドロールなので目を乾かすのに必死でした。

西部の赤土で汚れたブラックドレスは、やはりスカーレット・オハラの不服ながら喪に服した装いを連想したりして。タイプは違えど、黒の似合う毅然とした未亡人たち。好きです。

この頃って女優さんのアイメイクが濃い時代だと思ってて、エリザベス・テイラーだとか、オードリー・ヘプバーンですらそうでしたし、晩年のマリリン・モンローもそうだったはず。古臭く見えてあんまり好みではない。

ジルを演じるクラウディア・カルディナーレもばっちし濃いんですが(時代考証的なものなのかは、知らない)、キャラクターとのバランスが取れているのか、ぎりぎり魅力的に見えるので今回はセーフ。他の作品、特に本作の下敷きとなったらしい「山猫(1963)」を観てみたいけれど、観る手段がなさそう。ううむ。最近リバイバル上映してたんですよね…。

といったところで。観てよかったと思える2時間45分でした。何度も言うようですが「風と共に去りぬ」的な余韻がすごくて*2、しばらくは引きずっちゃいました。上映館は少ないですがぜひ劇場で「かつての西部」を、そしてモリコーネの音楽を味わっていただきたい作品です。

スクリーンならではの体験としては、あまりに雄大なモニュメント・バレーのシーンもおすすめ! よく観る景色ながら、行ってみたいと初めて思いました。

(2019年107本目/劇場鑑賞)

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*1:大脱走(1963)」を観たばかりなので「いつトンネル掘るんだろう」と思いながら観てしまった。

*2:やたら例に出しているのは、映画館で今年観ていて記憶が新しいからです(風と共に去りぬ(1939)/19.06.02【町山智浩氏が語る20世紀名作映画講座】にて - 353log)。