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主に映画の感想文を書いています

「アド・アストラ(2019)」雑感

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もともと予告編の時点では「うわなんかつまんなそう」と思っていて。

ただ、試写の感想で「思ってたのと全然違う」「例えるなら『2001年宇宙の旅』的な」みたいなのを見かけたことで、そんなら観てみようかなと。ちょうど「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」でブラピ熱も上がったところですし!

予告編からは想像できない硬派な宇宙映画

よくあの本編からあの予告編を作れたな!と思ってしまうような映画でした(笑) 三ヶ月前公開の予告編は、今見るとかなり本編未使用のシーンがありますね。人間ドラマを削ぎ落とした感じかな。


帰り道で若い子たちが「ていうかどうしよう! Twitterに『映画めっちゃ楽しみ!』とか書いちゃったんだけど!」なんて言ってて、確かにそういう映画じゃなかったよねと少し同情。エンタメ超大作を期待して行くと裏切られる作品となっております。わたしが鑑賞直後に書いたツイートはこんなの。


なんですかね、やっぱりその、確かに「2001年宇宙の旅(1968)」的なというか、普通にストーリーのある映画かなと思って観てたらだんだん「あれ…?」みたいな、未知の領域に連れて行かれてそのまんまみたいな、そういう系なんですよね。

で、ものすごい静かなんですよ。宇宙という場所の静けさ、孤独さ、怖さ、遠さ、みたいなものを全身で体感させられて、劇場の中でひとり、耳鳴りしか聞こえないような。そういう映画になっていくんですよ。ポップコーン食べれないんじゃないかな。

なので、ぼうっとした気分には当然なるんですけど、退屈で眠いっていうのとはまた違って、宇宙船で睡眠カプセルに入ったらこんな感じなのかなみたいな、経験できるものだとリラクゼーション系プラネタリウムとか、より庶民的にするとスーパー銭湯の仮眠室とか、そういう感じです。「そういう」使いすぎや。

かといってひたすら無音をたゆたうのかというとそうでもなくて、「2001年〜」で光と闇の濃淡が100:0だったようにアクセントは随所にあります。ばっちり目の覚めるようなものも数箇所あります。寝不足でなければ最後まで一応起きてはいられるように作ってあると思う。無音でも土星がどーん!!されるとうわあ!!ってなるし、音が出たら出たですごいし。

絶妙な近未来描写もおもしろいです。あ、月くらいはそこそこカジュアルに行ける時代なんだ、ていうか月そんなとこなんだ(笑) みたいなのとか。ブラッド・ピット演じる主人公が度々受けてる診断システムは「ブレード・ランナー(1982)」でレプリカントが受けるテストを思わせたり。

それで言うと「2001年〜」だけでなく全体的に「ブレード・ランナー」みはありますね。ヴァンゲリスの音楽を流したくなります。声に出して言いたい撮影監督第一位ホイテ・ヴァン・ホイテマさんのお仕事なので「インターステラー(2014)」「ダンケルク(2017)」みもあると思います。流すのはハンス・ジマーの音楽でもいい。

余談ですが「アド・アストラ」は「星々へ/天界へ」みたいな意味だそう。で、これは先日「大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯(感想記事)」を読んで知ったことですが、イギリス空軍のモットー(少なくとも第二次大戦当時)は「ベル・アルドウア・アド・アストラ〈逆境を越えて栄光へ〉」だったとか。「ダンケルク」繋がりの豆知識でした。

さて、ブラピの太陽系ひとり旅、最終的には水金地火木土天冥海、端っこ海王星までやってきて、たったひとり。「地球に帰りたい」の重み。「オデッセイ(2015)」の比じゃありませんよ。そんな簡単に帰れるもんかいとか思いつつ、愛しき地球の地表が見えてきたときの帰ってきた感は、なかなか得難い映画体験でした。

寝たくても寝れない緊張感から解放されたエンドロール。リラクゼーション効果抜群の音楽が流れるなか、今度こそ寝れるぞってんで3曲分ほど存分に目をつぶって、ふうっ…と席を立ち、ぼんやりふらふらと劇場を出る。ロビーが眩しい。重力に脚が負ける。どれほどの年月が経ったのだろう(2時間)。こちらもやはり、得難い映画体験でした。

繰り返しになりますけど、あの静けさ、孤独さ、遠さ、怖さ、これが宇宙か………っていう体験。なかなかできるもんじゃないと思いますし、自宅鑑賞では得られない感覚とも思いますので、ご興味のある方は劇場でやってるうちに観に行かれるのがおすすめです。平日レイトショーあたりで観るのが多分適してるんじゃないでしょうか。休日の昼とかに観るのはあまりおすすめしません(笑)

(2019年102本目/劇場鑑賞) 何でもかんでも「大ヒット上映中!」って付けるのやめようぜ。