2023年1本目、原恵一監督の劇場用アニメーション作品『かがみの孤城』を最寄りシネコンにて観てきました。先に言う。これ数日前に観てたら番狂わせだったし、年を跨いだところで今年のベストに残っている可能性が大。めちゃめちゃ、良かったです。
本作、もとは全然観る気がなくてですね。予告を見るたび、絵もお話もチープそうだな〜ぐらいに思っていたほど。原作は辻村深月さんの小説なのですけど、本読みではないので内容も全く知らず。
しかし結構いろんなところでいい評判を聞くし、ムービーウォッチメンの新年一発目に決まったり、アトロクでお馴染みの人気覆面ブロガー三角絞めさんが最後の最後で本作がベストに躍り出たと書かれていたり、こりゃスルーはできなさそうだなと。映画初め、なるべくなら手堅い作品を観たいわたしとしては、その点でも機運が高まっており観るに至ったのでした。
で、そんなことはいいんだ、感想だ。これ、ほんとにねえ……、すごかったです……。予告編で見る印象と、たぶん全く違います。抑えて抑えて、静かで優しくて温かくて繊細で、泣けてくるくらい居心地がよくて、そんな映画なんです。
ただ、扱っている内容は全然温かくないですよ。ざっくり言えば、不登校になってしまった子どもたちのお話で、異世界フリースクールもの、みたいな感じなんです。なので、結構過激な「いじめ」や「虐待」の描写なんかも出てきます。絵柄が可愛いぶん、ぎょっとするようなギャップが多々あります。
しかしそれでも本作は優しく温かい、包み込むような映画だったなと思えます。カウンセリング映画、セラピー映画と呼んでもよいでしょう。大人も子どもも、この映画で救われる人はものすごくいっぱいいるはず。わいわいがやがや入ってきて、気付いたらポップコーン食べる手が止まっててほしい。実際今日はそんな感じだった気がする。
少し難を言うならば、中盤過ぎくらいまでがとにかく抑えた抑えた静の演出だっただけに、終盤の展開はこの映画にしてはちょっと盛り上げすぎじゃないの、凡庸になってない?と思ったりもしたのですが、いかんせんわたし結構な序盤から不意にぼろぼろ泣いていて。あんなに泣かされた以上、最後にケチつけたところで何も評価は変わらないというか、完敗!完敗です!って感じなんで、まあもう、そのへんはいいです。
そんなわけで、全く本作を知らなかったという方はもちろん、予告編で見かけつつもスルーしようとしていた方にも、これはとってもおすすめしたい一本となりました。「こんな映画だったんだ」って息を呑んでほしい。ぜひ年の初めに映画館で、どうぞ。
はみ出しあれこれ
キャラクターのビジュアルが予告だとすごくのっぺりして見えたのだけど、実際スクリーンでじっくり見てみると繊細に描き込まれていてとても魅力的だった。特に瞳が、やばい。とある家庭訪問のシーンでわたしの瞳も死にました。
そのシーンで流れていた劇伴が確かこの曲。いや、オーボエの音色で嗚咽状態だったのを覚えているので確実にこの曲。これは反則です。こういう静かな劇伴って結構珍しいと思うし、本作はこの静けさがほぼ全編通して続くことが大きな魅力なので、音楽の富貴晴美さん超GJです。今の朝ドラ『舞いあがれ!』も富貴さんだけど、だいぶ印象が違う。
いま書きながらサントラ聴いてて、わたし的には劇伴が一番の魅力だったのかもと思ったりした。終盤の違和感を覚えた「演出」ってどれもそういえば「劇伴」だったなと。なぜそのセンシティブなシーンでそのギターなんだ、とか、ここにきて四つ打ち入るの抵抗あるなあ、そのハンドクラップは否応なしに新海誠感が出てしまうぞ……とか(お上からの要望があったのかもしれないが)。願いが一つ叶うならば、終盤まで抑えに抑えたバージョンを観たいです。
一応の主人公である「こころ」のキャラクター造形が絶妙。間違いなく地味で控えめな女の子なのだけど、間違いなくヒロイン的魅力の片鱗があって、それがどんどん増してきて、最終的にちょっと尋常でないくらい惹き込まれてしまう。彼女の行動で好きなのは、終盤「階段」のシーン。普通「あのテの階段」って怖さなんか忘れて駆け上がるものでしょ。あんな慎重に一歩一歩踏み出していくヒロイン初めて見たわ。
「城」の居心地の良さと、現実とのギャップ。『ソードアート・オンライン』シリーズをすごく連想した。というか異世界ものってみんなこういう感じなのかな、好きなんだろうな異世界ものが、わたし。
音声ガイド、おすすめです(公式詳細)。初見でも深い作品理解がしやすくなり、特に終盤はガイドの情報がかなり助かります。使い方は、スマホに「HELLO! MOVIE」アプリを入れて、本作の音声ガイドデータを事前にDLし、アプリの画面を開いたままマナーモード&機内モードにしてイヤホン(片耳がベター)を付けるだけ。スマホのマイクが映画本編の音を認識し、自動的に映像とリンクしたガイド音声が流れてきます。
これきっと、2回目以降の鑑賞はかなり違った感想を抱きそう。特に一番最初のベッドのシーンとか絶対やばいでしょ。もうあんまり泣きたくないし観たくないんだけど、でも観たいなあ。
ちなみにこの日、余韻消したくないよう帰りたいようとうれしい悲鳴をあげながら『窓辺にて』と『そばかす』の計3本を観ました。どれもよかった。三者三様に「生きやすくなる映画」だった。近いうち書きます。書きました。
(2023年1本目/劇場鑑賞)
原作も読みたい。