大脱走 英雄〈ビッグX〉の生涯(サイモン・ピアソン 著/吉井智津 訳)

- 作者: サイモンピアソン,Simon Pearson,吉井智津
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/12/05
- メディア: 文庫
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劇中での名はロジャー・バートレットですが、モデルとなった人物の名はロジャー・ブッシェルといいます。ロジャーは実際に「大脱走」を指揮し数多くの功績を残すも、33際の若さでゲシュタポに命を奪われました。ジャーナリストである著者は幼い頃から映画「大脱走」に親しんでおり、第二次大戦下の英雄であるはずの彼について詳細に記した文献がないことを不思議に思って本書の執筆に取り掛かります。
映画の中でマックイーン演じるヒルツと並んで存在感を放っている“ロジャー・バートレット”(リチャード・アッテンボロー)。彼は他のキャラクターより少し遅れて収容所に到着し、ただならぬ気迫で「大脱走」計画を立ち上げますが、そこに至るまでの“ロジャー”はどんな経験をしてきたのでしょうか。何があそこまで彼を燃え立たせたのでしょうか。目元にある傷のわけは? 本書を読むとそんなバックストーリーを知ることができます。
約600ページある本書が「大脱走」に差し掛かるのはなんと450ページほどを過ぎてから。それもそのはずというか、多少の脚色こそあれど映画は概ね史実どおりに作られていますから、ロジャーが収容所に到着してから生涯を終えるまでは基本「映画どおり」なんですよね。
ではそれ以前の部分で彼がどんな人生を送ってきたのか。どんな家庭に生まれどのように育ち、どんな趣味を持ってどんな経緯で軍に入り、どんな戦争を体験しながら映画冒頭の登場シーンに至ったのか。3分の2以上がそれらのことに費やされた本書を読んでからあの登場シーンを観ると、開始早々駆け寄って抱きしめたくなってしまうこと必至です。
フィクション顔負けの人生
得てして「事実は小説より奇なり」なわけですが、ロジャー・ブッシェルもまたその数奇なひとり。例えば、彼が最初にドイツ軍の捕虜となった経緯は映画「ダンケルク(2017)」のラストシーンと重なっていたり。

- 発売日: 2017/11/10
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これを知ったとき、あの人が収容所に入れられて「大脱走」を起こす話なのか!!とたいそう驚きました(一応、「あの人」ではないですけどね)。
また、本書と併せてフォロワーさんからおすすめされた映画「ハイドリヒを撃て!」を事前に観ていたことも、驚きの体験をもたらしてくれました。以下どさくさ紛れの鑑賞記録、2019年94本目(PrimeVideoを貼りましたがNetflixにも入ってます)。
ハイドリヒを撃て! 「ナチの野獣」暗殺作戦(2016)

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ハイドリヒの殺害には成功しますが(ナチス高官の暗殺計画で唯一成功したものだそう。なおハイドリヒはヒトラー、ヒムラーに次ぐ「ナンバー3」だった)、実行者たちが最後に身を潜めた聖ツィリル・メトデイ正教大聖堂で惨劇が起きます。
史実上「墓場」となる場所へ主人公たちが来てしまった時の締め付けられる思いはノンフィクション作品特有のもの。実際にその地を訪れた経験がある人のそうした感想を鑑賞後に読んで、史実ベースの映画作品というのはエンタメ的かどうかに関わらずその部分に最も心を揺さぶるものがあるんだよなと思いました。「大脱走」鑑賞のきっかけである「ワンハリ」しかり。
で、さて、時代背景以外あんまりロジャー・ブッシェルと交差することのなさそうなこの話ですが、一体どんなふうに関係してくるのでしょう。これはすごいです。読んでいると特に、この状況で交差しないでしょと思えてくるので余計です。事実は小説より奇なり。フィクションのような生涯を送る人がいるのだなあということです。
本書をより興味深く読めた理由に、ロジャーの没年が33歳で、わたしの年齢が33歳、というところがあります。同じ33年の使い方として、どうよ??と自問せざるを得ません。このタイミングで彼の人生を知ることができたのはちょっとした運命的なものだったりするかも。
それから、あまりにあっけない最期。積み重ねなんて関係なく人は死ぬんだよなと、改めて思いました。本書でいえば550ページかけて描かれてきた人生が、いきなりたった1行で終わるわけです。そんなもんなんですよね。
いきなりゲームオブスローンズ最終章のネタバレしますけど、
デナーリスのラストはノンフィクション的でわたし割と好きなんですよ。あのラストに非難轟々だった頃「いやいや人生そんなもんでしょ」って思ってたので、その気持ちが裏付けられたな、って。
妙な脱線をしましたが、発端から言えば映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」きっかけに「大脱走」を観て、本書を読んで「ダンケルク」や「ハイドリヒを撃て!」と繋がって、ちなみに「大脱走」主演のスティーブ・マックイーンはシャロン・テートらと親交があったことからあわやあの日マンソン・ファミリーに殺されていたかもしれなかった、みたいなぐるぐる感を味わっていたわけなので脱線もまた正規ルートです。よろしくどうぞ。