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主に映画の感想文を書いています

三十四丁目の奇蹟(1947)

素晴らしき哉、人生!(1946)」と並ぶアメリカの代表的なクリスマス映画、だそうです。あちらの方々は人生を通して数え切れないほど観る名作らしいので、クリスマス映画じゃないけど日本だとジブリ映画的ポジションなんでしょうか。それにしてもなぜわたしはこの時期にクリスマス映画を連続して観ているのか(笑)

あらすじ

ニューヨーク、マンハッタン34丁目。クリスマス商戦の始まりを告げるパレードに、ひげを蓄えた通りすがりの老人がサンタ役として急遽起用される。パレードを主催した百貨店メイシーズは老人を気に入り、引き続き店内での販促サンタとして正式に雇用する。あろうことか客に競合店のお得情報を教えるなどの型破りな対応を繰り広げる「サンタ」だったが、経営陣の困惑に反してメイシーズは「サービス重視の良心的な百貨店」として評価と収益を上げることになり、慌てた競合店も同様のキャンペーンを開始。奇しくも街は本来のクリスマス精神を取り戻した。

偉大な功績をあげた老人には唯一にして最大の難点があった。自らを本物のサンタクロースだと主張しているということである。診断を担当した医師は老人をいぶかしく思い、精神病院へ入れてしまう。すっかり人気者となった「サンタ」を救うべく、事態は裁判沙汰へと発展。サンタクロースの存在を証明するという前代未聞の法廷劇が始まった。

あらすじ書いてるだけでもおもしろいなあ〜となる、とてもよい映画でした。このお話、最終的には「サンタは実在する!閉廷!」となるのですが、かといってその老人が本当にサンタクロースだったかというとそうでもない、というおもしろい作りになっています。じつはファンタジー要素皆無の、現実的な映画なんです。

魅力的な登場人物

まず登場するのは、メイシーズの管理職である女性ドリス。彼女はパレードの責任者だったがために老人を雇用しますが、彼女自身は極度の現実主義者(シングルマザーであるところから理由が伺い知れます)であることからむしろ「サンタ嫌い」でした。

彼女の一人娘スーザン(なんと幼い頃のナタリー・ウッド)は、そんな母親の教育方針により全てを現実的に考えるよう教え込まれています。まだいくらでも夢を見ていられる幼い少女でありながら、おとぎ話は知らず、もちろんサンタなんて信じていません。

母娘の隣に住む独身の新人弁護士フレッドは、ドリスに好意を抱いており、かつ現実主義者に育て上げられようとしているスーザンを不憫に思う気持ちから妙案を思いつき、自宅を老人の居候先として提供します。また彼はのちに老人の裁判における弁護人を引き受けることになります。

母娘の家と弁護士の家を行き来するようになった老人(サンタクロースの別名「クリス・クリングル」と名乗る)は、スーザンに毎晩おやすみ前のお話をしてあげるようになり、次第に彼女も「夢見ること」「信じること」を覚えていきます。

本作のわかりやすいヴィランは、老人を精神病院へ送ろうとする医師のソーヤーのみ。検察側も判事も、サンタを実在のものとして認めるのはいぶかしすぎるが、かといって全否定したくもないという複雑な心持ちのなか審議を進めていくのがおもしろいところです。

現実的な落としどころ

先ほど書いたとおり、本作はファンタジー要素のない現実的な映画です。手詰まりかと思われたところで状況を覆したのは「その道の権威」であるところの子供たちが「裁判所のサンタさん宛て」に書いた応援の手紙じつに5万通。ここまでならファンタジーみのあるところですが、根拠となるのはそこではありません。それを実際に「裁判所のサンタ」へ配達してきたのは郵政省。郵政省はアメリカ合衆国の政府機関。ということは合衆国政府がこのおっちゃんをサンタとして認めたってことになるよ? という落としどころです。

ぶっちゃけこのセンシティブな「サンタ論争」から一刻も早く穏便に手を引きたかった検察官や判事は内心ホッとしたのでしょう(センシティブの方向が子供だけではなくビジネスや政治にもしっかり関わっているのがミソ)。加えてこの日はクリスマス・イヴ。早く帰ろうぜ!ということで「政府が認めたのならサンタは実在するんでしょ!閉廷!」と木槌を叩くのでした。


ただしまだ終わりません。もうひとつ、並行しているストーリーがあります。それは序盤でスーザンが「サンタってんだったらなんでも叶えてくれるんでしょ。おうち、このおうち欲しいわ。オモチャじゃないわよ本物よ。2階にはあたし用の部屋と、庭にはブランコ。お願いね!」と半ば挑発的にリクエストしたプレゼント「一戸建ての家」の件でした。

そのときスーザンが差し出したのは実際の売家のチラシ。このエピソードはうま〜くさりげな〜く、かつわかりやす〜く伏線が張られていて、「お、そう考えたか。いいね、俺もそれがいいと思うよ」「で、無事に裁判終わったから残るはあの件でしょ?」的に流れるような展開を見せてくれます。これがね〜〜〜全部予想がつくんだけど、ほんっとうに上手い!! キャラクターたちが口に出す情報量のさじ加減が絶・妙!!ですよ。ラストの台詞「あるいは、僕の手柄ではないのかも…?」も最高の後味ですね。

本筋とサブストーリー、どちらもあくまで現実的な方法で、かつファンタジー顔負けな多幸感でまとめあげている神懸かり的な本作。間違いなく名作でした!


なお1994年にリメイク版が公開されているのですが、聞くところによるとこちらは根底の覆されたファンタジー作になってしまっているらしく、オリジナルを観てからだと改悪感が強い、らしい、です。要は「奇跡」が起きちゃってるストーリーっぽいです。オリジナルは結局「奇跡」は起きてないのが良さなんですけどね。脚本にジョン・ヒューズが関わっているということで悪くなるはずなくない??という気もするのですけど、どれを観ようか迷ってる方はやはり1947年のオリジナルを選んでいただいたほうがいいかと思います。リメイク版未見なのでフェアじゃない意見です。あくまでご参考までに!

あともうひとつどうでもいい話。これの前に「ハドソン川の奇跡(2016)」を観たので「奇跡つながりだわ〜」なんて思ってたんですが、実際観てみると「ニューヨークが舞台の」「奇跡ではない」「法廷劇」という予想以上の共通点がありました。っていうだけです(笑)

(2018年102本目)