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劇場版エミリア・クラーク「ラスト・クリスマス(2019)」雑感

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ゲーム・オブ・スローンズ(以下GOT)』シリーズのデナーリスとして一躍有名になった女優エミリア・クラーク。彼女を初めて見たのは『ハン・ソロ/スター・ウォーズ・ストーリー(2018)』で*1、ずばり一目惚れしてしまい、それをきっかけに「あのエミリアが出てるなら…」ということでGOTなる高い壁を登り始めたのでした。

そしてGOTも完結した今、久しぶりにスクリーンでエミリアを拝めるチャンス到来です。撮影中のエルフなエミリアSNS等でずっと見てきたので、ようやく公開ですねという感じ。

あらすじ

クリスマスのロンドン。歌手を目指しながら雑貨屋で働くケイトエミリア・クラークは、ちかごろ公私ともに絶不調。そんな時、会ったこともなくタイプでもない青年トムヘンリー・ゴールディングが彼女の前に現れ、しきりにアプローチをかけてくる。はじめは軽くあしらっていたケイトだったが、いつしか彼になら心を許せるような気持ちになり──

祝・眉筋解放

内容はともかく、自由自在に顔面を動きまわる眉毛(ホラー)に「よかったね!」と思いました。いや、『ハン・ソロ』からの『GOT』というエミリア履修をしていたわたしは、初めて素の彼女を見たときびっくりしたわけですよ。何その眉毛と。

まあとにかく素の彼女は表情豊かで、その感情表現の多くを眉毛が担っているようなひとだったのです。対するデナーリス・ターガリエンはといえば、横一直線の眉毛ですよ。どこ見ても八の字眉毛は出てきませんよ。頑張ったんだな、って後からすごい思ったんですよね。まあ八の字になるような感情も出てこない役柄ではあったかもしれませんが、感情表現を抑えてスターになったエミリア・クラーク、満を持しての眉筋解放となるのが本作です。

で、内容は(ネタバレ含)

撮影のオフショットを見ながら、今時珍しいほどのトレンディドラマな予感だなと。タイトルしかり、絵面しかり、予想されるストーリーしかり、どう考えても流行らない映画なのではという気しかしなかったのですよ。

でも結構その、いい意味での予告編詐欺というものがありますから、もしかしたらトレンディドラマと見せかけてのサイコスリラーサスペンスかもしれない!という期待を抱いて、客層にびくつきながら初日レイトショー鑑賞してまいりました。案外お一人様だらけだった。よかった。

結果、まあサイコスリラーサスペンスではなかったです。むしろかなりライトなコメディーで、こんなテレビみたいなやつ映画館で観てるの逆に新鮮だなと、きょうび貴重な映画体験だなと妙に嬉しくなりました。前半の突き抜けコメディっぷりは、ほんといいですよ。エミリアの眉毛も絶好調です。

あと、意外性としてはエミリアが汚い(笑) 煌めくクリスマスのロンドンで、清々しいまでにゴミのような生活を送るエミリア・クラークが堪能できます。表情筋使いすぎてどえらいことになってる彼女を見ていると、どうも将来的にはシャーリー・マクレーンみたいなバタ臭いおばちゃんになるような気がしてきました。覚悟しておこう。

からの、超好青年というかプレイボーイ的な青年ヘンリー・ゴールディングが登場しての王道ラブコメ感、楽しいです。彼すごくいいですね。アジア系の顔立ちでありながら、あんなに嫌味のないプレイボーイ役は日本人じゃ難しいでしょうね。投げキッスのシーンはときめいちゃいました。

このまま最後までいっても別にいいなと思ったのですが、なかなか素性の見えない青年トムが引っかかるので何か起こるはず。折り返しを過ぎたあたりでケイトが心臓移植をしたということが分かり、おや、と。そして終盤で大オチ。なるほど、ありがちな展開ではあるけどうっかり不意を突かれてしまった…。

その前提で思い返すと、最初にトムが「全然タイプじゃないけど興味がある」といけ好かないアプローチをかけてきたのも納得だし、やたら大胆な「触ってもいい?」もわかるし、一気に切なさが襲ってきます。わあ、韓流っぽい。でも「上を見ろ!」ってそれ悲劇がループするだけでは(笑) まいっか。

他人のようだった自分の心臓とひとつになれたケイトは、生きてることの素晴らしさを噛み締めてボランティアの環を繋げ、おまけに歌手としてステージに立つこともできたのでした。おしまい。

ラストが惜しい

正直、終盤のご都合展開は「うん…」って感じで、観てるのしんどかったです。眩しいくらいのハッピーエンドって嫌いじゃないけれど、表情筋全開のエミリアがそれをやるとあまりにもハッピーでこっちが恥ずかしい(笑)

話が分かりやすくボランティア啓発の方向に切り替わって、しかも薄っぺらいのも、今時めずらしい。あんなに問題ありげだった家庭内は全解決したふうになってるし。心臓とのマッチングひとつでそんな変わんのかーい(そういえばエミリアあなた、馬の心臓食べ……)

ユーゴスラビア移民云々を強調したストーリーも、押し出してるわりにはあまり関係がないような…。これはわたしが全く知識がないので(調べようと思いながら観てたけど、調べる気がなくなってしまった)、分からないなりの印象になってしまいますが。

エミリアくも膜下出血など重病を患って生死をさまよった経験があると近年明かしており、「生きてるって素晴らしい」に着地する脚本はおそらくシンパシーを強く感じたのだろうと思います。ただやはり、少し踏み込んだテーマを扱おうとしているわりにはこのご時世に珍しいほど薄いなと感じてしまう作品でした。というか、最後の大団円がなければここまでモヤッとはしなかったかも。『素晴らしき哉、人生!(1946)』ならともかく2019年の映画でこれをやられるからつらいのだな。

個人的には「終わり良ければ」にはならなかった本作ですが、終わり以外は好きです。エルフ(ってのを知らなくて緑のサンタだと思ってた)のエミリア可愛いし、エルフじゃないエミリアも可愛いし、ゴミのような序盤で口にiPhone挟んでイヤホンぶっこ抜くエミリアも愛せるし、全体通してシュール寄りのコメディっぷりも好きだったし、クリスマスのロンドンも行ってみたくなった!

あっという間に公開終わっちゃいそうな作品なので、ぜひクリスマス前に、ゆるくホリデームービーとして、劇場版エミリア・クラークお楽しみください。

(2019年143本目/劇場鑑賞)

そういえばベンチに付けられたあのプレート、ニューヨークのセントラルパークにあるような「ベンチ寄付」だと思うんですけど、誰が寄付したんだろう。不慮のことなわけで、本人の意思表示があったとも考えづらいし。若干の疑問です。ちなみに劇中のトムと現実世界のエミリアはともに1986年生まれ、わたしと同い年。

*1:と書いてびっくり。去年じゃないですか。え、そこからGOT観始めたわけ…? この一年、濃ッ…。