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主に映画の感想文を書いています

セブン・サイコパス(2012)

セブン・サイコパス Blu-ray

セブン・サイコパス Blu-ray

スリー・ビルボード(2017)」のマーティン・マクドナー監督作品。

あらすじと感想

脚本家マーティは頭を抱えている。猟奇殺人モノの脚本を依頼されたが、「セブン・サイコパス」というタイトルが降りてきたのみで、その先のストーリーも登場人物も何ひとつ浮かばない。そんな彼を見かねた友人ビリーは、新聞で見かけた事件からキャラクター像を提案したり、雑誌の投書欄に「サイコパス募集!」などという広告を掲載したりと面白半分に協力する。フィクションとノンフィクションが入り混じりながら、いつの間にか“7人のサイコパス”は揃っていた。

スリー・ビルボード」の評で町山智浩さんが本作のことに触れていて面白そうだったんですよね。観ようと思ってからだいぶ経ってしまいましたが鑑賞しました。結果、ものすごく、超どストライクに、面白かったです!!

あらすじは上にまとめたような感じだと思いますが、実際どんな映画かと説明するのはなかなか難しい…! 劇中でマーティがこんなボヤきをします。「いかにもハリウッド的な猟奇映画はもうウンザリだ。俺は愛と平和だけを語っていたいんだ!」「こうしよう、前半はいかにもなバイオレンス描写が沢山出てくる。でも後半では、砂漠にテントを張って愛と平和を語るんだ」。本作はこの台詞の通りに展開していく、なんとも不思議な映画です。

サイコパスは様々なかたちで登場します。新聞の犯罪記事から創作したサイコパス。人づてに聞いた話を膨らませたサイコパス。「サイコパス募集!」を見て訪ねてきたサイコパス。かわいい小型犬を溺愛するマフィアのサイコパス。助手席の、後部座席の身近なサイコパス。妄想を膨らませながらときに現実のサイコパスとも対峙するストーリーは、ツボにハマればかなり、かなり!! 面白い!!

脚本もキャストもすべて素晴らしいのですが、中でもビリー役のサム・ロックウェルがとにかく最高。この映画、前述のボヤき通り、前半は「いかにもな猟奇映画」なんですよね。カミソリ、糸ノコ、焼身、頭部吹っ飛び、書くだけで客が離れていきそうなバイオレンスの限りを尽くしていても、実際観てみると「なぜか軽い」。全体通してライトな「コメディ」の空気が漂っているのは彼の手腕でございましょう。ここにきて大ファンになった気がします。助演男優賞とってくれててよかった!


本作とにかくわたしツボだったようで、鑑賞中にとってるメモが真っ黒になってしまいました。それを全部入れてまとめる文章力はないためほぼ全カットしますが…、設定としてほんと可笑しいなと思ったのは「愛犬家のマフィア」ですね! ビリーは「ペット誘拐業」とかいうクズな副業(=発見者のふりをして飼い主に返し、謝礼金をもらう)をしているんですけど、あるとき運悪くマフィアの愛犬を誘拐してしまったがために超本気で命を狙われることになってしまいます。ギャング映画的展開でありながら、人質がシーズーっていう緊迫感のなさ(笑) そしてそのマフィアを利用した「映画のクライマックス」の仕上げ方。おーもーしろいなーーーっていう感じです。

あとは、マーティン・マクドナー監督の「顔の好み」とでもいいましょうか。誘拐業におけるビリーのバディを演じるクリストファー・ウォーケンさんの顔面、「スリー・ビルボード」の主演女優フランシスマクドーマンドさんにそっくりだなーと思いまして。こりゃ確実に監督の好きな顔なんだろうなーと。同じく監督の「好き」ということでは本作も北野武作品からの影響が大きいようで、映画館でたけし映画を観てるシーンがあったり、サム・ロックウェルに「日本のヤクザ!」と連呼させるシーンがあったり、全体に漂う「バイオレンスだけどなんか笑っちゃう空気感」みたいなアウトレイジみだったりと、リスペクトを感じることができます。


巷の評価はそこまで高いというわけではなさそうですが、個人的には「スリー・ビルボード」よりも全てが好き!と思えるくらい、妙にど真ん中な作品でした。万人向けではない、ふわふわ系バイオレンス・コメディ。ご興味ある方はぜひ!!

(2018年75本目)