吉岡里帆主演の映画『見えない目撃者』を観ました。出演は他に、高杉真宙、田口トモロヲ、大倉孝二など。盲目の吉岡里帆を中心に展開するサスペンス/スリラーといったところなんですが、どえらい面白く、どえらい怖かったです。
あらすじより下、ネタバレ含みます。この映画ちょっと気になってた、観たいかも、くらいの方は、以下を読まずにまず映画からご覧いただいた方が吉かと思います。おすすめです!
あらすじ(ネタバレなし)
自ら運転する車で起こした交通事故により、自分の視力と弟の命を同時に失ったなつめ(吉岡里帆)。彼女は警察学校を卒業したばかりで配属も間近だったが、その仕事も諦めざるを得なかった。
失意に暮れるなつめはある帰り道、交通事故らしき音を耳にする。現場で車の中から助けを求める少女の声を聞いてしまった彼女は、誘拐事件の可能性があるとして警察に通報。しかし盲目の目撃者であること、精神科に通っていることなどからあまり信じてもらえない。
そこで彼女はもうひとり目撃者がいることを伝える。その車にはねられ軽傷を負ったスケボー少年(高杉真宙)がいるはずだ、と言う。警察はしぶしぶ彼に協力を求めるが、彼もまた気乗りしない様子で応えるのだった。
雑感(ネタバレあり)
いやあ…めちゃくちゃ面白かったです。そして怖い。どこまでいくの、っていう怖さ。この「怖い!美味い!」感は、それこそ先日観た『ヘレディタリー/継承(2018)』とかにも引けを取らないんじゃないかと思いました。
まず序盤。あらすじに書いた通りで、元警官のヒロインがもどかしい気持ちで事件を抱え込み、しかし徐々に彼女の証言が認められていくという、ある種スカッとする、まあ言ってしまえばベタな展開。で、中盤くらいにはもうこの事件、腑に落ちないところもありつつ一応「解決」してしまいます。
と同時に、これはまだ序章に過ぎないと言わんばかりのショッキングなものが解決一歩手前の場面でお目見え。そう、女子高生たちの惨殺死体。
ただの盲目スリラーではなかった
『ヘレディタリー/継承』でも、中盤に突如どーんと出る「白昼に転がる色鮮やかなアレ」なんてのがありましたが、ああいう「お前っ…、なかなか容赦ねえな!」な「想定外の振り幅」を見せられたときの「これが中盤ってことはお前、どこまで行くんだ。どこまで行く気だ。おい程々にしといてくんねぇか??」という「引き返したいでも引き返せない」感、正直たまんないっすよね。映画を観てて最高に楽しい瞬間のひとつです。
とにかく、中盤でいきなりどエグいものが出てくるわけです。待って待って、これいわゆる「盲目スリラー」のジャンルを超越するね??と気付いてしまうわけです。ここからが本当に怖かった、どんどん怖くなっていった。國村隼さんから折り返し電話が来るあたりではもう背中がゾゾゾッとしました。
そんなわけで後半にどんなジャンルが待っていたかというと、まさかの猟奇殺人もの。あんまりそういう展開を予想せず観ていたので完全に想定外で、考えうる最悪のパターンがひたすら畳み掛けてくることにただただ口をぽかんと開けていました。
演出・小道具の妙
なつめが日常的に使う視覚障害者向けのアクセシビリティ機能も後半で意外な使われ方をしていきます。電話着信時の名前読み上げ機能をホームアローン的作戦に使うなんてのもありましたが、なかでもグッドアイデア賞だったのは検索エンジン。検索結果を合成音声で読み上げる仕組みになっていて、カーソルキーで上下するたびに頭から読み上げていくんですけど。
ろっこんしょうじょう、ろっこんしょ、ろっこん、ろ、ろっこん、
こえええええええええ。だってこれ、彼女は検索結果見えてないですからね! 下矢印を押しても押しても「六根清浄」しか聞こえてこない怖さ! からの、あのスーパー悪趣味なお部屋のシーンとかひえええええええですよ。うめえな!作り方が!
これは怖くないやつですが、捜査中に女子高生からAirDropで写真を送ってもらうシーンがあって、iPhoneリテラシーの高い監督だなと感心しました。わざわざ連絡先を交換しなくてもiPhone同士ならデータを送りあえる機能「AirDrop」の、じつにリアルな使い方。ビデオ通話のシーンでスクショして証拠を残す、なんてのもあって唸りました。ガジェット面での違和感のなさ、非常にポイント高いです。
暗くなるまで待って
スカッと(ややモヤ)系ドラマからの、シリアルキラー猟奇サスペンス、そして最後は盲目スリラーに回帰して、わたしの大好きな『暗くなるまで待って(1967)』調の密室死闘が始まります。
オードリー・ヘプバーンと違うのは、彼女が元警官で強い!ということです。ここでタイトルバックに流れていた警察学校時代の光景が活きてきます。武術、護身術、射撃訓練、そして何より卒業生代表のスピーチをしているということは首席レベルだったはず。普通の人だったら太刀打ちできなかったであろうところをこの設定で見事に切り抜けます。特に「犯人を撃ち殺す」というラスト、これはなかなか非現実的な鉄槌だと思うので、大変スカッといたしました。映画の中くらい凶悪犯は殺してしまおう!
しかしこの犯人、本当に容赦がなくてビビりましたね。あそこまで分かっておきながらわざわざ閉鎖空間で二人きりになる田口トモロヲもどうかと思いますがあんなあっけなくリタイアさせられてしまうとは…ですし、大倉孝二にいたっては死亡フラグをまさかそんなスイカかカボチャみたいな……ですし……、これわりと吉岡里帆まで殺されるんじゃないかと危ぶんでました。見事な凶悪犯でした、一応ここだけは名前伏せておこう。
ナイスバディ
本作、バディものとしても結構いいんですよね。盲目の元警官なつめと、スケボー高校生の春馬。春馬に亡き弟を重ねるなつめ、徐々に心を開いていく春馬。最後の最後までなつめが元警官ということを知らなかった春馬…。これ、田口トモロヲがべらべら喋らなかったってことで。こういう細かいところが好きです。刑事のほうのバディも愛せるふたりでした。合掌。
そういえば、この映画ちょっと様子がおかしいぞと最初に思ったのは春馬が襲われるところ。なつめと別れ、特に追う必要のない春馬を追い続けるカメラ。これ絶対何かあるぞと。からのやはり容赦ない攻撃! ここでもこいつ殺されるんじゃないかとたいそう心配でした。油断するとすぐ殺されちゃう映画だから…。
そんなところで、ま〜怖い、ま〜面白い、ま〜美味い、非常〜〜に満足の一本でございました。こういう映画を観ながらカラムーチョでも食べるのが至福のひとときです。
(2020年48本目/PrimeVideo)
配信ではPrimeVideoの課金かU-NEXTあたりで観れるようです。Blu-ray出てないんですかね、不遇…。