映画「ノマドランド(2021)」感想|ぼんやり老後を考える
なんか地味そうな映画、くらいの印象しかないまま前情報なく観たのでまずはいきなり巨大なAmazonにびっくりするっていう。あれはブラックフライデーとかそういう時期の雇用なんでしょうかね。郵便局の年賀状配達みたいな。
さらにそもそもフィクションなのか何なのか、そのへんも全然知らなくて。フランシス・マクドーマンドさんは『スリー・ビルボード(2017)』でしか観たことがないし、よくよく見ればこの人は俳優かもしれない、とかいうレベルで、わりとドキュメンタリーなのかなと思い込んでしばらく観てました。食器割っちゃうシーンで初めて「あ、お話だ」ってなった。
実際のところ本作はドキュメンタリーではないのですけど、とはいえフランシス・マクドーマンドさん演じる主人公以外ほぼ本物の「ノマド=放浪民」の人たちが出演していて撮影も限りなくドキュメンタリーのような方式だったらしいので、境界の曖昧なその感じが狙いなのかもしれません。
- 作者:ジェシカ ブルーダー
- 発売日: 2020/11/10
- メディア: Kindle版
本作の「ノマド」は決して自由気ままなスローライフを送る人たちのことではなく、これは冒頭から出てくるんですが2008年リーマンショックの煽りで仕事も住処も失った人々の、よくない言い方をすれば「成れの果て」とも取れる生き様を追った&描いた、じつはとてもヘヴィーな背景のある映画でした。
ただ、寝泊まりできるよう改造した車で広大なアメリカを転々と「旅暮らし」する主人公や周囲のノマドたちの姿は魅力的にも映ります。たとえ短期雇用の仕事で食い繋ぐしかないから転々としているのだとしても、車中泊を許可してくれる駐車場がどこにでもあるわけではないから転々としているのだとしても、それがパンクやエンスト、体調不良にまみれた満身創痍な日々だとしても、誰しも多少なりとも憧れは抱くんじゃないでしょうか。
正直わたしもだいぶ世間一般的な性別年齢相応のレールからは外れてしまった人間なので(その内訳を赤裸々に話せるのは数十年後かしら)他人事じゃ全然なくて。老年こうなるかもな、って真面目に思っちゃったりもします。独り身だし、ほんと、近ごろ老後が心配で仕方ない30代中盤男性。むしろこうなれれば御の字で、そんなバイタリティすらない気がするな。
あと全然その話とは関係ないですけど、本作に出てくるようなアメリカ西部の広大な自然って憧れます。同じ地球上にあの風景があるんだよなって。生きてるうちに行ってみたい。立ってみたい。叶わなそうだけど。いつか死期が見えてきたらえいや!と行っちゃって、向こうで死ねばいいのかな。わりとよさそう。エイチアイエス終活プラン。
などなど、今のところ死期は見えていませんがそんなことをぐるぐると考えたりするような映画でございました。と言いつつ「映画を観た」という感覚はあんまりない。「アカデミー賞」の響きがいまひとつピンとこない作品。果たして結果やいかに。
(2021年56本目/劇場鑑賞) ヤマザキマリさんの記事がすごくよかったです。