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「1917 命をかけた伝令(2019)」雑感

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サム・メンデス監督最新作『1917 命をかけた伝令』観ました。先日発表された第92回アカデミー賞では『パラサイト 半地下の家族』と大いに競った作品で、「全編ワンカット」が謳い文句となっています。

あらすじ

1917年、第一次大戦下。空中偵察によりドイツ軍の罠を察知したイギリス軍は、そうと知らず罠に飛び込もうとしていた最前線の部隊に攻撃中止を伝えるべく若い兵士2名を派遣した。電話線は切られている。彼らが辿り着かなければ、翌朝には1,600名のイギリス兵が死ぬことになる。走れ!

意外やエンタメ性の高い映画

どえらいアトラクションだった。というのが観終わって最初の感想でした。どう見ても戦争映画だし、おそらく『ダンケルク(2017)』のような硬派な作品だろうと想像していたのですが、思っていたのとはちょっと違う、エンタメ性の高い映画でした。

ストーリーは予告編や副題から察せる通りの「戦地で伝令を届ける任務にあたった兵士のお話」で、そこに意外性やサプライズはありません。かつ「全編ワンカット」ということで、ともすると単調な画面になるのではないかという気がしてしまいますよね。しかし本作は細かく設定された「ステージ」の妙で飽きない画づくりを実現しています。

屋外ではあるけれど閉塞的な「自陣営の塹壕」というスタート地点からいざ這い上がり、目と鼻の先にいながら主人公たちが通常目にすることのない凄惨な地上を恐る恐る進んでいき、敵陣営跡地の探索で再びクローズドな空間へ、そしてザ・王道!なアクシデントから間一髪逃げ切ると眼前に広がっていたのは──といった調子で、ゲームよろしく次々とステージが変わっていくんですね。それを最初から最後まで残機0で走り抜けるミッションですから、開いた口は塞がらないわ、コーラは早々に飲み干してしまうわ、大変な心労を強いられるわけです。

さらに、特に序盤はホラー要素とでも言いましょうか、とんでもないあれこれがカメラにフレームインしてきます。まあ「死体」なんですけども。いかにもワンカットらしいぬる〜っとしたカメラワークで主人公たちを追ってゆく最中、えっ今なにか映んなかった?!と二度見してしまうような「地面に紛れててパッと見わかんない死体」みたいなのをちょいちょい通過します。もしくは主人公たちがうっかり……のケースも。このへんがかなり怖い、と同時に、大変不謹慎ではありますがエンタメ性が高いとも感じた部分でした。ライド型のホラー系アトラクションに乗ってる感覚です。ちなみにわたしが思いっきり飛び上がってしまったのはヒトではなく生きたネズミでした…。

おもしろいのが時々「休憩」みたいなコーナーが設けられてることで、取ってつけたようなドラマパートがあったりするんですね。個人的には「これ要るか?」と思ってしまったところもあるものの、この緩急のおかげでいっとき気を緩められるのは確かなのでバランス的には正解なのかもしれません。

再び「ステージ」の話に戻りまして、とにかくステージが多い! 泥道、砂利道、青い芝の道、歩いたり走ったりほふく前進したり、途中で建物があるといちいち散策したり(なんで入るかな!!!とその度こちらは思うのである)、通りがかったトラックに乗ってみたかと思えばすぐ降りて、川に流されてみたり滝から落ちたり、やってることだけ見ると新生『ジュマンジ』シリーズ並みに多種多様で笑えます。かろうじて飛行機には乗ってないけど代わりに飛行機が落ちてくる。

一番印象的だったのは後半、とても美しい「桜のシーン その2」がありまして。本作「桜」が2回出てくるのですけど、1回目のシーンを、とある出来事を、そこで切なく思い出すわけです。ああなんか序盤の死体祭りが遠い昔のようだなと。あれはあくまで映画的な掴みだったんだなと思っていたまさにその時…!!! 古来から桜の樹の下には死体が埋まっていると言いますが!!! これはショッキングでございました。はい。

いろいろなことがありつつも伝令を届けて任務完了。「オープニングシーンと対応する画」をつくってきれいに映画は終わります。全体的に展開の予想は比較的つきやすく、ラストシーンも一本樹が見えた時点できっとそうだろうなという感じでしたが、予想を裏切らない展開というのもそれはそれで気持ちがいいものです。

「全編ワンカット」

謳い文句のこちら、正確には「ワンカットに見えるよう撮影し繋げている」もので、公式サイドもそう言っているのでJARO案件ではありません。

実際に観てみるとそこまで「ワンカット」を感じさせる映像ではなく、言い方を変えると「切れ目のないカメラワークに注目しようとしていてもいつの間にかストーリー展開のほうに気が行っている」という、「ワンカットありき」の作品作りには全くなっていない、つまり映画として見事な出来だと思いました。

じゃあワンカットじゃなくてもいいのでは、という身も蓋もない考えが浮かんできたりもするのですが、「ワンカット縛り」がないとこの作品は生まれなかったわけだし、観る側の意識も変わってきてしまうので、この段落はカットです。

こういう作品はなんといってもメイキングが観たい!ということで、Blu-rayがよく売れそうですね。YouTubeでざっと見たところこの動画が詳しく舞台裏を紹介していました。

ワイヤーからクレーンへ、クレーンから人へ、人からクレーンへ、クレーンからクレーンへ、シームレスかつ飛躍的な映像の作り方、すごいです。引き継ぐカメラマンが兵士の衣装を着て戦場に紛れてる、なんてのもアイデア賞ですよね!

また、滾るミニチュアの数々からは、あれもこれも全部いちから作ったんだ!ということがわかります。特にあの、遺跡のようにも見える空襲跡でのシーンは素晴らしかった…。光と影の、多分すごくシンプルなんだけどすごく斬新な演出。照明で圧倒的な美を作るというのは舞台演劇的な手法とも言えるかもしれません。

かわいそうな子(ネタバレ強め)

本作、主役の青年ふたりを演じるのはジョージ・マッケイとディーン=チャールズ・チャップマン。名前を覚えていなかったのもあり予告では全然気づかなかったのですが、トメン!トメンじゃないの!大きくなって!ゲーム・オブ・スローンズ』シリーズのトメン・バラシオンが出ていたのでした。

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こんな可愛かったのに!

ゲーム・オブ・スローンズ』のネタバレにもなってしまいますがトメンというのはとても可哀想な子で、今回もッ! 可哀想だったよ!! キャスティングのニナ・ゴールドさん(GOTのキャスティング担当でもある)、ひどくない?!笑

さらにニナさんのいたずらなのか、トメンの兄がロブリチャード・マッデン)っていうおかしな血縁関係ができていて、顔似てるか???と思ったものの、口を閉じると確かにちょっと似てるかもしれない。でも戦地でいきなり見つけられるほど似てはいない(笑) ディーン=チャールズ・チャップマンくんが二役やってもよかったのに〜。

キャスティングの妙として他には軍のお偉方役でコリン・ファースベネディクト・カンバーバッチが2分ずつくらい出ておりました。いずれも友情出演レベル。

凄惨な戦地を舞台にした戦争映画なのであんまり堂々と「楽しめる!」とか言うのも気がひけるのですが(そしてもちろん戦争の愚かさも嫌というほど伝わってくる作品なのですが)、印象としてはやはりエンタメ的、ゲーム的、アトラクション的、そんな映画でした。IMAXで観たのも正解だったと思います。未見の方はぜひ今、映画館の逃げられない環境で「命をかけた伝令」を体感してみてはいかがでしょう。

(2020年25本目/劇場鑑賞 IMAX