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主に映画の感想文を書いています

映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない(2022)』感想|たった82分でえげつない面白さです

渋谷シネクイントにて『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』を観てきました。


映画「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」ポスター
映画「MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない」ポスター


この映画、試写会の感想ツイートがタイムラインに流れてきて「え、なんだこの面白そうな映画は」と気になったのが最初の出会いでした。んで公開日が来て、そうだ観なきゃ〜なんて調べていたら、目を疑ったんですよね。

「『14歳の栞』の竹林亮監督がメガホンをとり——」


え?!


これ?!


そう、今年の春にチュプキで観ていたドキュメンタリー映画14歳の栞(2021)』の竹林亮監督が、何やらこの超面白そうなタイムループ映画を撮ってるらしいんです。まじで?! 同一人物?!(なおも疑う)

というわけで、まずこれが強烈なインパクトでした。考えてみれば確かに「『2年6組』35人全員に密着したドキュメンタリー」も相当ぶっ飛んではいるか。ドキュメンタリー作家と劇作家を無意識に切り離してしまっていた自分に反省です。

ではあらためて、映画の感想とまいりましょう。ええ、めちゃくちゃ面白かったです。えげつない面白さでした。観ないと損する、とは言いませんが、観ながら思っていたことは「万が一これを観そびれていたとしたら、(わたし的には)おそろしくない?」でした。タイムループと聞いて顔を上げてしまうような方は観ておくのが大吉と思います。

あらすじは、公式サイトにでかでかと書いてあるやつが親切なので引用しますね。

月曜日の朝。プレゼン資料の準備で忙しい中、主人公が後輩2人組から
「僕たち、同じ一週間を繰り返しています!」
と報告を受けるシーンからこの物語は始まります。
小さなオフィスで起きた、"社員全員タイムループ"。
ひとり、またひとりと、タイムループの中に閉じ込められているのを確信していきます。
「もう仕事なんて放り出してしまいたい」
「新しいスキルを身につける、いい機会かも?」
「仕事をうまくいくまで繰り返して、最高の状態で転職してやる!」
それぞれの様々な思惑が交錯しながら、繰り返される地獄の一週間。
しかし、タイムループ脱出の鍵を握る肝心の部長は、いつまで経っても気づいてくれなくて……。


あまたある「タイムループもの」ですが、日本社会らしく「社畜のタイムループもの」であること、個人ではなくオフィスまるごとタイムループしていること、それにより徐々に育まれていく社員たちの団結感、なぜかさっぱりとした心持ち!みたいなところがとっても新鮮な印象を抱かせる作品です。地獄みたいな映画かと思いきや、どちらかといえば小鳥さえずる爽やかな朝みたいな映画です。

詳しくは観ていただくとして、とにかく「タイムループもの」がお好きな方なら絶対、期待通りかそれ以上に、脳汁どばどばで至福な時間を過ごせること間違いなし。観てください。ただし、意外なのは「もうひと展開ある」ことなんですよね。

もうひと展開&つながる作品

82分とタイトな作品なため、てっきりタイムループ解消で幕引きかと思っていたのですが、じつは「第二幕」があります。時間配分どれぐらいなんでしょう、時計見てないのでわからないんですけど、ひとつ言えるのは、とても82分とは思えない濃度、密度の映画だっていうことです。82分を2回やってんじゃないのかなあ、気づいてないだけで。違う??

さておき、第一幕のほうはエンタメ全振りでの「タイムループもの」をやってくれておるわけです。しかし、後半では「タイムループ」にメタファーみが強くなってきます。さらに想定外の要素も加わってきて、「意外と深いよね」となる。

この「意外と深いよね」が、初見だとじつはわたし、スイッチがうまく切り替わらなくて、戸惑いのほうが強くなっちゃって味わいきれなくて。もう一度観たら多分ぜんぜん感じ方違うと思うんですよね。なんなら落涙しきり、になるかもしれない。なのでもう一回観たいですね、すごく。

ちなみに、「意外と深いよね」をもっとストレートにやっている竹林監督の過去作がありまして、それがこちらのYouTube短編映画『ハロー!ブランニューワールド(動画名:もう限界。無理。逃げ出したい。)(2019)です。


ついさっき初めて観て、びっくりしちゃいました。うわ、すげえ、ってなりました。世界的にも高い評価を受けたというこの短編映画(パッと見はYouTuberの動画)を先に知っていたら、竹林監督がタイムループもの撮るって聞いても不思議に思うことはなかったんだろうな……。つまりそういうことなので、びっくりするくらいそういうことなので、ぜひご覧ください。

好きなところ箇条書き

  • 書きたいことがありすぎるので箇条書きを発動しますよ。

  • この映画、いっちばん痺れたところはオープニング! 日本映画離れしたようなというか、ジャンルを間違えているようなというか、まあとにかくぶっ飛んだOP! 「ブラームスの子守歌」を選んだセンス、あまりにも優勝です。イカれてる!

  • ほぼワンシチュエーション密室劇だし、『カメラを止めるな!(2017)』や『ドロステのはてで僕ら(2020)』のような低予算めちゃオモロ系かと思いきや、アナモルフィックの玉ボケが美しいシネスコのルックだったり、1から10まで編集がハイセンスだったりと、かなりリッチな映画なのがギャップ萌えです。

  • キャラクターはみんな愛せますが、なかでもやはり円井わんさん演じる主人公の魅力がダントツ。髪型とか死んだ目の感じとかが『マイ・ディア・ミスター〜私のおじさん〜』のIU様に見えて仕方ないのじゃよと思ってツイートしたらなんとご本人からこんな引用リツイートいただきました。

  • わたし的にもめっちゃ嬉しかったのですが、もひとつおもしろいのが、じつはこの日、終わってロビーに出たら監督がいらしていて、お話できたのですよね。で、ついつい同じ感想を述べてしまったのですけど、監督はご存じなくて。でも円井さんご本人はお好きだったという、なんか、隔世遺伝みたいな?(ちがうな)ミラクルみが増した感じです。

  • そういうところでいうと、首ゆらゆら人形と地震の組み合わせは、大林版『時をかける少女(1983)』のオマージュだったりして、と思ったのですが果たして。タイムループといえば、だし、こっちはある気がしております。あのぐるぐるは『めまい(1958)』感もあるなー。

  • わたしタイムループもの好きとか言いながら劇中で出てくる超有名タイトルたちはことごとく観たことがないのでこの機会に観たい!と思っているところです。

  • イムループ中のあれこれで好きなのは、まずやっぱり停電がらみのあれこれ。どんどん順応していくところもいいし、リリスクのくだりもめっちゃ好き。ああもう一度観たい。そしてこちらも間違いなし、プレゼン@会議室。面白すぎる。それに尽きる。映画館で肩揺らして笑ったの久しぶり。

  • 細かいところだと、朝の光景「ハンカチ編」で振り返る女性のところに道路の矢印が向いてるのが、たまらなく好き。あと、映画の中でベジェ曲線ぐにょーんってやるシーン出てくるのきっと貴重。希少。

  • 事務員さんの訴えがほぼほぼ誰の記憶にも残ってないの、あそこは真顔になるべきシーンである。かなりビターな皮肉である。

  • リリスクの主題歌からブラームスの子守歌にクロスフェードしてくところは無駄にハリウッド映画っぽくて笑っちゃう。多分あれやる必要はないんだと思う。でも好き。

  • なんか途中から文体変わってきちゃった。おわり。

以上、ぜひ観てください! 面白いです! 今週も頑張りましょう!

(2022年182本目/劇場鑑賞)

予告編だけで既におもちろい。ちなみに公式サイト、最後までスクロールするとループします。粋!

S・S・ラージャマウリ最新作「RRR(2022)」感想|3,000円くらい払って観たい満足度

『バーフバリ』シリーズで大旋風を巻き起こしたS・S・ラージャマウリ監督の最新作『RRR』、初日に観てきました。立川シネマシティ極音上映!


映画「RRR」ポスター
映画「RRR」ポスター


もともと、初日に観るほどの熱量はなかったんです。『バーフバリ』シリーズはそこまでハマったわけでもないし。でもTwitterで「観たら元気になるぞ!」みたいなのを見かけて、急に行きたくなって。元気が欲しかった。

あとは、愛聴している「アトロク」ことTBSラジオアフター6ジャンクション」でもここ最近インド映画特集ラージャマウリ監督ゲスト回があったりして、それも相まってですね。

で、感想。いやあ……、めっちゃ面白かった、です。大満足。シネマシティの会員割引により1,000円で鑑賞したんですけどね、途中から「安すぎる……」ってなってきて。明らかに1,000円っていう金額が見合わないんですよ。1,900円でも安いと思う。3,000円が適正価格ではないか。観ながら追加課金したくなった映画は初めてかもしれません。

それとも通じることで、これは間違いなく映画館の大スクリーンで観るべき映画ですね。わたし「バーフバリ旋風」当時は熱心な映画ファンじゃなかったので個人的ビデオスルーしちゃって、映画館で観てないんですよね。今回『RRR』は『バーフバリ』シリーズより好みだと感じたけれど、おそらく映画館で観てたら『バーフバリ』もこれくらい興奮したんだろうな。ぜひ、ぜひ、映画館へ行ってください! 元気になります!

ということで、具体的な感想、さてどうしよう。事細かな感想なんか書いてたら大変なことになってしまうし、そもそも書ききれないし。ちょっと、順を追って書いてみますか。

アバンかよ

まず冒頭。3つの「R」のひとつ「STO"R"Y」がドォン! これから始まる物語のプロローグとして、とある悲劇的な出来事を見せられます。舞台は英国植民地時代のインドで、傲慢で残忍な白人至上主義の英国軍人がインドの人たちを抑圧・迫害しているという、思いのほかヘヴィな背景。「ひえっ」な暴力描写でいきなり『へレディタリー/継承(2018)』を連想してしまったのはわたしだけだろうか。

続いて「R」ふたつめ「FIR"E"」がドォン! みっつめ「WATE"R"」もドォン! 本作のW主人公「ラーマ」と「ビーム」がそれぞれ炎と水として紹介されます。どうせ序盤だから言っちゃうと、「1万人vs1人の闘い」「人vs虎の肉弾戦」ですよ。幕開け早々のクライマックスですよ。冒頭の絵面じゃない。シネマシティズン平日割1,000円はもうここでペイされている。

で、ひとしきり満足したところでドゴォンと『RRR』のタイトルが出てきて「アバンかよ」ってなるわけです。なお『RRR』は「stoRy」「fiRe」「wateR」ではなく、「Rise(蜂起)」「Roar(咆哮)」「Revolt(反乱)」の頭文字、というのが正式なようです。

秘密の任務、男の友情

NTR Jr.さん演じる「ビーム」と、ラーム・チャランさん演じる「ラーマ」。二人の主人公はそれぞれ大きなミッションを抱えた「仮の姿」のときに出会い、友情を深めていきます。最初の出会いがほんと笑っちゃうんですけど、いや分かんねえよ!伝わんねえよ!なんで伝わってんだよ!握手してる状況ではないよ!みたいな。ぜひ劇場でご確認ください。ちなみに今Googleで「RRR」を検索すると「馬」と「バイク」が上の方をチープに走りますね。

んで、もうなんか、どうやったらそんな仲良くなるんだよってくらいイチャコラしてる男の友情と、恋物語と、歌とダンスと、このへんはいかにも我々がイメージする「インド映画」を供給してくれる部分です。1930〜50年代あたりの豪華絢爛なハリウッドミュージカルを観ているような感覚。観てる間中、ずっと目がニッコニコでした。元気が出る!!

ただですね、この二人の秘めたるミッションはじつのところ敵対関係を生じさせるもので、あんなに仲良しだったのに、いざ「仮の姿」を脱ぐ段階になると絶対に相容れない二人になってしまうという、映画史上最大の苦渋、みたいな状況が大変つらくなってまいります。が、耐え忍びましょう。映画というエンタテインメントのカタルシスを信じて、耐え忍びましょう。

歌って踊るだけじゃない

3時間という超大作、今回印象的だったのは、歌い踊り荒唐無稽アクションの合間にシリアスなパートがどっしり入っていること。特にインターバル(出るだけで休めません)を挟んだ後半序盤で描かれるラーマの過去パートはかなり重たいものとなっていて、なんとなく『七人の侍(1954)』を連想させるような感じでもありました。

冒頭から幾度も繰り返される、残虐非道な「総督」によるあの言葉。そしてラーマが幼い頃から繰り返し聞いてきたあの一連の動作に関する言葉。そのあたりが意味を持って重なっていく様は、つらいながらも、ううん、よくできているなあと。

そう、ストーリー、よくできているんですよね。数奇な群像劇が気持ちよく交わって集結して。アーリヤー・バットさん演じるラーマの許嫁シータはどこまで関わってくるんだろう?と思ったら、案外めちゃくちゃ関わってきたり。あの宿屋のくだりなんかも『七人の侍』っぽいかも。「この飯、おろそかには食わんぞ」感。シータの台詞、なんでしたっけ、「食材が気を悪くする」でしたっけ。ぐっときちゃった。出番はそう多くないけれど、一気に魅了される名シーン!

ストーリーといえば驚いたのが、本作がタランティーノ監督の『イングロリアス・バスターズ(2009)』からインスピレーションを受けているということ。


鑑賞直前に上記の記事で読んで「ええっ」となったのですが、観てみると確かに、わかる……。わたし『イングロリアス・バスターズ』観たのだいぶ前で、細かく覚えてはいないのですけど、ただなんとなく、全体の雰囲気や要素はすごく「わかる」! 久しぶりに観直してみようかな。

でも最後は歌って踊る

書くの疲れてきたんでそろそろ終わらせます。ってことで、かくかくしかじかエンドロール。監督曰く、結構つらいシーンも出てくる映画だから最後はやっぱりね、みたいな感じみたいです。で、監督ご自身も出て踊ってます(笑) かっこいいわあ。

エンドロールでひときわ魅力的なのはシータ役のアーリヤー・バットさん! なんだその力こぶダンスは、とは思いつつ、とにかくkawaii。アーリヤー・バットさん、引っ張りだこの大スターなんですね。『ガリーボーイ(2019)』とかにも出てるんだ!と知って、未見だったけど観たくなりました。

ガリーボーイ(字幕版)

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はい、以上で『RRR』の感想を終わります。最初に書いた通りこれは絶対映画館の大スクリーン&音響設備で観なきゃ!な映画なのでぜひそのようにしてください。割引券とか使わないで観るとより満足感が高いかもしれません。ああ、IMAXで観ればいいのか! ぜひそのようにしてください(再)。

(2022年180本目/劇場鑑賞)