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映画「空白(2021)」感想|好みではないがそれなりに語ることもある

これは絶対観ないぞと予告編タイムに決意するような映画ってちょいちょいあるんですけども、昨年におけるそのうちのひとつ『空白』を観ました。TBSラジオアフター6ジャンクション」年末恒例企画シネマランキングのポッドキャスト番外編で結構多くの方が挙げていて、ううんやはり観るべきかと思ったのがきっかけです。

※こちらに諸々まとまっているので気になる方はどうぞ。


映画「空白」ポスター
映画「空白」ポスター


わたしが「観ないぞ」と決意していたのは、まあ単純にしんどそうな映画であることと、それからもうひとつ単純にメインキャスト陣が苦手な人ばかりだったのですよね。何が苦手かって、これはほんと失礼な話で顔が苦手っていう。いつもであれば「観てみたら覆された」パターンが多いのですが、結論から言うと今回はお話がしんどすぎてちょっと覆りませんでした。こんなに苦手なキャストが揃う映画もそうない。わたし的には不運。

またきっとそのせいで減点方向に意識がいってしまったのでしょう、脚本演出キャラクター造形、あれもこれも好みじゃないなあと感じてしまい、全体的に肌に合わない、not for meな作品でございました。自己主張の苦手なキャラクターたちを明らかに「人を苛つかせる」演出にしていたり、メディアの描き方がいくらなんでも陳腐に見えたり、リアル寄りのシリアスなお話のわりにいちいち不自然だったり露悪的だったり、そういうところが好きじゃないのかな。わたし𠮷田恵輔監督の作品は偶然一本も観ていないので、作風を知ったうえで観ればまた印象も違うのかもしれませんが。

そんななか、良かった部分もいろいろあります。まずはなんといっても、いや「良く」はないんですけど、発端となる事故のシーンですね。このシーンは予告編で散々見せられているわけですが、予告編を使ったミスリードが巧みだなと。あ、まだ息がある……からの「あっ」で。声が出ました。しばらく呆然としました。ジャンル映画以外でこんなにも強烈な、残酷な事故シーンを見たことがないです。姿こそ出ないものの、言葉での追加描写により観客の脳内には凄惨な被害状況が見える。日本映画における交通事故死描写の、かなり衝撃的なほうに入るんじゃないでしょうか。古田新太さん演じる父親がああなってしまうのも無理はないと思わせるだけのものがありました。

あの父親は序盤からモンスター的に描かれるので観ている側にもかなりバイアスがかかってしまうのですが、よくよく思い返してみるとそれなりに真摯なところもあるのですよね。複雑すぎる知人の通夜にもちゃんと足を運ぶし、元妻に対しては序盤から一貫した気遣いがあるし、学校へも押しかけるのではなくおそらくアポを取っているし(アンケートがまとまったタイミングで訪れたりしてますからね)、前述のとおり「引っ込みがつかない」わけも理解はできるし、暴行の多くはマスコミが誘発したものだし。DV的な面があるのも否定はできないけれど、印象操作は怖いなと、後になってじわじわ思います。

寺島しのぶさん演じるスーパーのおばちゃんは総合的に苦手なタイプですが、一箇所、あれだけのことがあったあとでも怖気付かずに万引き学生を引っ捕まえるところ。あそこは、あ、この人は偽善者じゃないんだなと思える、感動的ですらあるシーンでした。それから劇中唯一、好みかつ救いだったのは藤原季節さんですね。「敵じゃないけど」のポジション、とても救われました。笑っちまったじゃねえかどうしてくれんだ、みたいなあのシーンも良かった。あんなに「笑ってしまった引っ込みがつかない」状況はそうそうない。映画館で観なくてよかった。

ラストのとある伏線回収も涙腺は反応しましたが、ちょっと綺麗な話にしすぎな気はします。それまでがあまりに泥なので、バイアスをかけられ続けた身としては、納得できないとまでは言わないけど、戸惑いはしたかな。もし冤罪だったとしたら店長に救いがなさすぎるし。片岡礼子さん演じる某キャラクターの思考もわたしにはよく分からなかったです。

てな感じの、もっと書くことないかと思ったけど意外とあった、そんな『空白』の感想でした。キャストがお好みであれば、受ける印象はまた全く違うんじゃないかなと思います。

(2022年3本目/U-NEXT)

そういえば以前ラジオに寺島しのぶさんが本作のプロモーションのタイミングだったのか出ておられるのを偶然聴いたんですけど、ホスト側が「本当にいい映画でした」とか言っているのに対して寺島さんご本人はこの映画まだ未見だと、その状態で舞台挨拶にも出ていたと(笑) そういうパターンもあるんですね。