映画「くれなずめ(2021)」感想|披露宴から二次会までの空き時間、成仏しないアイツと共に。
昨年観そびれていた作品を優先的に観ていくキャンペーン、今回は『くれなずめ』を観ました。最近のだと『あの頃。(2021)』みたいな男子わちゃわちゃ物語なんですが、下ネタでキャッキャ大盛り上がりするようなああいうのってわたしいちばん苦手としているところで、敬遠しちゃってた作品です。
ただこれ気になる設定として、登場人物がひとり「死んでる」「けどそこにいる」状態でしれっと進んでいく作劇らしいんですよね。そこまでは知っていたので、観たいな〜とは思っていました。
感想、これはかなり変な映画です。テーマ自体もさることながら終盤の展開などは特にビジュアル的にも大林宣彦監督の『野のなななのか(2014)』を連想したのですが、しかし確実にあれより変な映画だと思います(大林作品より変な映画、というのは相当に変な映画ということであります。まあ『野のなななのか』は比較的穏やかな作品ですけども)。
「披露宴から二次会までの空き時間」が本作の主なシチュエーション。引出物の紙袋をぶら下げながら、どうする?ってスーツでプラプラしてる旧友6名。でもそのうち1名はじつは「死んでる」。オリジナルは舞台演劇だそうで、そう考えると「死んでる」約1名が全くフラットに共存しているのはすごく演劇っぽいです。成仏させようと担ぎ上げるとこなんかそのまんま舞台上の光景が浮かびます。
時も場所も様々な回想が頻繁に挿入されるのも特徴で、これは多分2回以上観るとだいぶ印象が変わりそうです。後半へ行くにつれ回想のトーンも落ちてきて、湿る地面に落ちたヨックモックのシガールを3秒ルールで食べる場面の寒々しさと温かさは映画史に残したい。そして決定的なその日。メールで訃報を知るあの感じを、ここまで繊細に映像化してみせた作品はそうないのではと思いました。
リアルとファンタジーの間でいい役割を果たしていたのが前田敦子さんで、彼女のややヒステリックな声で放たれる言葉はどれも胸に迫りました。「で、死んでるからなんなの?」「死んでても死んでなくても変わんないんだよ!」確かにね。死んでる人のほうがよっぽど思い出したりするしね。なんならさっきの大林宣彦監督とか、わたし亡くなってからファンになって人生動かされたからね。
さておき、男のわちゃわちゃは好きじゃないし構成もくどく感じる部分はありましたけど、珠玉の場面がいくつもあったのは間違いないし、なんらか感じるものがあって心掻き乱されて記憶の蓋が開いて、みたいな映画の効能はふんだんにあったので観れてよかったです。
最後にキャストのこと。本作じつは男子6人が超豪華キャストで、成田凌さん、高良健吾さん、浜野謙太さん、ここまでは誰でも知ってるところ。次いで、1本前に『空白(2021)』でも観たばかりだった藤原季節さん。大河『青天を衝け』にも出ていたし、『明日の食卓(2021)』に『佐々木、イン、マイマイン(2020)』にと、とにかく最近出ずっぱり。作品によってゴツい巨体に見えるときと華奢な男子に見えるときとがあるんですよね。若くして名優だなあ。
それから若葉竜也さん。えっ、若葉竜也さん??出てた?? とエンドロールでわたしは戸惑いました。そんで調べたら、えっ、あいつ若葉さんだったの?! ぜんっぜん気付かなかった……。『街の上で。(2021)』の彼と、Dragon Ashのkjみたいな彼が同一人物だなんてとても信じられない。役者、恐るべし。若葉竜也、恐るべし。
最後、目次立樹さん。この方だけ、存じ上げないなと思ったんですよ(知るまでは若葉竜也さんの役も知らない人でしたけどね)。でもこの目次さん、邦画チェックしてる方なら一度は見ているはず。『アルプススタンドのはしの方(2020)』の熱血先生、なんですって! そうか!わずかな既視感はそこか! 日本の役者界おもしろい。アルプススタンドは、主演の小野莉奈さんも『青天を衝け』にいつの間にかメインキャストで出ててびっくりしましたね。
あと、監督の松居大悟さん、わたしほぼ同年代なんですけど、最初のほうで高良健吾さんが「愛はコンビニでも買えるけれどもう少し探そうよ!」ってニッコニコしながら言うじゃないですか(誰も反応しないのがまたいい)。あれにものすごい世代的シンパシー感じちゃって。無条件に、この映画好き!ってなりました。
まあそれで言うと、変な下着に夢がはじけてたたき合って笑ったことはないんですよね。そういうの嫌いだったから。ふりだしに戻る。
(2022年4本目/PrimeVideo)