353log

主に映画の感想文を書いています

映画「グラン・トリノ(2008)」感想|なんとなくの食わず嫌いを後悔。名作でした。

f:id:threefivethree:20210403094345j:plain

クリント・イーストウッド監督&主演の映画グラン・トリノを観ました。マイリストに入れたままずっとタイミングを逃し続けていたのですが、ようやく観ることにしたきっかけは、じつは現在公開中の『ミナリ(2020)』でした。

これ『運び屋(2018)』もそうでしたけど『グラン・トリノ』ってイーストウッド朝鮮戦争の退役軍人役なんですよね。しかもそれが大事な要素らしくあらすじにも載っていたりするのでその情報だけ知っていて。今回『ミナリ』にも同様のキャラクターが出てきて町山さんが本作に触れたりもしていたため、いいかげん観ようと思った次第です。

そんでもまあこの映画、なんか渋そうじゃないですか。男とクルマとPTSDのハードボイルドな物語かなと若干身構えていたんですが、どっこい、めちゃめちゃ心温まる名作映画でした。いわば『ニュー・シネマ・パラダイス(1988)』級の、好き嫌いはあれど名作であることは誰も否定できまい、みたいな。こんないい映画をこれまで見ずにいたのか。これだから映画は。

本作のストーリーを超ざっくり言うと「心を閉ざした偏屈ジジイが異文化交流でいろいろ取り戻す」的な話です。過疎化したデトロイトの一軒家にコワルスキーっていう白人の爺さんがひとりで住んでるんですけど*1、とにかくこの爺さんが差別偏見エトセトラ凝り固まっておりまして。おまけに最近は隣家にモン族とかいうアジア系の住人が引っ越してきてすこぶるご機嫌ななめ、ってなところから始まります。

単にイエローな奴らが好かんというのもあるのでしょうが、朝鮮戦争で多くの朝鮮人を殺した過去のある彼にとってはそもそもその姿を見ること自体がおそらくトラウマの蘇るような行為で。なので次第に成り行きで関わらざるを得なくなってきてもあくまで「わしはお前らが嫌いだ!」な態度は貫こうとします。まあそれを抜きにしても、なにせ隣家の住人とのファーストコンタクトが「愛車グラン・トリノを盗まれそうになる」だったりするわけですからそりゃ嫌いでしょう。

しかし、このモン族一家と偏屈ジジイのご近所物語は意外なほどエモーショナルな展開をしていきます。それはすごくベタではあるのですが、無名なアジア系キャストたちとクリント・イーストウッドという泣く子も黙る最強のアウトローとのマッチングが唯一無二の名作感を醸していて、かつ笑いもたっぷり用意されていて。泣き笑いハートフルコメディとして屈指の出来になっています。理髪店のシーンとか声だして笑っちゃうほどだし、「貸してやるよ」のシーンなどは絶対このあと泣けるやつだろ!って感じで、いずれも最高。

さらには当時本作で俳優引退宣言をしていたイーストウッドの集大成としても壮大な幕引きの物語になっておりまして。物心ついた頃に『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART3(1990)』で間接的にイーストウッドを知った*2わたし的な喩えをすればデロリアンの破壊シーンみたいなものでもあるというか(それで言うと、未来から『運び屋』っていう新型が来るんですけど)。長年イーストウッドに親しんでいてこれを劇場で観た人は落涙不可避だったろうなあと思います。

ちなみに、タイトルになっているフォードの車「グラン・トリノ」。すごいネタバレをしてしまうと劇中イーストウッドがこの車に乗ることはありません。それどころかほぼずっとガレージに置かれた状態で、公道を走ることもない。でもやっぱり観終わってみれば『グラン・トリノ』なんだよな〜ってなる映画。タイトルだけ知っていてなんとなく食わず嫌い(別に嫌っちゃいなかったけど)しているわたしのような方おられたら、ぜひお手に取ってみてください。

(2021年57本目/U-NEXT)

グラン・トリノ [Blu-ray]

グラン・トリノ [Blu-ray]

  • 発売日: 2010/04/21
  • メディア: Blu-ray
グラン・トリノ (字幕版)

グラン・トリノ (字幕版)

  • 発売日: 2013/11/26
  • メディア: Prime Video
とにかくイーストウッドがいいのです。イーストウッドだからこそ成立する映画と言ってもよいでしょう。御年90歳、どうかお元気でいてほしい……。

*1:荒れ果てたデトロイトの一軒家で一人暮らしをする退役軍人の老人というと『ドント・ブリーズ(2016)』がそういえば完全にそれだったなと。

*2:最初に覚えた外国人の俳優がマイケル・J・フォックスだとすれば、その次に覚えた名前はクリストファー・ロイドを飛ばしてクリント・イーストウッドだったかもしれない。