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主に映画の感想文を書いています

映画「さくら隊散る(1988)」雑感|大林宣彦監督の新作「海辺の映画館」の予習を兼ねて

新藤兼人監督による1988年の映画さくら隊散る』を観ました。

さくら隊=桜隊とは、太平洋戦争のさなかに国策演劇、つまりお国からの指示で慰問のため地方を巡っていた移動劇団のひとつでした。東京大空襲を経て広島市内へ「劇団疎開」していた桜隊でしたが、そんななか1945年8月6日の原爆投下が発生。隊長の丸山定夫さん、元タカラジェンヌ園井恵子さんほか桜隊のメンバーは8月中旬までに全員が死亡したそうです。

また仲みどりさんという方は広島から必死に東京まで帰ったものの、やはり被曝症状の悪化により東大病院で死去。初めて解剖された原爆の被害者として知られているのだそうです(Wikipediaによれば「医学的に認定された原爆という核兵器による攻撃の被害を受けた人類史上初の原爆症認定患者」)。

映画はドキュメンタリー的な作りになっており、桜隊ができるまでの演劇界のあれこれから始まって、徐々に「広島でのこと」へとシフトしていきます。よくよく考えてみると広島の原爆を描いた作品って漫画やアニメでしか観たことがなかったかもしれなくて、再現映像とはいえ実写で描かれるそれは非常に強烈でした。大きな斑点ができて、髪が抜け、氷枕をしてもなお熱い熱いとのたうち回り、パタッと息絶える。男も女も落ち武者のような風貌で目を見開いて果てる姿を、淡々と何人分も見せられる。えぐい映画でした。

命に大小はないのですが、この壮絶な最期を遂げた人々は映画界でも活躍していた俳優さんたちだった、つまり大衆がスクリーンで馴染んでいた俳優さんたちだったというのがまたなんとも辛くてですね。同じ時期にアメリカなら例えばフレッド・アステアとかがやはり慰問公演をやっていたなあ、あれと同じタイムラインか……、なんてことを考えたりもして。

まあ、とにもかくにも戦争の、原爆というものの悲惨さがストレートに伝わってくる作品でございました。

「海辺の映画館」の予習を兼ねて

この映画を観ようと思ったのは、公開間近な大林宣彦監督最後の作品海辺の映画館─キネマの玉手箱に「桜隊」のエピソードが出てくる「らしい」からです。この3ヶ月間ほどで30本近い大林作品を履修してきたわたし、もはやどんな玉手箱が開かれようとも驚かないつもりなのですが、とはいえ3時間尺の映画です、ひとつつぐらいは背景を理解しておいたほうがいいだろうと思い、キネマ旬報で紹介されていた本作を観ておくことにしました。

キネマ旬報 2020年4月下旬号 No.1836

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『海辺の映画館』では、桜隊の隊長だった丸山定夫さんを窪塚俊介さんが、おそらく園井恵子さんをイメージしていると思われる「看板女優」の役を常盤貴子さんが演じているそうです。劇中に登場するはずの『無法松の一生』も本当は観ておきたかったんですが1943年版がTSUTAYA DISCASになくて、それと本作を観たあとだと園井恵子さんの元気な姿を拝見するのがちょっとつらそうだなとも思い、今回はパス。

仮タイトルは「戦争映画とさくら隊」だったという『海辺の映画館─キネマの玉手箱』、7月31日より劇場公開となります。楽しみです。というよりちょっと緊張しています。

(2020年113本目/TSUTAYA DISCAS

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