【8/1〜15限定】「海辺の映画館─キネマの玉手箱」再上映に音声ガイドと日本語字幕が付きます(ガイド制作担当しました)
お知らせです。一年前の今日に公開された大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館─キネマの玉手箱』が、8/1(日)から2週間限定でユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」にてバリアフリー上映されます。
バリアフリー上映とは
東京・田端のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ(以下チュプキ)」は、目や耳が不自由な方でも、車椅子の方でも、小さなお子様連れの方でも映画を楽しめるよう、様々な取り組みをしている映画館です。
特に「音声ガイド」「日本語字幕」の制作に力を入れており、聴覚情報だけでは理解しづらい視覚情報をイヤホンから補う「音声ガイド」、視覚情報だけでは分からない台詞や物音などを補う「日本語字幕」が全ての上映映画に付きます。
なお、これは目や耳が不自由な方のみならず誰にとってもプラスとなり得る要素です。耳は聞こえるけれど今なんて言ったの?? 目は見えるけれど今これ何が起きてるの?? そういうことってありますよね。いわゆる健常者にとっても音声ガイドと日本語字幕は、一度体験してしまうと手放せなくなるようなアシスト機能だったりするのです。
音声ガイド制作を担当しました…!
さて、そんなチュプキでのバリアフリー特別仕様『海辺の映画館』ですが、このたび様々なご縁が重なり、音声ガイド制作を担当させていただきました。何らかの力に誘導されたとしか思えない展開に自分でもよくわからないまま取り組んだひと月半ほどでした(どれだけ思い入れがあったかというのはこのへんとかこれまで書いてきた記事の量などを見ていただければ何となく察せるかと思います)。
『海辺の映画館』はそもそもが「隙間あらば埋める」的編集で組み上げられた情報過多な作品です。テロップ、ナレーション、追加アフレコ、それこそ音声ガイドのようなものまで、元々の状態でぎっちり詰め込まれています。音声ガイドの入る余地なんてあるのだろうか、と作業開始前から途方に暮れつつ、チュプキ代表・平塚さんのご指導のもとどうにか最後まで原稿を作りました。
※今年の2月、初めてチュプキに伺った際に観て(聴いて)感動した『ようこそ映画音響の世界へ(2019)』の音声ガイドを作られたのも平塚さん。今回監修していただくなかでわたしには全く見えなかった「隙間」を次々見つけていく平塚さんに感嘆していたら、「私が『映画音響』にガイドを付けたことをお忘れか」と言われてしまいました(笑)
超オールスターキャスト映画であることも『海辺の映画館』の魅力。劇映画の音声ガイドとしては邪道かもしれませんが、今回のガイドにはキャストのお名前を可能な限り入れています。また、主人公たちが劇中劇に入り込んで別の役を演じ、それが最終的に絡み合っていくという複雑な構成にも悩まされました。同じ俳優なのに役名が変わったり、役名が(その時点では)無かったりするのです。なんて困った映画を、大林監督あなたは……!!!
なにより、見えていても初見は何が何やらなこの映画。事前に大林作品を何十本も観て心構え万端だったわたしでも、初見直後は「しかと受け止めた」しか言えなかった映画。初めての方に、少しでもわかりやすく楽しんでいただけるといいのですが……。
「海辺の映画館」はこんな映画
遅ればせながら一応あらすじの紹介をしておきましょう。以前自分で書いたものを再掲します。尾道の海辺にある老舗映画館「瀬戸内キネマ」が閉館の日を迎える。最後の興行は、オールナイトプログラム「日本の戦争映画特集」。客席にいた3人の青年は上映が始まるや何故かスクリーンに吸い込まれてゆき、幕末から太平洋戦争まで様々な戦争を映画の中で体験することに。はじめは傍観していた彼らだが、次第にこれは「他人事ではなく自分事だ」と感じるようになってゆく。
出演(順不同): 厚木拓郎/細山田隆人/細田善彦/吉田玲(新人)/成海璃子/山崎紘菜/常盤貴子/小林稔侍/高橋幸宏/白石加代子/尾美としのり/武田鉄矢/南原清隆/片岡鶴太郎/柄本時生/村田雄浩/稲垣吾郎/蛭子能収/浅野忠信/伊藤歩/品川徹/入江若葉/渡辺裕之/手塚眞/犬童一心/根岸季衣/中江有里/笹野高史/満島真之介/大森嘉之/渡辺えり/窪塚俊介/長塚圭史/寺島咲/犬塚弘/中野章三ほか、ほか、ほか……。
(大林宣彦監督作品「海辺の映画館─キネマの玉手箱」の好きなところをひたすら書きます - 353log)
今現在を戦後ではなく「戦前」と捉えた大林監督が人生の最期に執念で作り上げた、「反戦」というより「嫌戦/厭戦」のエンタメ超大作。どれだけ大林映画への免疫があったとしても初見は面食らうであろうカオスと、「え、なんかとんでもないB級映画を観に来てしまったのでは」という後悔のようなもの、お約束します。
しかし序盤の苦笑失笑を耐えて中盤あたりまでくると、いつしか真顔で見入っているに違いない。こちらもお約束します。何度繰り返し観ても、それが作業用の小さな画面だったとしても、終盤では完全に見入ってしまうわたしがいました。今回のガイド制作作業を通して、この映画がいかに緻密に作り込まれているか思い知りました。
チュプキで観ていただきたいのが本音ですが、このご時世、都内への移動をおおっぴらに推奨するわけにもいきません。田端までは行けないよという方も、ぜひ、よかったら、配信等で『海辺の映画館─キネマの玉手箱』ぜひご覧になってみてください。日本人として、8月に観るのが相応しい映画です。また劇中で数多く引用される中原中也の詩や大本営発表の演出などは、コロナ禍の今にも驚くほど刺さってくるものとなっています。
鑑賞前後で大林作品の予習復習をしたいという方は、配信で観れる作品をまとめたこちらの記事も参考にしていただければ幸いです。劇場情報
シネマ・チュプキ・タバタ
● JR山手線・京浜東北線 田端駅北口を出て、右方向徒歩5分
● 田端駅北口有人改札にて地図を配布しています
※階段とスロープが並行しています。下りきったところで右折し、
車道の下をくぐって信号のある横断歩道を渡ってください。
「絵でわかるイラスト地図」「言葉による道案内」がこちらに掲載されています。
とても小さな映画館ですので、下記の予約サイトより事前予約(支払いは現地)をおすすめいたします。 音声ガイドを聴くためのイヤホンは貸し出しもありますが、ミニジャックのものであればお持ちのイヤホンがご利用いただけます。
8/1〜15の上映プログラムは『ちむぐりさ 菜の花の沖縄日記(2020)』『この世界の片隅に(2016年版)』そして『海辺の映画館』という、どんどん長く重たくなっていく豪華三本立てです(笑) どの作品も本当に素晴らしいので、お近くの方はぜひハシゴしてみてください。
後日譚: