岩井俊二週間、続いてます。今回は1998年公開、松たか子主演の『四月物語』を観ました。約1時間の小品なので観やすい!
あらすじ
大学進学を機に北海道から上京した楡野卯月(にれの うづき/松たか子)は、ぎこちない新生活を送っていた。彼女は強い意志を持ってこの大学に入ったはずなのだが、現状ただのパッとしない新入生である。そんなある日、突然の雨が卯月を後押しする。
雑感
松たか子演じる主人公が、松本幸四郎はじめ実際の松本家御一行様に見送られて上京するという不思議なシーンから始まる本作(笑) 到着したての東京で、まるで異常気象のように振り続ける「桜」がとても印象的です。今日は桜が強く降るでしょう、そんな感じの、ほんの少しファンタジーな世界観。新生活への溢れる期待にも見えます。
しかしこのあとは物語、早くも停滞。部屋に荷物を入れ、入学式に自己紹介、新しい友達とよくわからないサークル、まだ到底ホームタウンにはなっていない街。全てがパッとしなくて、映画としてもかなり「退屈」な時間。
短尺作品なのにこんな時間の使い方をしていいのかい。とすっかりあくびを連発するようになってしまった頃、ちょっと輝く。そしてまたさらに輝く。そこまでの退屈さは全て飛んでしまう。なるほど!!
これは「新生活に描く理想がちょっと叶った時のときめき」を見事に映像化した作品だったのだと思いました。初めて実家を出て、自分だけの街で一人暮らしを始めて、ご近所付き合いをしてみたいなとか、行きつけの店や場所を作ってみたいなとか、そういう気持ちってすごく覚えがあります。
必ずしも理想通りにいくわけではないけれど、たまに「思い描いていたとおり」のことが叶ったりして。行きつけにしてみたいと思っていた喫茶店でマスターが話しかけてくれて会話が弾んでしまった、とか。そういう時って「四月的」なときめき、あるよなあと。
本作の場合はそこに恋愛要素が絡んでいたりだとか、さすがにカレーは食べてくれないと思うよとか、ちょっと盛ったようなところもありますが。でも、冒頭の降りしきる桜へのアンサーみたいな感じでよかったです。
あと特筆すべきは突然の回想シーン、草原の松たか子。
このシーンのためだけにでも観る価値あると思いますね。フェチい、フェチいぞ。
冒頭に貼った傘のシーンも、雨粒をスローモーションにするセンスと、パートカラーのようにも見える赤い傘がとても印象的で美しいシーンです。やはりこういう力技の「名シーン」があざとく組み込まれてくるところ、これが岩井節なんでしょうか…。あんな退屈だったのに、いい映画だったなって思っちゃう。
というわけで、きっと誰しも何かしらのかたちで経験したことがあるであろう新生活での失意とときめきをコンパクトに封じ込めた作品でした。『四月物語』っていうタイトルも好き。
(2020年15本目/PrimeVideo[日本映画NET])
- 出版社/メーカー: ハピネット
- 発売日: 1999/03/17
- メディア: DVD