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主に映画の感想文を書いています

映画「ハスラーズ(2019)」雑感

今年の年間ベストに食い込むこと確定の作品が早くもまた…。ジェニファー・ロペスコンスタンス・ウーのW主演、ハスラーズ』を観ました。

先にまずひとつ。

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あえて小さくしてみる

予告とかで見る感じ、こういうイメージないですか?

でも実際はこんなオーシャンズ8』的な感じではなくてですね…

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こうだ! しかもショパンエチュードとか流れちゃう感じの映画だ!

というアピールをしておきたい。気になった方はぜひ。

あらすじ

生活のためストリップクラブで働き始めたディスティニーコンスタンス・ウーはいまひとつ稼ぎの伸びない日々を送っていたが、トップダンサーのラモーナジェニファー・ロペスと親しくなりタッグを組むことで大成功。最高の暮らしを手に入れた。

しかし2008年、リーマンショックが起きて状況は一変。客は金を落とさなくなり、彼女たちの生活も地に落ちた。そこで「この経済危機の犯人であるウォール街の奴らから金を巻き上げてやろう」と考えたラモーナは、再びディスティニーらと組み、華麗なるペテンを企てることにした。

さて。すごく気に入ってしまった映画は感想を書くのが難しくて億劫。一言であらわせるような作品ではないし、見出し多めで書いていきましょうかね…。

きっかけはControl

いつものごとく「アトロク」を聴いていたらこんな特集がありまして。

映画の冒頭で使われるという、ジャネット・ジャクソンの「Control」が流れたんですね。わたしこの曲知らなくて、かつ本作もあまり観る気がなかったのですが、なにこれ超かっけえと思いまして。オープニングでこれ聴けるんだったら行きたい! それがきっかけでした。

「This is story about control, my control.」というイントロの語りが、そのまま「人生の主導権の問題」をテーマにした映画の導入になっている構造。スマート! 全編通して非常にセンスのいい本作ですが、出だしからキレッキレです。ていうか“人生の主導権の問題をテーマにした映画”なの? そうなんですよ、意外と。

「毛皮に入りな」

冒頭、ストリップクラブにて、新人のディスティニーはトップダンサーのラモーナを前にして、その圧倒的なパフォーマンスに魅了されます。一服するため屋上へ上がると、そこにはラモーナが。火を貸してもらい、ディスティニーはラモーナと初めて言葉を交わすのですが、そこでの名セリフがこちら。「毛皮に入りな」

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「毛皮に入りな」

同じ画像もう一度貼っちゃう。これはもう、完全に降参しました。「毛皮に入りな」、日常生活で絶対言わないセリフ第一位ですよ。めちゃくちゃ言いたい。ジェニファー・ロペスに転生したら絶対言います。

まだ序盤も序盤、始まって5分と経ってないあたりで打ち出されるこのシーンは、映画史に残る名シーンと言って間違いありません。たとえば『ショーシャンクの空に(1994)』の「雨に打たれる主人公(らしき人物)」みたいに、ああこのシーンだけは知ってると言われるような、そんなキービジュアルの一枚になって残り続けてほしい。

物語的には、毛皮に入った時点からディスティニーはラモーナに人生のハンドルを握られることになります。いろんなことがありつつも、彼女はずっとこの温かさが忘れられなかったんじゃないかなと思います。だってめちゃくちゃ温かそうなんだぜ、下は水着だけど。

そして個人的にはとにかくこのシーンに完全敗北してしまったので、それだけでこの『ハスラーズ』という映画がたまらなく好きです。

ローリーン・スカファリア監督

序盤、ストリップクラブでのシーンはかなり露出度も高く過激なことがスクリーンで巻き起こっています。にも関わらず、印象としては「エロくない」。むしろ「美しい」。キャストすらろくに知らないまま観ていたわたしは、この時点できっと監督は女性だろうと感じていましたが、やはりそうでした。

本作で監督・脚本を務めているのはローリーン・スカファリアさんという方。彼女がストリップクラブを撮ると、限りなくセクシーでありながらギリギリのラインで下品にはならず、それどころかポールダンスってこんなに芸術的だったんだと感動させられてしまう。これはとかくフェチりがちな男性監督にはなかなか撮れない画だと思います(とはいえ、舞台裏の彼女たちはそれなりにお下品、いや痛快なほどに下ネタオンパレードだったりするのもいいところ)。

まあとにかく全ての部分でセンスがよくて、ありきたりなシーンも陳腐にさせない脚本・演出・編集の妙。クラブミュージックとショパンエチュードが半々で混在する劇伴選曲の妙。等々、うまいなあと感服することしきりでした。特に印象的だったのは「突然の無音」「無人の運転席」の二点ですかね。

なお、のちに物語は「母親」としての彼女たちが主役になってくるのですが、このあたりは男性にとって少し肩身の狭い部分かもしれません。というか、なんだか実際バツの悪い気分になりながら観ていた感覚だけが残っている…。

しいて言うならギャング映画

一番最初に貼った画像の『オーシャンズ8(2018)』的な感じを想像していると、全然違う映画です(ジェニファー・ロペスケイト・ブランシェット的立ち位置ではあるけれど)。

しいて言うなら「ギャング映画」が近いのかもしれません。監督自身マーティン・スコセッシ監督からの影響を公言していて、女性版『グッドフェローズ(1990)なんていう表現もされていたりするように、確かにすごくスコセッシ映画の流れを感じます。

グッドフェローズ (字幕版)

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「アトロク」の番組内でジェーン・スーさんがBrotherhoodならぬ「Sisterhood」という言葉を使われてましたが、なるほどしっくりくるかも。警察に捕まったディスティニーから「取引した」と打ち明けられた時のラモーナとか、すごいギャング映画の「絆」の味わいがあるんですよね。

そもそも先述した「毛皮に入りな」のシーンで何がいいってラモーナに対するディスティニーの心酔した表情。あそこで変にヒリヒリしたり逆に百合ったりしないのがいいんですよ。『アイリッシュマン(2019)』におけるデ・ニーロとペシもしくはアル・パチーノのBrotherhood的なものが、ジェニファー・ロペスコンスタンス・ウーの間に生まれるのです。いい映画だなあ(しみじみ)。取材を受けながら回想していくという構成もまた『アイリッシュマン』的。

ちなみに一番『グッドフェローズ』っぽいと思ったのは、娘の送り迎えしながら「お仕事」してるシーン。あそこは確実にスコセッシ・オマージュなところですよね。「なんかやばいことになった!とりあえず車で運ぼ!」っていうあの騒動自体も『グッドフェローズ』感がありますね。

盛者必衰、そして今に至る

本作、二回ほど「すごくいい時期」があって、当然「すごく悪い時期」も交互にあるわけですが、この山と谷のギャップが、申し訳ないけれど面白かったです。全身にゴージャスを纏っていた山からの、OLD NAVY店員とかいう谷。絶妙すぎて。

しかし何があろうと不屈なんだろうなと思わせるジェニファー・ロペスの生命力は半端じゃないです。本作のあとに、最近話題のハーフタイムショーを観たらなんだかすごく安心しました。ジェニファー・ロペス、ラモーナよりキレあってヤベえ。っていうよくわかんない感想を抱きましたけど。

現実が虚構を超える。すごいですねこれ。『ハスラーズ』、本国ではヒットしたらしいのでショーの中に映画ネタが要所に織り込まれており、後日譚くらいの気持ちで観ても楽しめます。

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映画かよ

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毛皮じゃん!!!

アピールポイントがわからない

手当たり次第に書いてみたものの、実際何がどう良かったのか、未だよくわかっておりません。こういうのって結局「うわーー、よかったーー」っていう感覚的なもので、理屈じゃない、んだけどそれを言葉にするのがこういう場なの!!!(自分に憤慨)

まあ、もし興味を持たれましたら、わたしがここまで心酔している「毛皮」をどんなもんよと確認しに行っていただけたらうれしいです。

あと全然言及できなかったんですけどコンスタンス・ウーさん、アジア系の顔立ちが日本人的にはとても親近感を持ててよかったです(ビオレ!)。いくらジェニファー・ロペスが良くても片割れがコンスタンス・ウーじゃなかったらここまでハマらなかったかもしれません。すっかりファンになりました。

(2020年24本目/劇場鑑賞)

ハスラーズ(字幕版)

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