『アイリッシュマン』を観たならこちらも観ねばいかんべ、と遅ればせながらスコセッシ祭り開幕の予感です。
概要
マフィアの世界で生きたヘンリー・ヒルという男の半生を自叙伝的に描いた、実話ベースの作品。ギャングに憧れた少年時代から壮年期までをテンポよく見せる。
「昔からギャングになりたかった」
マフィアものって重厚なイメージがあったりするじゃないですか。つまり『ゴッドファーザー』的な。スロースターターな。そう思って観始めたらこの映画、アバンタイトルの掴みがえらく良い。いきなり弾ぶち込んで〜の「昔からギャングになりたかった」ジャッジャ〜ン♪ って感じですよ。そして高速で流れるタイトルクレジット。このテンポならいける!と即座に集中力が高まる編集、お見事。
ナレーションも務める主人公のレイ・リオッタに、ロバート・デ・ニーロとジョー・ペシ、この仲良し三人組(?)が「グッドフェローズ(=いい奴、仲間)」。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』でビフにいびられながらもヘラヘラ笑ってるジョージ・マクフライによく似た笑い方をするレイ・リオッタは憎めないし、安心して見てられる兄貴肌のデ・ニーロもすごく好きなのだけど、何より爆弾みたいな気性のジョー・ペシが、すごい。タランティーノ映画を見ているようだ、という話は後ほど…。
『アイリッシュマン』との繋がり
同じ時代のマフィア界隈を描いているだけあって、ついこの間『アイリッシュマン』の映画本編や原作本で見聞きしたこと、かじったことが散見されます。
例えば「仲良し三人組」のうちイタリア人なのはジョー・ペシだけで、残り二人はアイルランド出身、そうアイリッシュマン(デ・ニーロはこの頃からすでにアイリッシュマンだったのですね)。ジョー・ペシが幹部に昇格することになり「残り二人」は大喜びするのですが、ここで嫉妬しないのはそもそもアイリッシュマンは幹部になる選択肢が元々ないからということで、本作でそのへんの事情をちゃんと説明してるから『アイリッシュマン』本編では割愛してたんでしょうか。
それから、原作にしか出てきませんが「アパラチアン会議」というワードとか、その流れで登場する「クレージー・ジョー」なる人物とか。このジョーさんは調べてみたら「青二才」のギャロのことでした。リトルイタリーのレストランでシーランに殺された彼。
あとは、お決まりなんでしょうか、タクシー爆破シーンとか(笑) トラックの組合の話もちらっと出てきたような。頻繁に登場する「コパカバーナ」は誰が出資してたんだっけ、みたいな。共通の人物が直接出てきたりはしませんが、存在を感じさせるちょっとしたあれこれが楽しかったです。
タランティーノとの共通点
タランティーノに与えた影響と言うべきか、詳しいことは分かりませんが、とにかくタランティーノっぽい(と言いたくなってしまう。逆!)。特に『パルプ・フィクション(1994)』ぽい。
不本意な殺しやっちゃって鼻つまみながら車掃除してるシーンだとか、死体を車に入れたままおばあちゃんの手料理をご馳走になっちゃうようなシュールさだとか(包丁の謎が解けるの、すごい好き)、時間を遡って戻ってくる構成だとか、何よりジョー・ペシの「一触即発感」がめちゃくちゃタランティーノ!(逆!) うわ〜、ここから来てるのかと思いました。あのジョー・ペシ、次にどう出るのか予想のつかない感じ、超怖かった。
それと「ケチャップ」。『パルプ・フィクション』ではケチャップといえばユマ・サーマンによる渾身のジョークですが、本作のラスト付近にも「ケチャップ」のワードが出てくるんですよ。それがかなりキャッチ・アップに聞こえるもんで、これを観たタランティーノが「似てんな…」と思った可能性もなくは…ない。
そういえば、お薬でややハイになった主人公が目まぐるしい一日を送るくだりも『パルプ・フィクション』との共通点(あっちはダウナーか)。一日中ヘリとソースを見張り、ブツを混ぜてソースも混ぜる、くだらなくて面白かった。タランティーノの軽さと凶暴さのバランスはこのへんから来ていそうな気がします。
そんなわけで、2時間半弱とやや長めの作品ではありますが観始めてしまえば全く長さを感じさせない、とても面白い映画でした。陰鬱めな『タクシードライバー(1976)』のイメージが強いせいか、スコセッシ監督を誤解していたかもしれません。こんな作風の人だったとは。もっと他の作品も観てみようと思います。
(2019年144本目)
- 出版社/メーカー: ワーナー・ホーム・ビデオ
- 発売日: 2010/04/21
- メディア: Blu-ray