353log

主に映画の感想文を書いています

ウォン・カーウァイ4Kレストア上映で「恋する惑星」「ブエノスアイレス」を観た

映画「恋する惑星」「ブエノスアイレス」ポスター

8/19(金)から劇場公開されているウォン・カーウァイ監督作品の4Kレストア企画で、恋する惑星(1994)ブエノスアイレス(1997)を観てきました。

と、さも知ったような口で書きましたが、ウォン・カーウァイ作品ってじつは観たことがなくて。よく聞く『恋する惑星』くらいはいつか観なきゃなと思っていた程度で。例によって「アトロク」での特集を聴いて、よっしゃと腰を上げた感じです。

ちなみにこの企画、かなり盛り上がっているようで、公開2日目のシネマート新宿へ行こうとしたら前日の時点で既に『恋する惑星』333席のシアターが満席。次にチェックした立川シネマシティも滑り込みでした。一世を風靡したんだなということが、予約時点でよくわかりました。



恋する惑星

さて、そんなわけでまずは『恋する惑星』。こちら、正直に言ってしまえばハマらなかったです。いや、なんかとてつもない魅力が放たれているであろうことは理解できる! でもこういうのはリアルタイム世代のときめきには叶わないと思う。なんだろう、『パルプ・フィクション』みたいな感じ? と思ったら同じ94年だった。そう、多分この時代の匂い。『パルプ・フィクション』は好きですけどね。って『恋する惑星タランティーノが上映権買ってたんかい。自分の嗅覚に笑ってしまう。

あとそもそもの問題が2点ほどあって、ひとつは「前編と後編が分離していることに気付けなかった」こと。というのも、ベリーショートのフェイ・ウォンがキービジュアルになってるじゃないですか。で、始まるといきなり金髪セミロングのグラサン美女が出てくるじゃないですか。ここでわたしは「ははあ、フェイ・ウォンが金髪ウィッグで変装してるんだな」と超絶誤解をやらかしたまま最後まで観ちゃったんですよね。えっ、別人なの?! そら話繋がらないわ。そもそもフェイ・ウォンさんのお顔よく知らないですからね。

それから、そもそもの問題その2は、わたしが「ベリーショートの女性、好きじゃない」こと。あとタンクトップとか露出の多い服装、苦手なんです。これは現実世界のみなさまにどうこうという話では全くなくて、フィクション世界のヒロインとして魅力を感じられるかどうかという話。つまり、あのビジュアルのフェイ・ウォンさんは「タイプじゃない」わけでして。そこがごめんなさいでした。

で、さらに、このフェイ・ウォンさん、完全にヤバい人じゃないですか。この奇行、オドレイ・トトゥでもちょっと無理だな……。まあ、なんだかんだ面白くはあったんですけどね。勝手に塗り替えられていく部屋と、お前もお前でどうかしてるトニー・レオンと。ていうかトニー・レオン好きだな。『シャン・チー』でも超かっこいいと思ったけど若い頃も最高だな。

っていうことで、観る予定のなかったトニー・レオン主演作『ブエノスアイレス』を急遽ハシゴすることにしたのでした。あ、金城武さんの出てる前編はわりと好きでした。執拗なパイナップルアピール可愛いし、テーブルの上に手伸ばしてルームサービス食べるのとかもいわゆる名シーンって感じがする。誕生日おめでとう。よかったね。

余談1。1998年リリース、B'zのシングル『HOME』。ミュージックビデオがゴリゴリの香港なんですけど、あらためて観てみて、ああこれってウォン・カーウァイだったのか、と思うなどしました。

コマ落としの感じとか、まさに!です。

余談2。マイスイート坂本真綾さんは高校生の頃『恋する惑星』にハマっていたそう。2018年発行のFC会報57号には、香港でライブをした際に「聖地巡礼」をしている写真が載っています(自分用メモ)。確か重慶マンションにも行ったって何かで読んだ気がする。4K観に行ったかしら。

余談3。恋する惑星』『ブエノスアイレス』どちらにも、壁のパタパタ時計がカチャッと印象的に時を刻むシーンがあります。これを見てちょっと思い出したのが『ちょっと思い出しただけ(2022)』。ネット上に言及は見当たらなかったけれど、ジャームッシュなのだからカーウァイも十分オマージュありそう。

ブエノスアイレス

こーれは、観てよかったです。バリー・ジェンキンス監督『ムーンライト(2016)』のルーツ的作品だったりするそうで、いや、これも正直、わたし『ムーンライト』はあまり好みじゃなかったんですよね。なのでどうかなあと思いながら、でも『恋する惑星』1本で帰りたくないなという気持ちから観たんですけども、もう一度言いますが、観てよかったです。

男性同士のラブストーリーで絡みのあるやつは、あくまで個人的趣味としては好きじゃなくて。まさに絡みから始まる本作も、ああこれはまた合わなさそうだなと早々に諦めながら観ていて。ただ、その直後に出てくる「イグアスの滝」の、呑み込まれるような映像と音が凄くて。このシーンだけでも、好きかもしれない。そんなふうにちょっと気持ちが切り替わって。

んで観ていると、ドアマン姿のトニー・レオン超かっこいいじゃーん!!っていうブチ上がりからの、イキってたくせにメソってくるレスリー・チャンもどんどん可愛く見えてきて。気付けばふたりの関係が心底愛おしくて、そして切なくて。ピアソラの音楽が沁みて沁みて。

トニー・レオンのアパートも雑然オシャレだし、共同キッチンで作ってきてくれる中華料理っぽいのも最高においしそうだし、ちょっと『何食べ』って感じだし。厨房仕事で出会うあの「耳のいい」青年も、物語の邪魔をしない素敵なキャラで。「カセットテープ泣き」は屈指の名シーンよ。

キーアイテムになってるライトスタンドも、あんなに綺麗なライトそうそうなくて泣けてくるし(喧嘩であれがぶち壊されなくてよかったと心から思った)。最後のイグアスの滝は、最初よりもっともっと呑み込まれる感じで。濁流は汚いけど、舞い上がってくる水飛沫は白く綺麗で。これはスクリーンで観なきゃいけないやつだ。スクリーンでといえば、「逆さ香港」もただの逆さなのにやたらクラクラして。映画だなあ、じつに映画だ。

ラストの『Happy Together』と台北のMRT、笑顔のトニー・レオンもよい。こんな爽やかなラストが待っている映画だと誰が思うか。そういえば音楽、ザッパが使われててびっくり。もしシネマートで観ていたとしたら前回行ったのは『ZAPPA(2020)』の時だったし、シネマシティもこれから『ZAPPA』やるみたいで予告が流れていたよ。なんか不思議。

……ってな、よい映画でした。映画館の外に出たら雨が降っていてそれもまたよし。シネマ・ツーの前、モノレールの高架下でしばし雨宿りしながら(傘持ってんだけどな)感想ツイート垂れ流して、バーミヤン酸辣湯麺食べて帰りました。

これがほんとの殴り書き。以上。

(2022年137〜138本目/劇場鑑賞) そうそう、わたしレスリー・チャンって馴染みなくて、『チャンシルさんには福が多いね(2019)』の耳野郎=レスリー・チャンだったんですけど、今思えばどちらかというと耳野郎さんはトニー・レオン顔ではないか。そういう問題ではないのか。

追記:『欲望の翼』『花様年華』も観ました。