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主に映画の感想文を書いています/【ご注意】GOTs8ネタバレあります

狼たちの午後(1975)

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アル・パチーノ主演、「十二人の怒れる男('57)」「オリエント急行殺人事件('74)」などのシドニー・ルメット監督作品。「午前十時の映画祭9」の今年度ラスト作品に選出され、2019年3月現在、劇場公開中です。この一年とってもお世話になった「午前十時〜」の締めくくりとして行ってまいりました。

あらすじ

ある夏の日、閉店間際の銀行に強盗が入った。計画的とは言いがたくむしろ劣勢気味な強盗たちだったが、察知した警察がいち早く包囲してしまったことにより、不本意ながら人質をとって立て篭もらざるを得なくなってしまう。1972年に起きた実際の事件を元にした作品。

シドニー・ルメット監督の十八番、密室系ヒューマンドラマ

タイトルは似てますが「羊たちの沈黙」みたいな映画ではありません(笑)

うだるような暑さの一室に拘束されてしまうというシチュエーションは、シドニー・ルメット監督のデビュー作「十二人の怒れる男」と同じ。裁判所の陪審員室、寝台特急の客車、そして銀行。ある程度閉ざされた空間でドラマを作っていくのがこの監督、本当に巧みです。

無計画な銀行強盗たちの企みは、開始早々あっさり頓挫してしまいます。えっ、こんなに早く警察来ちゃって残りの2時間弱どうするの、っていうある意味衝撃の展開。

元々なるべく穏便に金だけ持っておさらばしたかった強盗たち。しかしこうも早く取り囲まれてしまっては、典型的な立て篭もり犯になるしかない…どうする…落ち着け落ち着け…冷静に…人質全員を無傷で解放することに集中しろ…。もはや立場逆転な思考を働かせる銀行強盗、アル・パチーノ

とりあえずトイレ行っとけ、家には遅くなると電話しておけ、タバコは肺に悪いからやめとけ、強盗たちの心遣いがいちいち沁みます。いやおかしいでしょ。前半はそんなシュールな笑いに満ちたコメディです。

「午前十時の映画祭」は加盟劇場を2つのブロックに分けて、同期間に2本の上映をしています。今年度ラストを飾るもう1本は「大統領の陰謀」。本作とほぼ同じ1976年の公開であり、かつ、1972年という同じ年の事件(あちらはウォーターゲート事件)を描いている作品です。

最近いろんな関連作品で書いていますがわたしはこの時代の電話機および内線芸が大好き。本作でも堪能できます! これはフェチの域に達していると思う。というのはさておき、後半では社会派ドラマとしての面も強くなってきます。

「大統領〜」の前日譚「ペンタゴン・ペーパーズ('17)」を観たばかりでピンと来やすかったのは、まずふたりの強盗がベトナム戦争の帰還兵だったことと、それが意味するニュアンス。ジョン・カザール演じる相棒役が「飛行機に乗ったことがない」と言っていたので兵士は海路だったんでしょうか。

また、前年に発生した事件「アッティカ刑務所暴動」も大事なワード。これは1ミリも知りませんでしたが、警察が刑務所の暴動に介入し39人もの囚人らを殺すという、当時のスキャンダルだった模様。直近にそんなことがあって警察への不信が高まっていたため、包囲していた警察に対して「俺を殺したくてウズウズしてるんだろう!」と煽る強盗に野次馬たちが共鳴、民衆を味方につけてしまうという異例の事態が劇中では描かれます。

同時に、アル・パチーノ演じる強盗が同性愛者であったこともメディアで報道され、ニューヨーク中の同性愛者たちを沸かせます。実際にこの強盗は同性と結婚しており、性転換手術の費用欲しさが犯行の動機になっているそうです。一要素としてではなくじっくり尺をとって描かれるそのあたりのことも、ややテンポは落ちてしまいますが印象的でした。

最後には密室を飛び出してシチュエーション一転、エンジン音に全てがかき消される空港の滑走路で事件は終末を迎えます。轟音のなか淡々と流れるエンドクレジットが最高にクール。飛行機の轟音にこんなシビれたのは「トップガン('86)」のオープニングを初めて観たとき以来かも。エンドクレジットと環境音のマッチングではつい最近の「女王陛下のお気に入り('18)」とも通じるものが。

先に挙げた「十二人の怒れる男」や「オリエント急行殺人事件」と比べるとほろ苦い後味ですが、「居合わせた人たち」による一期一会な人間模様の爽やかさは共通していて、なんなら人質たちは強盗と別れるのがちょっぴし寂しかったんじゃないかとすら思える、まあ映画的とも言える、良い終わり方でした。

小ネタ

オープニングで、劇場の看板か何かに「A STAR IS BORN」の文字が見えます。劇中の72年と考えても公開の75年と考えても「スタア誕生」はいずれのバージョンも時期が合わず、もちろんリバイバルという解釈もできますが、調べてみたらおもしろいことを発見しました。

本作の脚本を担当しているフランク・ピアソンという方、じつはこの翌年に2回目のリメイクである「スター誕生('76)」を監督しております。よっておそらくイースターエッグであろう、というのがわたしの解釈。ビリー・ワイルダーも同じようなことをしていたような。ただ、脚本家がそこまで関与できるのかという疑問はありますが。

(2019年40本目/劇場鑑賞)

「午前十時〜」での上映は2019年3月28日まで!