去年の3月1日、さほど期待もせずレイトショーで観た「シェイプ・オブ・ウォーター」にノックアウトされてから丸一年。きっと今年もこの日にはいい作品と出会えるだろう、と思って選んだのは公開初日の「グリーンブック」。奇しくも「シェイプ〜」と同じくアカデミー賞作品賞を獲得した作品でした。
「シェイプ〜」を観たことで遅ればせながら意識するようになった、アメリカの人種差別問題。これをきっかけに、「ヘアスプレー(2007)」「ドリーム(2016)」といった「60年代アメリカ南部の人種差別」を描いた作品を続けて鑑賞し、アメリカ映画においてこの題材が非常に大きなものであることを知ります。
本作「グリーンブック」も、まさにその類の映画にあたります。60年代のニューヨーク、著名な黒人ピアニストのシャーリーは敢えて「南部」へのツアーを組み、道中のドライバー兼用心棒として白人のトニーを雇用。トニーは、自宅に上がった黒人作業員が使ったグラスをつまんで捨てる程度の、ごくありふれた差別意識を持った人でした。
ニューヨークでは高い地位を得、むしろ富裕層に位置していたシャーリー。そんな彼も、差別の根強い南部へ旅を進めるにつれ生々しい差別に直面していきます。はじめこそ偏見の塊だったトニーですが、シャーリーの置かれた状況を目の当たりにして次第に意識が変わり、最終的にふたりは生涯の友人となったそう。実話です。
そこそこショッキングな差別描写が盛り込まれつつもこの映画が「ドリーム」ほど胸糞悪い*1ものではないのは、頼れる用心棒シャーリーが常についているから。
Wikipediaによれば映画等における「白人の救世主」問題というものがあり、本作もそこで物議を醸したりもしているようなのですが、少なくとも遠く離れた島国の人間的にはなかなか身近に感じにくい人種差別に対しての意識を深められ、他意を感じることはない作品に仕上がっているという感想です。
アカデミー賞受賞作ということで、普段ならこういう作品は閑古鳥であろう最寄り映画館でも驚くほどの客入りでした。一年前のわたしのような、「60年代アメリカ 黒人 南部」というワードにピンとこないような、学校で学んできてはいるはずだけどまるで覚えていないような、そんな人が本作きっかけでひとつ世界を広げられたらいいなと思います。
という面を持ちつつも
この映画はとにかく全体的に魅力的な要素がたっぷり!
黒人ピアニストを演じるマハーシャラ・アリと、イタリア系白人用心棒を演じるヴィゴ・モーテンセンのバディっぷりがまず堪らんわけで、バディもの好きな人なら最初から最後までくすぐられまくりです。絶対。
それから、きっと映画の半分を占めるであろうシチュエーション、青緑のキャデラック。もしかしたら「シェイプ・オブ・ウォーター」に出てくる成功者カラー「ティール」のキャデラックと同じかも。
画像は「シェイプ〜」のキャデラック。特別に車好きというわけではありませんが、何をとっても60年代あたりの色かたちは魅力的。
食べ物の描写もえらくそそります。あんなピザの食べ方初めて見たし、なによりケンタッキー!! 鑑賞後はKFCに行けるスケジュールを組んでおいたほうがいいです!! レイトショーの場合はファミチキで我慢しよう!!
テーマとしてはピリッとしたものを扱いつつ、全体的にはあたたかい映画になっているのもとても良いです。少ない出番ながら作品のムード作りに大いに貢献しているのがトニーの奥さん(リンダ・カーデリーニさん。めちゃくちゃ可愛い)。彼女のおかげでアメリカらしいホリデームービーとしても成り立っていて、単純に「いい映画」です。
ここのところド派手な映画ばかり観ていたので、久しぶりにこういう「いい……」ってなれる映画に触れて安心しました。来年の3月1日にも期待しちゃいます。
(2019年22本目/劇場鑑賞)
*1:「ドリーム」を経由せず観たら本作もだいぶ胸糞悪いのかもしれません。わたしにとっては「ドリーム」が初めての生々しい有色人種差別描写で、とにかく衝撃だったのです。