353log

主に映画のあらすじと(まとまりのない)感想文

ハドソン川の奇跡(2016)

機長、究極の決断 (静山社文庫)

機長、究極の決断 (静山社文庫)

トム・ハンクス主演、クリント・イーストウッド監督作品。あんまりトム・ハンクスが好きじゃない(主に顔面的な理由)こともあり、観たい映画上位に常時ランクインしていながらも何度TSUTAYAの棚に戻したかわからない一本。今年の記念すべき101本目としてついに棚から抜き取りました(笑)

あらすじと構成

2009年ニューヨーク。離陸直後の旅客機がバードストライクにより両翼のエンジンを損傷するという不運極まりないインシデント発生。機体は推進力を失いグライダー状態になったが、近場の空港へ緊急着陸するには高度が足りないと思われた。また、離陸後間もない出来事だったため飛行エリアは未だニューヨークの中心部であった。機長は40年にわたる飛行経験から「ハドソン川への不時着水」という策を選択し成功、結果的に乗客全員を救った。

ハドソン川の奇跡」と称賛された「USエアウェイズ1549便不時着水事故」の顛末と、事故調査委員会による「不時着水は悪手だったのではないか」という追及への対応を描く、実話に基づく物語。

演じるのも撮るのも「実話ベースが好き」な印象を受けるイーストウッドの、今回も実話もの。詳細は、あらすじとイコールな「USエアウェイズ1549便不時着水事故」をご参照ください。「15時17分、パリ行き」といい、wikiの該当ページがあらすじとイコールなノンフィクション作品、好きです。

この事故、離陸してから不時着水までなんとたった5分の出来事だということで、それをどう2時間尺(実際には90分強)に引き延ばすのかと注目されていたようです。列車テロ事件を描いた「15時17分〜」は9割方を青年たちのバカンス描写に使うという振り切った作りでしたが、本作では事故再現映像の多面的な繰り返し、機長と周囲の人たちに降りかかった事故後の苦悩、調査委員会による追求・法廷劇といった様々な切り口で一本の「映画」を作り上げています(「15時17分〜」にもこれくらいのテイストを期待していたところは正直ある…笑)。


まず序盤で際立つのは国家運輸安全委員会という調査委員会の悪役感。実際にはマストな調査でしょうし、いくらなんでもここまで「悪役」ではないはず(と信じたい)ですが、155名もの命を救った機長に対してお前らそれでも人間か?!?!?!とわなわなしてしまうような「敵」として、劇中では描かれています。かなりストレス溜まります。

たった数分間にしかならない事故の再現シーンは、短いのをいいことに何度も、多面的に繰り返されます。特におもしろいなと思ったのは管制官とやりとりするシーン。同じ状況が2度出てきますが、1回目では「応答しない通信めがけて管制官がずっと話しかけてる」ように見えるところ、2回目ではインカムからちゃんと反応が来ていたことがわかります。同じ音声なのにチャンネルが増えただけでがらっと印象が変わります。派手なことはせずともカタルシスを感じられる作り、職人芸…!

少し複雑な時系列で同じ場面が多面的に見せられる構成は、クリストファー・ノーラン監督の最新作「ダンケルク」とも通じるところがあるかなと思いました。なんなら「事故版ダンケルク」かなと思いました。フェリーが助けてくれたりしたせいでしょうか。あちらも史実に基づいた、淡々とした、かつマンパワーを感じさせる映画でした。

「事故現場をメインにした映画かと思ったらわりと法廷劇だった」っていう意外性は「シン・ゴジラ」の「怪獣映画かと思ったら会議室映画だった」という同様のものを思わせます(9.11と3.11がそれぞれ大前提にあるというところも共通点)。こういう意外性、とても好きです。そしてやはり「地味な絵面でカタルシス」。聴聞会でのシミュレーション映像2種、地味な映像と同じ結果の繰り返しなのに息を呑み、拳を握ってしまう。これはなかなかすごい。

機長と副操縦士の人間ドラマも、最低限の言葉数で深く描かれてます。副操縦士スカイルズは機長サリーに絶対的な信頼を置いており、逆もまた然り。そこの確固たる関係性があるおかげで、調査委員会からの圧力に観客も耐えることができます。スカイルズの言うちょっとした台詞がいちいちいいんですよね。着水後の「NYに感動するなんて」とか(それを受けて涙腺を緩ませたように見えるサリーがまたよい)、最後の「またやるなら7月に」とか。

トム・ハンクスはすごかった

冒頭に書いたようにわたしトム・ハンクスがあまり好みじゃないのですが、サリーを演じるトム・ハンクスはすごかった…! メイキングとかでご機嫌に喋りまくるトム・ハンクスと、カメラが回ってるときのトム・“サリー”・ハンクスの別人っぷりったら。あんなにカメレオン俳優だとは知りませんでした。すごい。かなりポイントが上がったので敬遠していた他の作品も観てみなければ、です。

そしてサリーもスカイルズも、モデルとなったご本人さまはみなさんよく似てらっしゃる! というかそのまま本人が演じればよかったのではと思うほど顔立ちも良く。そんなところからの「全員本人」こと「15時17分〜」なのかもしれませんが(笑)

なおBlu-rayに特典映像で入っていた事故のドキュメントは、ご本人たちのインタビューだけで手に汗握るものになっており、映画にする必要ないじゃん!とか元も子もないことを思ってしまったりもしました。あとそうそう、思ってたより何倍もハドソン川って広いのね!っていうのが今回の学びでした(笑) 全然滑走路より広いじゃん…!(とはいえ、水平に着水できなかったときの惨事映像も見てしまったのでそういう問題じゃないのだと理解しました)

飛行機愛を感じる映画

この映画、個人的には「飛行機事故ものなのに飛行機に乗りたくなる映画」だと感じました。いくらハッピーエンドとはいえ、事故は事故なのですからいくらでもパニックものにはできたはず。でも本作を観たあと「もう二度と飛行機には乗りたくない!」とは思わず、むしろ乗りたくなってしまったほどでした。それはやはり「飛行機愛」が滲み出た作品だからなんだろうなあと思います。

離陸前の機内の様子、とっても好きな一連のシーンです。独特の緊張感と高揚感の漂うあの空気が、見事に再現されています。飛行機に乗りたいなあと思ったらあのシーンを観れば少しは欲が満たされるんじゃないかという感じです。あれは間違いなく「あの空気感が好きな人」が撮ったフェティッシュな映像と言えるでしょう。なにせイーストウッド監督、撮影のために旅客機一機お買い上げしてますからね! ついでに不時着水の経験もあるらしいですよ! 強者!

飛び立ってしまったらもう操縦士に身を預けるしかない胸高鳴る乗り物、飛行機。本作はきっと飛行機とそれに携わる人々への賛歌です(CAさんがここまでプロとして描かれる作品もなかなかありますまい)。よい映画でした! いろいろ書き足りてないけど感想おわり。

(2018年101本目)