素晴らしき哉、人生!(1946)
- 出版社/メーカー: IVC,Ltd.(VC)(D)
- 発売日: 2013/11/22
- メディア: Blu-ray
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個人的には何も知らずに鑑賞したことが感動を何倍にもしてくれたと感じているので、もし「気になってるんだけどまだ観てないんだよね〜」なんて向きの方がこちらをご覧になられているようであれば、以下を読まずにすぐさま鑑賞していただいたほうがより素敵な映画体験ができるはずです。
あらすじ
あるクリスマスイブの夜。ひとりの男に対して多数の祈りがささげられ、それは天上でも注目されるものになった。祈りを聞き届けなければ、その男は数時間後に身投げをして死ぬだろうと天使たちは予測する。翼のない2級天使クレランスは、男を改心させ翼を授かるべく地上へと降り立つ。
「男」ことジョージは、将来のビジョンに溢れた野心家の青年であると同時に、思いやりと責任感のある長男坊だった。世界を旅したい自分、勉学に励みたい自分などを抑えこみながら、常に他人のことを一番に気遣って生きてきた。そんな彼の蓄積された我慢は、突如限界に達する。
不運な事件で自暴自棄になり身投げをしてやろうと橋の欄干から乗り出したジョージのそばに降り立った天使クレランスは、あの手この手で自害を阻止しようとする。「生まれてこなければよかった」とこぼすジョージに対しクレランスが実行した策とは─。
いやはや。本当に素晴らしい作品でした。あな恐ろしや、名作! 印象としてはビリー・ワイルダー作品と近いですかね。つまり「おそろしくおもしろい」っていうこと。
斬新な設定と丁寧な描写
「素晴らしき哉、人生!」というタイトルから、どういった映画を想像するでしょうか。まさかいきなり宇宙空間で守護天使たちが会話してるシーンから始まるとは思わないですよね。どんな頭の使い方したらこれほど天才的なオープニングを思いつけるんでしょう。もうこのシーンで思いっきり掴まれるわけです。なにやら思ってたのと違うしこれは間違いなく超おもしろいんでないの!!という確信が持てちゃうんです。すごい。
「ジョージという男について知っておかねば」とスムーズに導入される主人公の半生回想。しばらくすればそれが回想だったことは忘れてしまい、普通にこの頃っぽい映画を楽しむことができます。ここの描き方が丁寧だから、ラストシーンで思わず落涙できるわけです。弟をかばって片耳の聴力を失った幼少期から始まり、主人公はいつだって「やむなく自己犠牲を払わねばならない」状況に置かれ続けながら歳を重ねていきます。自己犠牲というより「まあそうせざるを得ないよね」レベルの「我慢」なのがリアルで、のちのち演出的に功を奏します。
じわじわと、かつ客観的には不快ではない程度に主人公のフラストレーションは溜まってゆき(このとき、同時に「徳」も積まれていくのがミソ)、終盤の事件により本人も予測し得なかったであろう大爆発。爆発直前の「階段を上がろうとして手すりの玉ねぎ頭みたいなやつが外れてしまいブン投げたい衝動をグググッッと堪えて震えながら辛うじて元の位置に戻す描写」がめちゃくちゃ好きでした。ジェームズ・ステュアートの名演技。
んで、身投げ寸前!まで来たところで急にインサートされるおじさん。…誰でしたっけ?? となりますが、そう彼こそが、100分くらい忘れ去られていた2級天使クレランスさん!らしいよ!(なにせ降臨後のお姿は初登場) この「そういえばそういう話だった!」感が巧み。またクレランスさんのお粗末なキャラデザ(笑)も絶妙で巧み! どこかの感想記事で「B級天使」という表現を見かけましたが、最高な表現だと思います。
さあそして、予備知識なしだと驚愕の展開がいよいよここから始まります。
「バック・トゥ・ザ・フューチャー」のルーツここにあり
主人公ジョージが「俺なんて死んだほうが価値あるんだぜ。いっそ生まれてこないほうがよかった」と嘆くと、天使っちは「ガッテン。ならばこれでどうよ」と「ジョージが生まれてこなかった世界」を創り出し、体験させます。来るとき車で衝突したはずなのに傷ひとつない街路樹、本作の悪役“ポッター”の名がついた町、風紀の乱れた繁華街、持っていたはずの公園は墓地になり、墓石には弟の名が刻まれており、母は底辺の暮らしをしていて、最愛の妻は自分のことを知らない。
これって、よーく知ってるやつですよ、「バック・トゥ・ザ・フューチャー(以下BTTF)」の各種タイムパラドックス案件ですよ! ツイン・パインズ・モールがローン・パイン・モールになり、クレイトン峡谷がイーストウッド峡谷になり、ドクが照らした墓石にはドクの名前があり、悪夢のようなビフの娯楽天国が栄えている、まさにこれ!!じゃないですか!!
ここに関しては本当に全く知らなかったので、「えええええ?!」と心底たまげてしまいました。正直、アラサー世代なわたしからすると「BTTF」って至高の名作であり、大いなるルーツとして存在しているようなところもありまして、あんまり「BTTFの元ネタ」を掘り下げようとしたことってなかったんですよね。もちろん、最近イーストウッド作品に着手し始めたように、「理由なき反抗」を観てなるほどこれが1955年か〜と思ったように、少しずつ掘っていくつもりではあったんですけど、いきなりつるはしが金塊にぶち当たってしまったような感じです。
なんて…偉大なんだろう…(しばし思考停止)。
これに感動できなくなったらよろしくない
からの、現実に戻される主人公。友人の警官が「自分の名」を呼んでいることに気付くと思わずハグからのキス!(ぐらいに記憶しておりますが合っているでしょうか) BTTF1で帰ってきたマーティが恋人ジェニファーに会うや「何もかも最高だよ」と言うようなやつですね。それだけで観客も心底ホッとさせられる、最小限ながら効果的なシーンです。
BTTFではタイムパラドックスによって作り出されたハッピーエンドですが、本作で戻ってくるのはあくまで「元どおりの現実世界」。しかし主人公が「もしも」の世界を駆けずり回っている間に現実世界の状況は好転しています。この好転が決して唐突な、ご都合主義なものではなく、ここまで観客が観てきたとおり「主人公が犠牲を払いながら積み上げていった“徳”」によるものであるというところが、見事な脚本です。彼のいない世界では決して笑顔を見せなかった人々が、現実世界では満面の笑みを向けているのです。「友あるものは惨敗者ではない」。落涙するほかありません。
この映画、それこそストレートに「死にてえ」って時とか、とにかく心が荒んでる時に観たら涙ボロボロ間違いなしなんですよ。そこそこ健康な時でも最後は気持ちよく泣けるはずなんですよ。ほんっとうにいい映画なんですよ。これを観て素直に感動できなくなったら、自然と泣けなくなったら、その時は病院に行かないといけない段階なのかもしれないな、って思いました。
というわけで「素晴らしき哉、人生!」。普段古い映画を観ない方には抵抗あるかと思いますが、一度プレイボタンを押してしまえばもう大丈夫。斬新で良質で、心のデトックスをしてくれる作品です。万人に全力でおすすめします!
(2018年91本目)