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主に映画の感想文を書いています

映画「あの頃。(2021)」感想|ハロプロのことよく知らんけど人生はすばらしいってことで

映画「あの頃。」ポスターハロプロことハロー!プロジェクトのアイドルに心酔する2000年代初頭の「ハロヲタ」たちを描いた、今泉力哉監督による映画『あの頃。』(←ハロプロあるある句点被り問題)。

詳しくないしスルーしよっかなと思っていたのですが、アトロクの「ムービーウォッチメン」で今週の課題映画に選出されてしまっては仕方ない。いっちょ観てまいりました。出演は松坂桃李、仲野大賀ほか。

あたくし一応90年代後半からのハロプロ全盛期ど真ん中を生きた世代ではあるものの、所謂ハロヲタでは全くありません。体育祭で黄色5を踊ったりはしたけれどその前の年はおニャン子だったし、だからなんだって話です。

そんなハロプロリテラシー極めてゼロな状態で観る『あの頃。』はどうだったかというと、分からないことだらけで悔しかった! ハロプロ史を知らずにハロヲタ戦記を観たらそりゃ楽しみきれないのは当然だし、歴史とまでは言わなくてもせめて思い入れがあればなあ。

例えば、超序盤で松坂桃李演じる主人公が松浦亜弥のPV集を再生するシーン。多分あれは実在するPV集だと思うんですけど、まずメニュー画面ですよ。知ってる人なら絶対あの画面だけで悶絶するでしょ。わたしだってもしあれが盤面すり減らすほど観たB'zのライブDVD『"BUZZ!!" THE MOVIE』とかで、メニュー画面のドクンドクンしてるやつが見えてたらうわーーーってなりますよ。

んでそのあとすぐCD屋に駆け込むじゃないですか。あそこなんて全方位に意味のあるものが陳列・掲示されているはずなわけで。見る人が見たらきっと全部に解説付けられるでしょ。それが全く見えない、ただのCD屋にしか見えない、この眼。うわーー悔しい。やだやだやだ。

わたしが反応できるとしたら主人公の部屋にあざとく置いてあるボンダイブルーの初代iMacくらいですけど(この頃にはすっかり型落ちみたいですけど)そんなことは今どうでもいいんですよ。この映画の明確なファンサービス要素にことごとく反応できない自分が、すごくやだ。

てなわけでサブカルコンプレックスマンは要注意です。

まあ掴みのそういうとこを過ぎてしまえば、あとはある意味普遍的な「推しに出会って世界が広がって」みたいなお話になっていくので各自の物語と重ねて味わっていけばいいんですけども。ただやっぱり、ハロヲタじゃないからいまいち楽しめてないんだろうなっていう時間はある程度ありました。そういう映画だと思います。ご参考までに。

以下、例によって箇条書きでてろてろと書いてまいります。

はみ出し雑感

  • この流れで先に難を付けておくと、冒頭の描き方だけでは主人公が本気でバンド活動を志しているようには全然見えないのが後々ノイズ。100年早いとか言われるほどのFenderじゃないし(少なくともあのソフトケースはなかろう)。難、以上。

  • 桃色片想い』で涙を流してしまう主人公の気持ちはわかる。ああいう明るい曲がやけに響くときってある。

  • 桃色片想い』は当時テレビからしか聴いたことがなかったので、こんなベースラインだったんだ、こんなアレンジだったんだ、というディティールを今回初めて知った。この頃の曲はそんなのばっかりかも。

  • 握手会、本当にあややがいるのかと思って結構どきどきした。ハロプロ所属にして「松浦亜弥役」という超大役を務めきった山﨑夢羽さん、すごい。

  • 松坂桃李」も松浦の松と桃色の桃が入った運命的なお名前なのよね。

  • 恋ING』は知らなかったけど、つんくが詰まった名曲だった。観終わってから聴き直したら「片思いも出来なくて人生つまんないって時期もあった」という歌詞に気付き、泣いた。『桃色片想い』で始まるのはそんな意味だったのか。

  • 大人になってから聴く当時のモー娘。は確かにめちゃめちゃいいんである。つんくの曲は心のやらかい場所をくすぐってくるんである。わたしが特に好きなのは『I WISH』。素晴らしき哉、人生。

  • 今泉力哉監督だからな〜、ってのもスルーしにくい理由だった。つい最近『愛がなんだ(2019)』に魅了されたばかりだったから。思えばあれもめちゃめちゃ「片想い」のお話。

  • 今泉組キャストの起用はもちろん(若葉竜也さんいいですな〜)、突然「自分」が出てきたりする独特な演出もなるほど今泉監督だな〜と思った。一瞬のカメ止めおばちゃんはさすがの存在感だった。

  • キャストで印象的だったのは正直なとこ主演の松坂桃李氏を差し置いて仲野大賀氏だった。あのひとはすごいな。数日前に『すばらしき世界(2021)』を観たばかりなんだけど、これじゃ仲野大賀の過剰摂取だ。

  • 松坂桃李氏は、好みでいうと好きじゃないほうの俳優さんである。顔が。だからいつも最初は「んー、好きじゃない」と思いながら観ているのだけど、最終的にそんなんどうでもよくなる傾向がある。最近では『蜜蜂と遠雷(2019)』とかもそうだった。いい役者さんなんでしょうね。

  • もともと『SUNNY 強い気持ち・強い愛(2018)』っぽい匂いを感じていたけど、予想以上に『SUNNY』な展開だったのは驚いた。あんな仲間がいたら最高だよ。すばらしき世界だよ。仲野大賀氏が逆の立ち位置になる『すばらしき世界』もぜひあわせてご覧ください。

  • サブカル教養云々でいうと『SUNNY』のほうが普通に楽しめたのは、あくまでマニアックにならない使い方だったからなのかな。

  • mixiや初期Twitterが出てくるのがうれしい。まだふぁぼがふぁぼじゃん! この時期を日本映画で描く場合ガラケー版のmixiTwitterの画面というのは結構需要がありそうなのだけど、地味に用意が大変そうでもある。

  • 宇多丸さんの「ムービーウォッチメン」ではほぼ間違いなく「セブンかエースか問題」が言及されるだろう。このカシオミニを賭けてもいい。(追記:言及されなかったのでカシオミニ没収です)

そんなところで、わたし的『あの頃。』でございました。これも『花束みたいな恋をした(2021)』同様、各々が自分語りを楽しむきっかけの映画というポジションでいいんじゃないかと思う。

(2021年37本目/劇場鑑賞)

劔樹人さん(松坂桃李が演じる役でもある)による原作。

あった、これだ。片想いのはじまり。