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主に映画の感想文を書いています

Driving in the silence / 坂本真綾

坂本真綾3rdコンセプトアルバム「Driving in the silence」。ある程度聴いたのである程度の感想を書いてみます。一つ前の「三周聴いたぐらいの感想」と被りますがあちらはメモということで。

Driving in the silence(初回限定盤)(DVD付)

Driving in the silence(初回限定盤)(DVD付)

01. Driving in the silence
Coccoの「強く儚い者たち」「樹海の糸」などで有名な柴草玲さんの楽曲。表題曲のくせにこの曲は「かぜよみ」制作時のデッドストックだったそうな。歌詞が先にあったうえで、それに柴草さんが曲をつけたとのこと。曲の居場所が見つかるまで暖めておき、今回晴れて収録。じつにめでたい!じつに良い曲です。

一瞬「eternal return」を思わせるようなピアノから始まり、たったワンコーラスで曲は終わってしまいます。しかしその短いなかにたくさんの展開があり、短いながらも「これはこの長さでいいんだ」と思わせてくれる見事な楽曲。大神田さんのベースがいい音だなあとか打ち込みのドラムがセンスいいなあとか真綾の専売特許「Ha-」コーラスが絶品だなあとか色々ありますが、特に好きなのは「世界もぼくを許すだろう」のところのコード感。何かの始まりを感じさせるような、高揚感のある音移動。素晴らしいです。

一曲目から、名盤の予感。

02. Sayonara Santa
ラスマス・フェイバーによる楽曲その1。意図的であろうザラついた仕上げの歌声が独特。四つ打ちをベースに淡々と進んでいくのですが、淡々と突入したCメロで非常に鳥肌モノの転調(「待っててくれたなら」の部分)。この部分は何度聴いても鳥肌が立ちます。ストリングスアレンジがまた秀逸で、淡々とした楽曲をじわじわ盛り上げてきてくれます。

間奏部分でかすかに入っている妙な高音たち、予想ではこれ今堀さんじゃないのかなあなどと思っていたり。今堀さんはノイズ系ギタリストとして名高いようですし、なんとなーく、そんな気が。ところでこの曲、ラジオでかなり先行オンエアされていたため、曲の最後に「ゔぃーたみんえーむっ」というジングルが入ってないと違和感を覚えてしまうわたしです。

なおこの曲における「サンタ像」についてはこちら参照のこと。

03. Melt the snow in me
ラスマス・フェイバーによる楽曲その2。「Sayonara Santa」とはまた全然違う、ものすごく落ち着いた曲。というかこの曲は誤解を恐れずに言ってしまえば「菅野よう子かと錯覚するような」曲。菅野さんの曲は「邦楽感の薄さ」みたいなのが魅力のひとつだと思いますが、この曲に漂うその雰囲気は、やはり日本人ではない作曲家が作った故か。というのと、恐らく氏は菅野ファンだと思われるので純粋に影響を受けている可能性も。

まあ細かいことは抜きにして、真綾の歌声をこれでもかと堪能できる素晴らしい曲です。「I am not alone〜」から突入するCメロがまた、良い。つくづく真綾には英詞が合いますね。僕は日本人の歌う英詞というものがあまり好きではないのですが、真綾に関してだけは好きなのです。これは盲目とかではないと思う。単純に、合う。心地良い。

ラスマス・フェイバーは正直「アニソンを超絶オサレなジャズでやってる人」ぐらいの認識でしかなかったのですが(真綾本人もラスマスによる「約束はいらない」のカヴァーがきっかけで曲提供を依頼したようです)、オリジナルの作品も聴いてみようと思わせられました。

04. homemade christmas
「Buddy」でもコラボした江口亮氏の楽曲。あからさまなクリスマス楽曲その2。いい感じの古臭さ、古臭いながらもセンスのいい音色セレクト、小気味良い音圧の高さなどなど、思わずわくわくうきうきさせられてしまう「まさにクリスマス!」な曲で、クリスマスの雰囲気が好きな僕としてはなかなかたまりません。真綾無関係ですが、マクロスFクリスマスアルバム「cosmic cuune」に収録されている「サイレントでなんかいられない」とポジション的に近いものを感じるなあという印象。

曲の雰囲気と反することなく歌詞もベタベタなクリスマス。でも多分この曲には震災後の気持ちみたいなのも込められてるのだろうと思います。インタビューで真綾本人は最後の2行「きっと来年もまたいろんなことあるけど 私たちなら大丈夫 幸せになろうよ」を言いたいだけの曲だ、と発言していました。これはもちろんすごく身近な対象への言葉にもなるし、それこそ日本中、世界中へのメッセージともなるわけで、うまく言えないけどきっとそういう曲なのでしょう。

05. 今年いちばん
これと次曲は、APOGEEというバンドの永野亮氏による提供。存じ上げなかったのでチェックしてみます。スローなスイングが心地良い、うってかわって超アナログな楽曲。最上級に絶品な真綾の歌声が、どっぷり、どっぷりです。間奏部分の生々しいストリングスがまた素晴らしい。河野さんの弦アレンジは本当にセンスがいい。大好きです。河野さんによるヴィブラフォンもいい味出してますね。

今回のこのアルバム、とにかく声の録り音がいいなと思いまして。今までにないぐらい質感たっぷりな真綾の歌声を堪能できる気がします。真綾大好き河野さんのこだわりでしょうか。あと、音程的にもあまりシビアにしていない感があり、上がりきっていない部分とかをそのまま残してるんですよね。そのあたりも手触りがあって良い。

ところで、この曲は例の「ぎっくり腰やった日に録った曲」だそうですw

06. たとえばリンゴが手に落ちるように
やたらデッドな音響のガットギターに乗せて歌い始め、サビでぱっと広がる、ちょっと独特な曲。またろうさんによるパーカッションも、コミカルな音だったりかわいい音の木琴だったり(カタカタ鳴ってるのは多分スプーンで叩いたとかいう音かな)(あ、鍵盤系はまたろうさんじゃなくて河野さんだった)。ちょこちょこ入る鉄琴系の音はマリオのコインにしか聴こえません。

なんか「Lucy」あたりの声っぽいなーというのが第一印象でしたが、聴いていくと「まきばアリス!」系の曲かしらと思えてきたのでどちらかというとそのへんの声に似てるのかもしれません(似てるっていうか本人同士ですけど)。Cメロ最後の音の動きが未だ違和感あるけどそのうち慣れるだろう。

07. 極夜
タイトルからしてなんか凄そうだけれど、実際なんか凄い曲。ラスマス・フェイバー3曲目。なんというか、暗くてどろっとしてます。初回盤のジャケ写みたいな感じかなあ。僕はこの曲に馴染むまで結構かかったのですが、好きな人は一発目から一番好き!みたいな反応を示していたので、かなり好みの分かれるところとなりましょう。今ではかなり好きです。

あの独特の歪みを垂れ流す今堀さん、合ってるような合ってないような人力のような切り貼りのような奇妙なドラムを叩く外山明さん(今堀さんと外山さんはティポグラフィカという多分変態系バンドで一緒だったみたいです)、そして地べたを這いずるような弦。斉藤ネコを思わせる狂い系ヴァイオリンを弾いているのはどうやらかの弦一徹さんのようですね。聴けば聴くほどこの曲の世界観にずぶずぶ浸かってしまいます。なんでこんな曲ができたんだろう、突然。

08. 誓い
たぶん今回最も語るべきところ。「everywhere」に次ぐ、坂本真綾の作曲2作目。「everywhere」はまさかの名曲っぷりだったけれど、さすがに2作目までは期待していなかったし、まあいい曲だったとしても「everywhere」の二番煎じぐらいの感じかなーぐらいにナメまくっていた、のですが。結論から言えばまたものすごい曲ができてしまったという。

この曲が真綾の頭に降りてきたのは今年3月。震災の影響で一週間ほど仕事がなくなり、なすすべなく自宅で思考の海に沈んでいるしかなかった頃、「今こそ何かを作らないといけない」という気持ちで創りはじめた曲だそうです。パーカッションか時計の針にでも聴こえるド頭の音は、なんと真綾の家のソファーの角を鉛筆で叩いた音だとか。恐らくはICレコーダーで録ったようなデモの音を河野さんが残したのでしょう。

歌詞のことは専門外なのであんまり深い感想は得意じゃないのですが、「everywhere」が優しい曲だったのに対し、この曲は強い曲という印象を受けます。まさに何かを誓った、決心したような歌声は、意志の強いあの真綾の目が頭に浮かびます。曲調にも「強さ」がすごく出ていて、ああこれは本当に「全て本人から出た曲」なんだなあと。文章としての歌詞は一緒に出てきていないとしても、後に歌詞としてアウトプットされる「思い」は最初から込められた楽曲であるため、歌詞、歌い方、曲調、全ての密着度が非常に高い、そんなイメージです。

参加ミュージシャンは今回も「everywhere」とほぼ同じ。バンマス河野さん、自作曲なら絶対ご指名なのでしょうドラム佐野さん、安定のベース大神田さん、ギターだけは石成さんではなく「Get No Satisfaction!」で弾いていた松江潤さん(ずっとYUKIのサポートをやっている方なので個人的に大ファンで、非常に嬉しい)。間奏と後奏にたっぷり取られたギターソロが、派手ではないながらじつに良い。特に間奏のソロ終わりでBメロをなぞるのがたまらなく良い。

書いてるとキリなくなりそうなので、まあ総括すると「坂本さんすげえ曲つくった」ってことになります。未だにこの才能については半信半疑なのですが、もしこんな才能を秘めちゃってたのだとしたらこれからもどんどん「作曲:坂本真綾」の曲を聴いてみたいものです。とりあえずこの曲に関しては12月のライブが楽しみ…! ほぼ間違いなく泣いてしまうであろう。

09. Driving in the silence -reprise-
語りようのないrepriseです。冬の夜、貴方の「Driving in the silence」を延々ループさせてくれる魔法のトラック。


てなわけで! 相変わらずな感じのディスクレビュー(っぽいもの)を書いてみました。フルアルバム「You can't catch me」、シングル「Buddy」「おかえりなさい」、そしてコンセプトアルバム「Driving in the silence」と、非常に多くのリリースをしてきた今年の真綾ですが、どの作品も全く違う色をもっているのがすごいところ。違う色でありながら全て非常にクオリティが高く、はち切れんばかりの勢いです。

冬が好きなこともあり、今作はかなりお気に入りの作品となりました。来月には電車一人旅の予定があるので、のんびり揺られながら延々リピートしたいなあと楽しみにしています。

書き漏らしてることいっぱいあるだろうなあと微妙にすっきりしない気分ながら、とりあえずこれで終わりとしておきます。