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映画「すばらしき世界(2021)」感想|勤労したくなる映画

映画「すばらしき世界」ポスター西川美和監督の最新作『すばらしき世界』を観てきました。出演は役所広司、仲野大賀、長澤まさみ、ほか。

人生の大半を刑務所で過ごした中年男が13年ぶりの社会にどうにかこうにか馴染もうとする物語で、佐木隆三さんのノンフィクション小説『身分帳』を原作としています。

今回は鑑賞にあたって、先に西川監督のエッセイ集『スクリーンが待っている』を読みました。

スクリーンが待っている

スクリーンが待っている

ちょっと斜に構えた軽妙な語り口は是枝監督の文章などとも通じるところがあって、なるほど師弟。主に本作の制作ノート的内容となっていますが、途中でコロナ禍に突入するのがどきっとします。この本を読んだうえでの映画の感想はまた後ほど。

あらすじ

13年の刑期を終え出所した男、三上役所広司。今度こそカタギになるんよと決意し社会復帰を目指すが、身寄りもなく前科者の中年男が職を見つけるのは難しい。

そんな彼を興味本位で取材し始めた元テレビマンの津乃田(仲野大賀)とプロデューサーの吉澤長澤まさみ。老後の趣味として身元引受人を快諾した弁護士夫婦。厳しくも温かくアドバイスを与える生活保護ケースワーカー。同郷のよしみで世話を焼くスーパーの店長。徐々に三上は社会との繋がりを取り戻していく。



勤労したくなる映画

前科者のおっさんが社会復帰目指して四苦八苦する物語なのですが、なんというか、働きたくなる映画でした。最近、じつは半年くらい無職だったんだという友人から「普段あまり落ち込まないほうだけど流石にこたえた、働きたくなった」と聞いたのを思い出しました。

社会に組み込まれていないと心が荒んでくる。これって前科者とかに限った話では全然なくて、きっとどんな人にでも刺さるところのある映画だと思います。職探し中の三上が電話ボックスからふと街を見回して「みんな働いてるのに……」ってなるシーンはちっとも他人事じゃなかったです。

すばらしき世界の住人たち

出所した三上が関わる人は意外と沢山います。すごく記憶に残っているのが、福岡で出会う水商売のお姉さん。コロナ禍で「夜の街」とかいう言葉が以前よりもいやなニュアンスで使われるようになりましたが、あれは良くないよとあらためて思いました。短いながら温かく、泣かされるシーンでした。

ラストは事実だけを切り取ればバッドエンドです。でも間違いなくあの嵐の夜には多幸感があったし、もちろんショックで悲しくてみんな愕然とするわけだけど、どこか泣き笑い的な清々しさも感じたりして。あのときの三上は「すばらしき世界」に包まれていたんだと思います。

抜群のコメディでもある

重めのテーマを扱った作品ではありますが、特に前半はかなりコメディ色が強くて笑わされました。役所広司さん演じる三上の、人懐っこい中年男性と極道が行ったり来たりする感じ。そしてそれをこりゃいかんと見守らざるを得なくなる周囲の人たち。たまらない可笑しさです。

なかでも代表的な可笑しみポイントは「教習所」のくだり。刑務所時代の規律正しさが滲み出てしまったり、そのくせ運転センスは皆無だったり、同乗する青年と教官とのギャップだったり、全てが奇跡的にシュール。肩が震えました。

「優しい三上さん」にも「どこぞの組の三上」にもすんなり無理なく見えてしまう役所広司さん、すごいんだなあって、今更なことを。

エッセイにまつわるあれこれ

監督のエッセイ集『スクリーンが待っている』。この本に書かれている様々なエピソードは映画の中身にもあれこれ混ぜ込まれているので、読んでから観ると「あ!」と気付けるし、観てから読み返しても新たに見えてくるものが多いです。

キャラクターでいうと、例えばアパート階下の外国人青年3人がじつは思いのほか深い経緯であのシーンに登場していることだったり、幼少期を過ごした施設で三上が出会う高齢の女性がじつは某大女優の代役さんであることだったり。または終盤で登場するとある青年のスピンオフエピソードが短編小説として収録されていたり。

コロナ禍の映画製作ドキュメントとしての資料的価値もあってとてもおもしろい一冊でしたので、ご興味ある方は是非あわせてどうぞ。

(2021年36本目/劇場鑑賞)

身分帳 (講談社文庫)

身分帳 (講談社文庫)

入手困難だった原作小説、この機会に復刊されたそうです。本作で仲野大賀さんが演じているのは、この小説の著者佐木隆三さんでもあり西川監督でもあるというちょっとメタな役どころ。
スクリーンが待っている

スクリーンが待っている

そういえばエンドロールで録音に「音響ハウス」がクレジットされていて、映画『音響ハウス(2020)』を観た直後の身としては二度おいしい感じでございました。