すぐにでも書きたかったのに書きそびれてしまった感想その1「『幾多の北』と三つの短編(1/29@新文芸坐)」をお送りします。「一晩寝かせる」をしない心の強さ(および睡魔への負けなさ)が欲しい。寝かせたら終わりです。
「『幾多の北』と三つの短編」@新文芸坐
アニメーション作家の山村浩二さんが監督orプロデュースした作品を集めた「『幾多の北』と三つの短編」を池袋・新文芸坐で観てきました。世界的に高い評価を得た山村浩二監督の『幾多の北(2021)』に加え、同じく山本監督の短編『ホッキョクグマすっごくひま(2021)』、幸洋子さんの監督作『ミニミニポッケの大きな庭で(2022)』、そしてアトロクでもお馴染み(※)矢野ほなみさんの監督作『骨嚙み(2021)』の4本がパッケージングされた、企画上映というよりはひとつのオムニバス作品的なものになっております。
※「アトロクでもお馴染み」の詳細はこちら
新しくなったシン・新文芸坐へ行くのは初めて! 館内は写真などで見るより変貌してはおらず、安心しました。今回の上映、すっかり頭から抜け落ちていたのですが、アトロクの『骨噛み』音声ガイド制作プロジェクトにて視覚障害者モニターとして制作に関わった石井健介さんからお誘いいただいて、売り切れ直前なんとか滑り込み、行くことができました。観れてよかった…!
オープニングを飾るのは『ミニミニポッケの大きな庭で』。フレッシュな感想がよかろうと思いましたので、鑑賞当日のTwitterからわたしの感想をコピペすることにします。
幸洋子監督の『ミニミニポッケの大きな庭で』は、画用紙に描いた子供の落書きみたいな絵がサイケデリックに動き回り、正気じゃない声が響き渡る「ヤベぇヤツ来た」系作品。ヤベぇの好物なので終始にこにこしながら観た。たまらぬ。オープニングアクトに最適。
これ、ほんと度肝抜かれましたね。新文芸坐の大きなスクリーン、それもかなり前の方で観たので、いきなりとんでもないインスタレーションを見せられたような体験でした。原画はパラパラ漫画用の小さな紙だそう。それを巨大スクリーンに投影させることによる、圧倒的アート感。こういう小規模な作品を映画館で観る必要性、正直そこまで感じていなかったのですが、一発で「こりゃ映画館でなきゃ」と理解しました。
続きまして『ホッキョクグマすっごくひま』。同じくフレッシュなツイート引用でまいります。
“白”山村監督の『ホッキョクグマすっごくひま』、すっごく好きだった。絵巻物のように流れていく水墨画タッチのゆるい動物たちと、いかしたビートに乗せられた和英ことばあそび。なんちうセンスじゃ、とただただ感動。いや感動するような映画でもないのだけど。
ゆる〜〜〜くて、センスあまりにもよくて、いろんな概念が覆されるような逸品でした。いつまでも観ていたかった。絵コンテも絵巻物スタイルだったのがすごい。なお「“白”山村監督」というのは、上映後のトークで映画評論家の中条省平さんがおっしゃっていたこと。
中条先生が「黒手塚」「白手塚」になぞらえて、『幾多の北』を「黒山村」、『ホッキョクグマ〜』を「白山村」と捉えられた、その語り口に脱帽しました。 https://t.co/E1hVkJ4r23
— 映画 『幾多の北』と三つの短編 公式 (@wowptheater) January 29, 2023
短編の最後は、お待ちかね!矢野ほなみさんの監督作『骨噛み』。前述のとおりアトロクリスナーにはお馴染みの作品ですが、矢野さん曰く、アトロクでの「音声ガイド付き全編上映(ラジオでの「映画上映」)」を聴いてその答え合わせに来られる方が多かったそうです。
アトロク音声ガイドプロジェクトでお馴染みの『骨噛み』は、しかし大スクリーン・大音響で観るのは初めてで、点描のうごめきやライトボックスの眩しさを今までで一番感じた。灯台からぐるっと放たれる光の粒子がすごくきれいだった。いらっしゃらないと思っていた矢野監督にお会いできたのもうれしい!
Twitterで感想を見ていたら、灯台の光が印象的だったと書かれている方が他にもいたので、あの大きさで観ることにより際立つ部分だったのだろうなあと思いました。そして、矢野さんが担当された『TRIGUN STAMPEDE』のED映像を観ることでその思いはさらに強まり。これ、すごいです……。
同じ点描アニメーションでも、白黒反転させることでこんなに印象が変わるなんて。矢野さんのアニメーションに底知れない可能性をあらためて感じたのでした。
そして、本作のメインアクトと言いましょうか、山村浩二監督による長編アニメーション作品『幾多の北』。こちらメディア芸術祭のサテライト会場だったシネマ・チュプキ・タバタにて『骨噛み』と共に上映されていましたが観れるタイミングがなく、今回初鑑賞となりました。
“黒”山村監督の『幾多の北』。こーれは、すごい…。詩的なテロップで進んでいくスタイルは無声映画っぽくもあるし、自主映画時代の大林宣彦作品っぽくもあるし、でも映像や音の規模感は全くインディペンデントじゃなくて、圧倒されっぱなし(たまに睡魔)の1時間でした。これは映画館でなきゃ。
上映後のトークもすごくおもしろかったです。山村監督、音楽ありきの作品を作られる方なんだなあというのが2作品だけでもよく伝わってきた。『幾多の北』のラスト、しっかり描かれているバンドが好き。ホルンのベルアップみたいなの好き。
ほんっとに、すごかったです。チュプキでは当然ながら音声ガイド付きで上映していたはずですけど、「これどうやってガイドしてたの???」と思ってしまうような作品。映像もすごければ、サウンドデザインもすごい。音響デザインの笠松広司さんは、それこそ今話題沸騰の『THE FIRST SLAMDUNK』なども担当されている方! 映画にとっていかに「音」が大切かを再確認させてくれます。
「『幾多の北』と三つの短編」はこれから全国に公開拡大されていくとのことで(チュプキでも3月後半、上映します)、お近くの劇場でかかる際には是非ご鑑賞をおすすめします。スクリーンかぶりつきで観るハンドメイドのアニメーションたち、作品規模に対してめちゃくちゃインパクトの大きい体験でした。これは映画館で観るべき映画です。