“ワンハリ”きっかけの「大脱走(1963)」雑感
「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」劇中で洒落っ気たっぷりに登場した1963年の映画「大脱走」。隣の人が「クフッ」と吹き出していたのが未見のわたしには羨ましくて、というか悔しくて、履修してからおかわりするんだ…と急いで観ました。
契約中のPrimeVideoとNetflixでは配信がなく(意外とHuluにはあるみたいですね)、1,000円くらいなので手っ取り早くBlu-rayを購入。廉価版Blu-ray、こういう時すごく助かります。
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概要
時は第二次大戦下。捕らわれた英米の空軍兵たちがドイツの収容所に送られてくる。彼らの使命はただひとつ。脱走を企て、収容所を引っ掻き回し、ドイツ兵の労力を浪費させることである。
1943年から1944年にかけて計画・実行された、なんと250名を脱走させるという前代未聞な「大脱走」プロジェクトの顛末を描いた実話ベースの物語。
正義の脱獄劇
脱獄ものというと多くが「刑務所」を舞台にしたもので、例外もあれど基本的には「罪に罪を重ねる(けど映画的にはエンタテインメントだよ)」系かと思います。この映画がおもしろいのは、不当に収監された「捕虜収容所」からの脱出であるところ。観るまで知らなかった!
しかも、これは劇中でも最初に説明されることですが、ドイツ兵にとって捕虜たちを逃すまいと監視することが仕事であるならば、捕虜たちにとっては脱走することが仕事である、という基本ルールがあります。「我々は全力で脱走を試みる。そちらも全力でそれを止めろ」という選手宣誓のようなやり取りから映画は始まるのです。斬新です。
アウシュビッツなどとは事情が違って、おとなしくしていればこの収容所では命が保証されているようです。終戦まで我慢しろ、と。それでもわざわざ身の危険をおかして脱走計画を立てるのは、大規模な騒ぎを起こすことでドイツ兵の労力を「こんなところで」浪費させることができるから。前線で戦う仲間たちへの支援ってことですね。なるほど〜。
とまあそんな、史実に残る大脱走劇を描いた映画です。約3時間ある長尺映画なのですが非常に面白かったです。
組織立てられた脱獄
数名で役割分担をするのはまあよく見る話ですが、このプロジェクトはそんじょそこらの脱獄とはスケールが違います。優秀な指揮官のもと幾つもの部門が設置され(映画では分かりやすく少人数になっているが実際は数百人規模だった模様)、しっかり組織立てられた状態で進んでいきます。本当に捕虜か??と思ってしまいます(笑)
さらには、脱獄用のトンネルは3本を同時に掘り進め、バレたらカモフラージュも兼ねて捨てる、という周到さ。人数の成せる技です。
もちろんこの収容所はそういった計画を挫くため、様々な対策がなされています。床下を掘ろうものなら一発でバレてしまう「高床式」の建物、掘りやすいが崩れやすくもある地質、掘り出した土を隠すには不向きな色の地表、掘る「音」を察知できるマイク、などなど。脱獄の猛者たちはそれらを無事かいくぐり、有刺鉄線の向こう側へ、森の奥へ逃げることができるのでしょうか。
まあとにかくこの猛者たちがすごくて、作戦決行の日まではひたすらわくわくします。プロの仕事です。楽しいです。
基本的にはエンタメ映画でありながら、史実を扱う映画としてそのエンタメ的でない部分をしっかり描いているのも本作の特徴と言えるかもしれません。劇中では250名の大脱走が企てられるわけですけども、実際何人が脱走に成功したのか、そして最終的に何人が生き残ったのか、死んだ者がいたとしたらそれはどんな経緯か、戦争映画としての面にも注目です。
スティーブ・マックイーン
史実上はイギリス兵たち中心で進められた作戦のようですが、映画では興行も意識してスティーブ・マックイーン演じるアメリカ兵が大きく活躍する展開になっています。バイクでフェンスを飛び越えるキービジュアルのシーン、てっきりあれが「脱獄」かと(エンタメすぎる)。
本作を観るきっかけとなった「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」は、元々「マックイーンになろうとした男」というタイトルで書き進められていました。そんなわけで「ワンハリ」劇中のディカプリオは「俺が『大脱走』のオーディション受かってたらなあ」とあの妄想をするわけでございます。
ちなみにシャロン・テート事件で被害者となったジェイ・セブリングは当時マックイーンのスタイリストもつとめており、マックイーンは彼やシャロンと親交がありました。プレイボーイ・マンションのシーンに登場するマックイーンがこの2人について説明しているのはそんな繋がり。記録によれば「あの日」、マックイーンもシャロン邸に招かれていたのだとか。
などなど書いておきながら、じつはスティーブ・マックイーン、初めて観ました。似たような経歴を持つクリント・イーストウッドは結構観ているのに、マックイーンは「荒野の七人」すら未見だったという。「荒野の用心棒」も「七人の侍」も観てるのにそっちは観てなかったかと、自分でも意外です(笑) 近々タランティーノ監督のバイブル「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト」も再公開されることですし、西部劇を履修する流れが来るかもしれません。
個人的にはマックイーン、今でいうとダニエル・クレイグなのかなあという雰囲気で(一般的にもそう言われてるようですが)、ダニクレ好きとして注目度上がってます。超今更。
今回の課題図書
マックイーンと同じくらい主役級の存在感を放つのが、リチャード・アッテンボロー演じる脱獄マイスターのロジャー・バートレット。実際の名はロジャー・ブッシェルという彼の伝記をご紹介いただき、読んでいるところです。
- 作者: サイモンピアソン,Simon Pearson,吉井智津
- 出版社/メーカー: 小学館
- 発売日: 2014/12/05
- メディア: 文庫
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劇中でも非常に魅力的なキャラクターですが、実際のロジャーもカリスマ的な魅力に溢れた人物だったことがよく分かります。約600ページのボリュームも、この面白さなら3日で読めそう。映画と併せて本を読むの、楽しいですね。
追記:読みました。
大脱走マーチ
テーマ曲の「大脱走マーチ」。せめて「レイダース・マーチ」くらいのものを想像していたんですけども、あの曲かよ!!!と拍子抜けしました。もし未見でご存知ない方は、調べないでいきなり観てずっこけてほしいです。
エルマー・バーンスタインの曲ということで確かに「荒野の七人」のテーマ曲っぽいところもあるんですが、いやしかし、この映画にあの曲かよ。戦争映画なのに全編通してポジティブな雰囲気が流れているのはこの曲のおかげだったのかもしれません。映画史に残る生ハムメロン的劇伴。
(2019年83本目)
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