353log

主に映画の感想文を書いています

映画「燃えよ剣(2021)」感想|新作の時代劇映画、これまで観てこなかったことを猛省。

現在公開中の映画燃えよ剣を観てきました。司馬遼太郎の同名小説を原作とした新選組の物語ですが、こういう新作時代劇映画をわたしが観るのは劇場でもそれ以外でも初めてかもしれません。というのも単純に興味がなかったんですよね、幕末なんてのは特に。

ただ今年に関しては、幕末〜明治を描いた大河ドラマ青天を衝け』を観ていること、さらには音声ガイド制作で先日携わらせていただいた大林宣彦監督作品『海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)』に新選組のくだりが登場し調べざるを得なくなったこと、など接点がいくつもあって今なら楽しめるかもしれないと思い、観ることにしたのでした。


映画「燃えよ剣」ポスター
映画「燃えよ剣」ポスター


まず『青天を衝け』で「幕末」が身近になっていたことが良かったです。わたしそもそも歴史に興味がなくて、特に幕末というものは本当に食わず嫌いだったんですけど、いわゆる徳川幕府!時代劇!っていう感じから近代にぬるっと移行していく、チョンマゲ侍と洋装が入り混じる不思議な時期がすごく面白いなと、ここにきて思えるようになりました。

本作でも岡田准一さん演じる土方歳三が洋装で登場して過去を振り返っていきます。すると徳川慶喜が出てきたりして、これ『青天を衝け』では草彅剛さんが好演していますけども、ああ本当にこの時代なんだな、渋沢栄一(『青天〜』の主人公)も同じ時代を生きているんだな、などと繋がりを感じて楽しくなります。

映画終盤で「敵も味方も分け隔てなく治療する」という近代的な考えの医師が登場する場面ひとつとっても、ああこれ栄一が慶喜の弟を連れてパリ万博へ行ったときに見てきた野戦病院のやつだ、なんて思えたり。あとフォトガラとか。歴史ってこういうふうに知っていけば楽しいんですね。


それから『海辺の映画館─キネマの玉手箱』を経由して見る新選組。今回特に注目していたのは芹沢鴨です。『海辺の映画館』では蛭子能収さんが演じていて、暗殺のエピソードしか描かれないのですが強烈な印象はあったんですよね。そんな芹沢鴨、本作では打って変わって伊藤英明さんが怪演。暗殺シーンの血みどろバイオレンスが物凄くて、コミカル?に描かれていた大林版を実写で見た、という感覚になりました。

芹沢鴨といえば、新選組を象徴する「あの衣装」は芹沢が考案したのではないか、とすると土方たちは着なかったのではないか、という解釈も興味深かったです。新選組の映画だけど「あの衣装」じゃないんだ!突っぱねるんだ! 確かに映画としてのルックも黒ずくめのほうが洗練される気がします。

さて、ここでようやく主人公の話。土方を演じる岡田准一さん、『ザ・ファブル 殺さない殺し屋(2021)』を酷評してしまったことが記憶に新しかったので(別に岡田さんのせいではないんですが)ちょっと敬遠していて、でもやっぱり良かった、すごく良かった。前半はファブル的なオフビートのコメディリリーフとしてわたしのような時代劇抵抗ある層もすんなり映画の世界に招き入れてくれて、もちろん行く先には安定と信頼のハードボイルド剣術アクションも用意してあって。終盤、マゲを切って銃を持つようになってからの土方はベストかっこいい岡田准一だったかもしれない。

山田涼介さん演じる沖田総司もめちゃくちゃ良くて。笑顔と毒舌で土方を斬りまくる薄幸美少年、このキャスティングは彼以外ありえないのでは??とすら思いました。「つまんない川柳ですね(ニコ」からハート掴まれっぱなしです。いやほんと、美しいんだよなあ。ジャニーズすげえなあ。脇を固めるナイスキャラとしては村本大輔さん演じる山崎烝も最高。NHKで彼のスピンオフ連ドラが観たい。

柴咲コウさん演じるフィクションのヒロインお雪も、ちょい待て待てこのお方は井伊直虎やぞ、と時々我にかえりましたが相変わらずとてもよい柴咲コウさんでした。そういえば女性キャラの部分で驚いたのが、わりとエロティックな描写があるんですよね。物語が生々しくなって好ましい反面、ちゃんとインティマシーコーディネーター付けてるのかなと心配にはなりました。別に隠しても成り立つシーンですから。ちゃんとやってくれていることを願います。

あとはなんだろうな、時々ドキュメンタリーチックな映像が挟まれたり(インタビューシーンとしての土方の回想から始まる時点でまずモキュメンタリーなんですよね)、劇伴がカルメンのハバネラだったり(監督曰く『羅生門』のボレロみたいなイメージで使った*1と。なるほど! 時代的におかしくない、というのもなるほど!)、単なる時代劇じゃない感じが個人的にはすごく好みでした。

撮影も、セットじゃない部分がそこそこあると思うんですけど、令和にこんな風景あるんだ!と驚かされるロケーションが多かったです。なにより最後まで観ると、これめちゃくちゃ大作じゃんと。日本映画で、時代劇で、こんな大作映画が公開されていて、食わず嫌いでうっかりスルーしてたのかもしれんと思ったら、ちょっとゾッとしましたね。わたしとの引き合わせという意味では、一年半の公開延期は幸運でした。これまで新作時代劇映画を完全スルーしていたことも猛省です。

(2021年183本目/劇場鑑賞)

鈴木亮平さん演じる近藤勇のことを書きそびれてしまいましたけど、新選組スーパービギナーなわたし的には『海辺の映画館』で尾美としのりさんが演じていた近藤勇がニッチなマイファースト近藤勇でして、鈴木亮平さんでっかいな??という違和感が最後までついて回りました。どうもすみません。