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主に映画の感想文を書いています

映画「ナイトクルージング(2019)」感想|先天性の全盲者は映画監督になれるのか

先週末 新宿K's cinemaへ『こころの通訳者たち』を観に行った際、アフタートークのゲストに佐々木誠監督がいらっしゃるとのことだったのですが、失礼ながら佐々木監督のことを存じ上げなかったわたし。何か一本観ておこう!と前日になって観たのがこの『ナイトクルージング』でした。

「先天性の全盲者が映画監督になる」という挑戦の過程を追ったドキュメンタリー……いや、今回のアフタートークによれば監督自身は本作のことを「ドキュメンタリー」とは呼んでいないそうなのですけども、どちらかといえばドキュメンタリーと分類されるテイストの作品です。


映画「ナイトクルージング」ポスター
映画「ナイトクルージング」ポスター


これがめっぽうおもしろくてですね、こんなにおもしろい作品を今まで全く知らずにいたのか!と結構ショックなくらいでした。

普通に考えると、まあ例えばオーディオドラマのようなかたちで作り上げた音声コンテンツとしての「原作」を、そこからインスピレーションを受けた各方面のクリエイターたちが映像コンテンツとしての「映画」に膨らませていくとか、そういう作り方なのかなと、最初は思うわけです。

とはいえ「映画監督」となると、膨らませていく部分でも具体的な指示出しやジャッジをしていく必要が本来あるはず。あらゆるものの姿形を見たことがない「先天性の全盲者」に、それは果たして可能なのだろうか。

……これがめっぽうおもしろくてですね(再)。

あんまり具体的に書いちゃってもアレなんですけど、例えばキャラクターデザインをかためる工程ひとつ取っても、顔の造形を知るために博物館まで骨格標本を触りに行ったり、精巧なアンドロイドで表情筋の動きを勉強したり、フィッティングした状態で作った3Dスキャンのフィギュアを触って衣装の確認をしたりと、「そこまでする?!」がひたすら積み重ねられていくんです。

それに対して、監督だけではなく、関わる人たちが各々に新鮮な気付きや楽しみを得ているっぽいところもまたよくて。学者系の人たちは嬉々として話し出すし、クリエイターチームの人たちも、いつもなら「そういうもの」と無意識に通り過ぎていくあれこれを言葉や触覚などで伝えようと試行錯誤する作業がきっと楽しかっただろうし。それを観ている側は知的好奇心くすぐられっぱなしだし。

表面的には「聞こえない人のための手話を見えない人にどう伝えるか」という映画である『こころの通訳者たち』、そしてやはり表面的には「先天性の全盲者は映画監督になれるのか」という映画である『ナイトクルージング』。この2作品は、確かに(トークゲストも納得の)すごく通じるところのある作品だなあと思いました。PrimeVideoで観れますので、ピンときた方はぜひご覧になってみてくださいませ。

それから、引き続き353パワープッシュ中のドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち(公式サイト)』も併せてどうぞよろしくお願いいたします。K's cinemaは11/4(金)が最終日! 以降、順次全国まわっていきます。スクリーンでもう3回ほど観ましたが、噛むほどに味わい深い、おもしろい、いい映画です。

(2022年185本目/PrimeVideo)

公式サイトの仕掛けにびっくり。

こちらの監督インタビュー、すごくおもしろいです。サブテキストとしてどうぞ。「監督に向いている」のくだりが好き。


この日は普通にチケットを取って行ったのですが、急遽カメラマン業務が加わり、こちらのツリーの写真も撮りました(笑) 『ナイトクルージング』を踏まえたトークが非常に面白く、観ておいてよかった!とガッツポーズ。

【観てほしい】ドキュメンタリー映画「こころの通訳者たち」新宿K's cinemaほか公開中!

当ブログ内でも昨年末からたびたび触れてきた、シネマ・チュプキ・タバタ製作のドキュメンタリー映画『こころの通訳者たち What a Wonderful World』。チュプキでの先行公開を経て、先週10/22(土)からは新宿K's cinemaさんにて上映が始まりました。


映画「こころの通訳者たち What a Wonderful World」ポスター
映画「こころの通訳者たち What a Wonderful World」ポスター


ざっくりどんな映画かと申しますと、ざっくり説明するのが本当に難しい映画なのですが、まあ一応、あらのすじをそれっぽく書いておきましょう。

▼耳の聞こえない人に演劇を楽しんでもらうため、自身もパフォーマーとなって舞台上で手話通訳をおこなう「舞台手話通訳者」という職業がある。そしてその挑戦を追った短編ドキュメンタリーが、まず素材としてある。本番を終えた舞台手話通訳者たちが涙ながらに抱き合うシーンは感動的である。

このドキュメンタリーの感動を「目の見えない人」にも届けられないだろうか。相談が持ち込まれたのは、日本で唯一のユニバーサルシアター「シネマ・チュプキ・タバタ」。全ての映画に日本語字幕と音声ガイドを付けて上映し、字幕や音声ガイドが用意されていない作品の場合は全て自前で制作する、情熱と根性の映画館。

▼早速プロジェクトがスタート。見えない人、聞こえない人、手話通訳者、音声ガイド制作者たちが一堂に会し、「手話表現の音声言語化に挑む。しかしそれはある種、タブーを冒すような行為でもあった。会議室に暗雲がたちこめる——。

この映画に関しては昨年12月の最速お披露目会で初めて鑑賞し、その際にみっちり感想も書いておりますが、まずは額面通り「とある音声ガイド制作プロジェクトのドキュメンタリー」として興味深く観たようでした。

映画「こころの通訳者たち~what a wonderful world~(2021)」感想|手話を音声で表現し直す、挑戦的探求のドキュメンタリー


ただこれ、先月久しぶりに試写で観直したところ、まただいぶ印象が変わってきまして。ニッチな分野のドキュメンタリーと見せかけて、じつはかなり普遍的な「コミュニケーション」についての話なんだなと、すごく思ったのです。

そんなわけで、日頃「対話」と向き合ったり逃げたりしながら社会で生きていかねばならないザ・人間な私たちとしましては、必ずや何かしらグッとくるところのある映画となっておりますので、ぜひ、ぜひ観てほしいなあ!と、手短に言えばそういうことでございます。

新宿K's cinemaさんは上映回が朝10時固定なこともあってか、なかなか満員御礼にはならない現状なのですが、今後全国を回っていくうえでK'sさんの入りはだいぶポイントになってくると聞いておりますゆえ、お近くの方は何卒、足を運んでいただけましたら嬉しいです。11/4(金)までの上映です!

ちなみにわたくし353、チュプキには結果ずるずると関わらせていただいておりますけれども、本作『こころの通訳者たち』に関しましては全く関わりなく、単なるいち応援者でございます。チュプキでの先行公開はかなりご好評いただいており、それを間近に見ているので、この勢いを何とか他の劇場にも波及させていきたい…!!

関東以外も11月からは、名古屋、京都、大阪、兵庫、大分、福岡などなど既にあちこち上映日程が出てきております。そちらもあわせてチェックしてみてください。

あと、アトロクことTBSラジオアフター6ジャンクション」リスナーの皆さまにおかれましては、ゲームのアクセシビリティ最前線特集で番組をギャラクシー賞に導いた白井崇陽さん、先日の『骨噛み』音声ガイドプロジェクト完結編で宇多丸さんにブラインドジョークをかましていた石井健介さん、かつて日比さんが衝撃を受けたというバリアフリー演劇特集にもご出演の廣川麻子さん瀬戸口裕子さん、そしてチュプキ代表平塚さんなど、アトロクゆかりの方々が多数出演されていますので、やはり要チェックです! 最後にめっちゃ早口になりました。