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映画「サイコ(1960)」感想|いいかげんヒッチコックを観よう①

大きな声では言えないのですが、ヒッチコック『サイコ』を初めて観ました。どういうわけか縁がなく、これまでヒッチコックは『北北西に進路を取れ(1959)』しか観たことがなかったのです(それすらも観た理由が思い出せぬ)。

スリラー好きなのにこれは流石にダメですよねってことで、少し前にBSプレミアムで撮りためていたヒッチコック作品を観ていこうと思います。生暖かい目で見てください。あと、ネタバレ気にせず書きますのでもし未見の方おられたら気をつけてください。


映画「サイコ」ポスター
映画「サイコ」ポスター


さて『サイコ』。本当にほぼほぼワンシーンも観たことなくて、どんな話かも全く知らない状態での初見です。逆によくここまで触れたことがなかったもんだなと感心するレベルですが、ヒッチコック作品は他も全てそんな感じですね。鎖国か?

とりあえず驚いたのは、ヒロイン退場すんの早!ってところ。あんな早い段階で殺されてしまうとは。まさかのヒロイン退場系ではイ・チャンドン監督の傑作『バーニング 劇場版(2018)』などを連想しましたけども、当然ヒッチコックの系譜ということになるのでしょうね。人生必ずしも起承転結が付くというわけではない。こういうのリアルで好きです。

ヒロイン退場以降、物語の中心人物が次々と移り変わっていくのにも驚かされました。さほど尺を割いて描かれているわけではないはずの「恋人」「妹」「探偵」の3人がそれなりにしっかり劇中でポジションを確立していくのはすごい。かの有名な(そこくらいは見たことがある)絶叫する彼女、ヒロインだと思うじゃん。妹かよ。

等々、さすが泣く子も黙る名作スリラーだわという感じでじっくり堪能しましたが、最後のオチだけは今の感覚だと「あ、そういう」っていう感じ。というか、先日観たドキュメンタリー『トランスジェンダーとハリウッド(2020)』に出てきてたんですよね。

17分あたりにヒッチコックの作品にはジェンダーの倒錯した殺人者がよく出る。どういうこと? あの世から答えて。」という怒りのコメントがあって。つまりトランスジェンダーという存在はフィクションにおける「精神異常者」的キャラクターのエンタメ的演出に消費されがちだった事実があり、それが偏見を助長していると。確かにその通りとしか言いようがないし、そう聞いたあとでの「あのオチ」は「してやられた!」とは楽しめない。

ヒッチコックに限らずこういう「かつては面白かったけど今は面白がれない」事例は山ほどありますね。好きな作品だと「ごちゃごちゃうるせえな」と思ってしまう自分も時々いるけど、せめて頭の中で注釈は付けられるようにしておかないとな、と思います。

逆に、今となってはなんでもないけど当時は規制案件だった事例も興味深いところです。あんだけ緊張感高めてきてんのに殺害シーンがソフトすぎて一気に和んじゃうとか、あと「トイレの水を流す」ってのがそんなキワキワのヘイズコード案件だったのか!とか。時代が時代なら『トレインスポッティング(1996)』なんて終身刑ものじゃん。

エポックメイキングすぎるが故の目新しさのなさ、みたいな部分も多分にあるだろうと思われる作品だったので、ヒッチコックが後世にどれほど影響を与えたのか?という点はこれからいろいろ観ていくなかで勉強していきたいです。

(2021年125本目/BSプレミアム