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主に映画の感想文を書いています

クシシュトフ・キェシロフスキ監督「トリコロール」三部作

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ポーランドの映画監督クシシュトフ・キェシロフスキさん(言えない…覚えられない…)によるトリコロール」三部作を観ました。

トリコロールとはフランス国旗の【青・白・赤】を指しますが、その並びに沿って制作されたのがトリコロール/青の愛」トリコロール/白の愛」トリコロール/赤の愛」という三本。

トリコロールの各色が象徴する【自由・平等・博愛】を、作品ごとのテーマとしています(この言葉はフランスの標語とのこと)。

三本とも、寝落ちそうになりながら観ていると「おお」みたいな作品だったので、おもしろさの言語化はむずかしいのですが、順番に三本観ていくと最後にはそれなりの達成感を得られる作りになっているので一気見がおすすめです。90分台とお手軽な尺なのも嬉しいところ。

トリコロール/青の愛(1993)

テーマは「自由」。事故で夫と娘を亡くした主人公。作曲家だった夫が遺した未完成の交響曲に付きまとわれ苦しみながらも、少しずつ過去を受け入れて解放される物語。

交響曲」が感情を支配してくるという独特の演出、主演ジュリエット・ビノシュの儚くも強い主人公像、「青」で統一された色調、魅力的な映画スイーツ「アフォガード」などが見どころです。

トリコロール/白の愛(1994)

テーマは「平等」。最愛の妻から離婚を言い渡されてしまった男が、関係修復のために復讐をはかる物語。妻にかつての自分と同じ無残な状況を体験させ、これで“おあいこ”とほくそ笑む。

トランクに入って国外逃亡しようとする(ていうか成功する)など、シュールながらコメディ色の強い作品。わりとぶっ飛んだお話に圧倒的魅力で説得力を持たせる「最愛の妻」ジュリー・デルピーさんが何よりの見どころです。

トリコロール/赤の愛(1994)

テーマは「博愛」。女子大生モデルの主人公と、彼女がひょんなことから出会った人間不信な老人との交流を描いた物語。電話の盗聴を趣味にしているという奇妙な老人は、なんと元判事だった…。

偽善的とも見える心優しい女性にほぐされていく偏屈老人、というベタベタな設定ではありますが結構すんなり楽しめます。そして、王道と思いきや予想外の展開を用意しているところが名作の風格。「赤」基調の可愛らしい画面に仕込まれた伏線を回収するラストカット、ゾクッとします。

同じ世界線の物語

それぞれ単独の物語なのですが、じつは同じ世界線、時間軸のもとにあり、ニアミスしながら一点へ向かっていきます。最初にそれが分かるのはおそらく「白」の序盤、裁判所のシーン。一瞬ジュリエット・ビノシュが入ってきて、すぐ出ていく。そういえば「青」にビノシュ視点のそのシーンあったわ…!

三作全てに共通して出てくるものもあります。「ゴミ箱に缶を捨てようとする老婆」。缶を入れる穴が高い位置にあり、なかなか缶は入ってくれません。必ず主人公と同じフレームに登場するこのシチュエーション、主人公がどんな反応をするのかが見どころです。

是枝監督のトリコロール俳句

だいぶ話はそれますが、是枝裕和監督の最新著「こんな雨の日に」を読みました。日仏合作映画真実の構想・制作過程を記録したもので、この映画でジュリエット・ビノシュを見たことから「トリコロール/青の愛」を観るに至った、という一応の関係があります。

全編フランス撮影となったこの映画の制作期間中、現地のスタッフたちからリクエストを受けて監督が一句詠むのですが、その俳句に込められた風景描写の色彩がよく見るとトリコロールになっている!という、すごく粋なエピソード。

どんな俳句なのかは、ぜひお読みください。とてもおもしろい一冊だったので別途感想を書きたい。書けるかな。

なお、この「トリコロール」三部作がクシシュトフ・キェシロフスキ監督の遺作になってしまったようで、しかも享年54歳…。お若い…。でも最後の作品として申し分のない三作だと思います。特にやっぱり「赤」のラストカット、好きです。

(2019年125・131・132本目)
※「青の愛」はこちらにも感想を書いてます。

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「レオン 完全版(1994)」雑感

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午前十時の映画祭で「レオン 完全版」を観てきました。「完全版」の差分はどこなんだろうと調べてみたら、レオンと聞いて真っ先に思い浮かぶようなシーンがことごとく完全版だったという。通常版(劇場公開版)は観たことがないようです。

あらすじ

ニューヨークの殺し屋レオンジャン・レノは、ひょんなことから隣家の少女マチルダナタリー・ポートマンを匿ってしまい、なし崩し的に共同生活が始まる。マチルダは、自分の家族を殺した男ゲイリー・オールドマンへ復讐するためレオンに殺しを教わろうとするが……。

作為的名作、だが良い。

この映画に影響されて観葉植物を買ったこじらせ男子はわたしだ! ということで、なんというか結構わかりやすく、かなり狙って作られた名作だったのかもなという印象を受けた今回の鑑賞でした。

映画観てて「うわ、好きだ」「これは自分にとっての名作だ」と思えるポイントって、ちょっとしたことだったりしませんか。アメリはクリームブリュレがいいよね、みたいな。その一点があれば名作認定!っていう。観葉植物しかり、そういう要素が「レオン」にはすごく多いなと思いました。

で、まあその最たるものが本作の場合はキャスティングの部分にも運良くあって、言うまでもなくナタリー・ポートマン(当時おそらく12歳)なわけです。だってもうやはり圧倒的ですもん、スクリーンで観たら特に。こんな子が出てる映画を名作と言わずしてなんと言う、ですよ。あの髪型、チョーカー、初登場シーンのタバコ。狙ってどうにかなるものではない運命的キャスティングと作為的な演出の相乗効果による、抗えない至高。

これが映画デビュー作となるナタリーですが、少女でしかない「12歳のマチルダ」を見せるときもあれば、もはや完全に「ナタリー・ポートマンの横顔」を見せるような瞬間もあり、幼くとも女優は女優だなとあらためて感動。ちなみに、個人的な「あの子役がいなければそこまで名作認定してなかった映画トップ3」で本作と並ぶのは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984」。ジェニファー・コネリーでございます。もう一本は考えてない。

今回気付いたこと

  • ゲイリー・オールドマンは完全なる悪人の役だとばかり思い込んでいたら、嘘じゃなく麻薬取締局の人間だったんですね。だからマチルダの家襲ったときに「バカお前…! やりすぎ…!」って仲間にたしなめられてるのか。

  • ミルク、ベートーヴェン雨に唄えばって完全に「時計じかけのオレンジ」三銃士が揃ってるじゃないですか。びっくりしちゃった。この順番は、「午前十時の映画祭」の粋な計らいなのかも。

  • それでいうと、Wikipedeiaには “マチルダは「ボニーとクライドや、テルマとルイーズみたいにコンビを組もう」とレオンに持ち掛ける。” と書いてあって、字幕だと「ボニーとクライド」しか出てきてなかったと思うけど原語だと「テルマとルイーズ」も言ってたのかなと。「テルマ&ルイーズ」は現在「午前十時〜」の同じ枠で公開中。

  • レオンが映画館で観ているのはジーン・ケリーの「いつも上天気(1955)」。MGMミュージカルを観漁ってた頃に、ソフト化されておらず観れなかった一本。確か「ザッツ・エンタテインメント」シリーズで一部分を観ることはできたはずですが。

  • 上記の件に加え、マチルダのものまねファッションショーに出てくる「雨に唄えば(1952)」など、小ネタで出てくるのってアステアよりジーン・ケリーのほうが多いかもなあとちょっと嫉妬するアステアファン。

  • …だったもんで、じつはこの直後(20分後くらい)に細野晴臣さんのドキュメント「NO SMOKING」を観ているのですが、そこにいきなりアステアが出てきて大喜びしちゃった、なんていうエピソードあり〼。

  • ニューヨーク映画としても楽しめる一本ということで、初見時よりもその点ではだいぶ違った楽しみ方をできるようになりましたが、ホテルを追い出された二人が街を歩いてるシーンの背後に映る橋、てっきりクイーンズ・ボロ橋だと思い込んでいたらどうやら違った。ウィリアムズバーグ橋とも微妙に違うっぽいし、あれはどこの橋だ…?


前述のとおり、この直後に観た「NO SMOKING」があまりに良くて「レオン」のことなんて吹っ飛んじゃったよ(レオンも吹っ飛んだし)と思ったものの、なんだかんだ語れることはいっぱいある映画でした。ぜひ劇場のスクリーンでマチルダを。そして一人暮らしのみなさま、観葉植物いいですよ。ポトス買いましょ。

(2019年128本目/劇場鑑賞)

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原題が「Léon: The Professional」なことを知り、ちょっとダサいなと思ってしまった。アメリも原題長いんだ…。