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主に映画の感想文を書いています

タランティーノを観よう②「デス・プルーフ in グラインドハウス」“ワンハリ”との共通点について

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二本立てで書いていくつもりだったタランティーノ鑑賞記、またどえらく面白いやつに出会ってしまったため単品で書きます。こりゃわたし、タランティーノ合うな…。

デス・プルーフ in グラインドハウス(2007)

デス・プルーフ in グラインドハウス (字幕版)

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  • 発売日: 2017/06/16
  • メディア: Prime Video
この映画、まず「なんかタイトル長い」というところが引っかかります(ワンス・アポンなんちゃらのことは一旦忘れてください)。なのでまずシンプルにすると、本作のタイトルは「デス・プルーフ」でOK。

では「グラインドハウス」とは?と言いますと…

①かつてアメリカに存在した、B級C級映画を二〜三本立てで上映する映画館

②その雰囲気を現代に蘇らせようと企画制作された、ロバート・ロドリゲス監督とタランティーノ監督によるオムニバス映画作品

というわけで、グラインドハウス」として公開されたオムニバス作品からタランティーノ担当の映画「デス・プルーフ」のみを抜き出してディレクターズカット版にしたもの、それが「デス・プルーフ in グラインドハウス」だと、そういうことでございます。

以下ちょっと一応ネタバレには配慮しますが、ユルい映画だと思ってたら怪我するぜ、系であるとまず書いておきましょう。

レザボア・ドッグス」冒頭がそのままガールズトークになってさらに引き伸ばされたような、9割ガールズトークで構成されたクセの強い作品。ムダ話だらけの映画が大好きなわたしは美味しくいただけましたが苦手な人は睡魔との戦いかも。でも間違いなく目、覚めます。

イングロリアス・バスターズ」風に言うと「チャプター1」「チャプター2」に分かれ、それぞれ舞台も登場人物もがらりと変わるのですが、約1名「スタントマン・マイク」と呼ばれる男カート・ラッセルだけは共通して登場します。その名のとおりスタントマンである彼はカーアクションを専門とし、ウォーター・プルーフならぬ「デス・プルーフ(耐死仕様)」なスタントカーを普段使いしている模様です。

チャプター1。バーで出会った若い女の子に「おじさん帰り送ってよ」と頼まれるマイク。助手席に乗り込んだ女の子、何かおかしいと気付くも時すでに遅し。「ごめんな、“デス・プルーフ”なのは運転席だけなのさ」。驚愕の展開。マジかよ!!!

からの、どうにも不穏な予感しかしないチャプター2。違う街、違う女の子たち、そしてスタントマン・マイク。しかし、こちらはタランティーノお得意の「××劇」「歴史××」な世界。ブラボー!!!

すごい映画だ、これは。

で、ですね、いや〜面白かったな〜と反芻しておりましたら、「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」との共通点がボロボロ出てきまして。これはもしかしてかなり「ワンハリ」の原型的な映画だぞ???と思ってしまったわけです。そのへんを以下に書きます。今度はネタバレ(ワンハリのも)含みます。

デス・プルーフ」と「ワンハリ」の共通点

デス・プルーフ」のチャプター1、だらだらと時間が過ぎていくも突然に猟奇殺人が発生するという展開。これはスラッシャー映画というホラー映画のスタイルにのっとったものなのだそうですが、何も知らずに観ていた観客としてはただただ衝撃。続くチャプター2では序盤から「嫌な予感」に支配されてしまいます。何も起こらないのに。すごい明るくて楽しいのに。

これ、つまりですよ、チャプター1は「ワンハリ」でいう『史実』に相当するんじゃないでしょうか。この流れでこういうことがあったよ、という前情報。で、それを踏まえて観ざるを得ないチャプター2が「ワンハリ」の『映画本編』である、と。

そんなチャプター2、何も起きません。「ワンハリ」同様、明るい。楽しい。しかしあるシーンでフレームインするスタントマン・マイク。一気に押し寄せる「不穏」。このマイクはずばりチャールズ・マンソンシャロン邸にふらっと訪ねてきた時のマンソンそのものでしょう。

そして映画が進むにつれ、運命に抗いたくて、ストーリー上の明るさに反し沈んでいく心。「どうか、どうか彼女たちをお救いください」とタラ神にすがっていると…まさかの「想定外」が発生。その想定外は運命をそらしただけではなく、当人たちが意図せぬところまでの「大復讐劇」として機能し、ハッピーエンド。こんな車、こんな家、襲わなきゃよかった〜〜〜(ちゃんちゃん)。

すごい! 「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド in グラインドハウスだ! 長い!

共通点、それだけじゃないんですよね。「デス・プルーフ」チャプター2でメアリー・エリザベス・ウィンステッドさん演じるべらぼう可愛いガールはずばり売り出し中の女優さんで、「ワンハリ」劇中でシャロンが「私この映画出てるの」と言うように「私その雑誌に載ってるの」と言ったりするんですよ。

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あと、シャロンが映画観るシーンで、クロスした脚を前の座席にかけるじゃないですか。あれ本作めっちゃ出てくるんですよね。これはセルフオマージュだと思う。

また彼女の友人たち3人もそれぞれメイク係とスタントウーマン。メイク係といえば、シャロンと一緒に史実上殺されてしまったジェイ・セブリングはスタイリスト。言わずもがな「ワンハリ」の主人公ブラッド・ピットはスタントマン役。繋がる繋がる。

そんなわけで、偶然だとしてもそうじゃなくても、この映画がおもしろい理由というのは「ワンハリ」がおもしろかった理由とぴったり重なるのでした。

ただし一点のみ、シャロン・テート枠と勝手に決めつけたべらぼう可愛いガールことリーちゃんの安否が気になって仕方ありません。あんな強いお友達がいるのだから命のほうは大丈夫でしょうが、心身ともに無事であることを願うばかりでございます。タランティーノにとって彼女がシャロン枠ならきっと大丈夫! 信じてる!

(2019年96本目)

デス・プルーフ [Blu-ray]

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  • 発売日: 2013/12/20
  • メディア: Blu-ray
PrimeVideoで課金視聴。字幕のタイミングが若干ずれてたのは単にPrimeVideo側の問題か、それともそこまでB級C級映画の再現なのか(笑)

ワンハリと併せてお楽しみください。

追記:ロドリゲス担当の「プラネット・テラー in グラインドハウス」も後日観ました。

タランティーノを観よう①「レザボア・ドッグス」「イングロリアス・バスターズ」

ご紹介、ではないです。初見です。

「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド」の記事から言っているとおり、「パルプ・フィクション」しか観たことないよ状態で「ワンハリ」に臨んだわたくしでございます。この機会にクエンティン・タランティーノ監督作品、ちゃんと観よう!ということで順番は前後しつつも雑感投げていきたいと思います。

まずはデビュー作のこちらから。

レザボア・ドッグス(1992)

のっけからものすごく意味のなさそうな会話をカフェかなんかでしている黒スーツの男たち。それも特にタランティーノ(監督兼出演)がべらべらと喋っているわけですが、ここで最初にする「映画の話」のネタがなんと大脱走。「ワンハリ」を観た後だと、ブレてないなあと感心してしまうところです(参考:“ワンハリ”きっかけの「大脱走(1963)」雑感 - 353log)。

回想は交えつつも、ほとんど倉庫の中という限られたシチュエーションで、あそこまでしっかり「うわー面白かったわー」という後味を提供してくれるのはさすがの一言。「え!どうなったの?!どうなったと思う?!」なラストも、鑑賞後にわいわいできてじつにエンタメです。

スーツにサングラス姿で歩くスローモーションな男たちのOPは、大杉漣さんの遺作となったテレ東ドラマ「バイプレイヤーズ」OPの元ネタだったんだねとか、やっぱそうだよね、あの人「サンジ」の元ネタだよねとか、処女作でありながら後世への大きな影響を感じられる作品でした。

続きまして、だいぶ後のこちら。

イングロリアス・バスターズ(2009)

これはですね、すごい好きです。本能的に、感覚的に超好きです。うわーー!!!ってくらい好きです。

理由として大きそうなのが、まずフランスを舞台としていること。タランティーノ・ビギナーながら言わせていただくとお話自体は通常運転のタランティーノ的なところだと思うんですが、舞台となる地が美しいことで映画としての見た目がすごくいいのです。ちょうど「ミッドナイト・イン・パリ(2011)」が、お話はいつものウディ・アレンなのに異常なほど見た目がいい映画なのと同じように。

それから、これでもかと美しく銀幕に映し出される女性たち。冒頭まだこれがハリウッドデビューだという数分間のレア・セドゥ(「ミッドナイト〜」でも少ない出番で魅了してくれました)から始まり、ヒロインのショシャナを演じるメラニー・ロラン、ドイツ人女優ハマーシュマルクを演じるダイアン・クルーガーと、画面映えする魅力的な女性のオンパレード。

特に映画館の丸窓にもたれて一服する真紅ドレスのショシャナは、わたしがタランティーノだったらこのシーン撮れた時点で悔いなく引退するねってくらい五億点のシーンです。

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常軌を逸した「好き」があります

男も負けてはいません。この映画のMVP、ナチス親衛隊大佐ランダを演じるクリストフ・ヴァルツさま。この方の怪演がすごい。正味20分弱の「第一幕」が終わったところでこれはもうスタンディングオベーションです。密室会話劇の最高傑作と言えましょう。その後も、「ワンハリ」でいえばスパーン映画牧場のシーンに通じる(とタランティーノ本人が言っている)、曰く「輪ゴムを伸ばし続けるような」緊張感のシーン各種がいや〜な汗をかかせてくれます。

ちょっと残念なのが、せっかくブラッド・ピットに割り当てられ、それこそタイトルにもなっている「バスターズ」の活躍が少ないこと。それとショシャナの結末。あれはショックだった。ブラピがキービジュアルほどど真ん中の主役としては描かれて(描き切れて)いないだけに、最後持ってくのずるくない?? ショシャナさんのいいとこ見たかった!!とぶーたれてしまうのでした。

まあなどなど完璧に好きなわけではないながらも、丸窓ショシャナの五兆点と「第一幕」の素晴らしさ等々で帳消しなわけです。晴れて、もしかしたら「ワンハリ」も抜いてしまうかもしれない「めちゃくちゃ好きなタランティーノ映画」になりました。この後これを抜く作品は出てこない気がするのだけど、どうでしょう。楽しみです。

(2019年92・95本目)

レザボア・ドッグス [Blu-ray]

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「レザボア〜」はPrimeVideoで、「イングロリアス〜」はNetflixで観ました。なお何故か「キル・ビル」シリーズがどこでも配信されてないので当面おあずけかも。