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主に映画の感想文を書いています

ロブスター(2015)

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わたし的2019年上半期新作ランキング(発表してない)堂々1位「女王陛下のお気に入り」のヨルゴス・ランティモス監督による、2015年の作品。出演はコリン・ファレルレイチェル・ワイズ、レア・セドゥ、オリヴィア・コールマンなどじつに豪華な、ギリシャ映画!

これはですね、久々にキましたね。わたし的2019年下半期旧作ランキング(たぶん発表しない)TOP5に食い込む可能性がきわめて高い作品です。めっっっちゃ好きです。

どういう映画か

設定からしてとっても傑作。独り身が45日間続くと動物にされちゃう近未来のお話です。ざっくりディストピアものです。開始数分で登場する会話「犬は?」「兄です」から全てを汲み取ってください!

近未来といっても現代と何ら変わらぬ世界で、ただし設定だけとんでもなくおかしい状態で映画は進んでいきます。この感じがもうたまらん。

つまるところ「強制婚活所」であるホテルに収容された独り身たちは入所した日から45日間の人間寿命を与えられ*1、配偶者が見つからないまま残り0日になると人間の資格を剥奪され、希望した動物へと変えられてしまいます。独り身のまま人間寿命を延ばす方法もあり、それは「狩り」。野良の独り身を森へ狩りに行って、捕まえた人数ぶん寿命が加算されるシステム。ちょっと何言ってるか分からないですけど。ちなみにいつの間にか残り7日になってる主人公。展開早っ。猶予少なっ。

ホテル内で生じる全てがまたシュールでナンセンス。婚活サポートのため夜な夜な開かれる(中途半端に下手な生バンド演奏の)ダンスパーティー。いかに独り身が生き辛いかということを実演してくれる寸劇。めでたくカップル成立の場合は二人部屋のキーが渡され、二週間のヨット暮らしという最終試験を経て町へ戻されるシステム。「僕は来週からヨットに入る」なんていう台詞で、ああそうなんだ〜と理解できてしまう自分。

ああもう、ほんとこの、くそ真面目にくそしょーもない世界観が、わたしを魅了してならないッ!

万人受けもとい三人受けくらいの映画だと思いますよこれは。だからこそ自分のなんかどこかにピシッと合致してしまった、この充足感ですよ。出会えた!! 好きな映画に出会えた!! 映画見続けててよかった!!

A面とB面

この映画、ちょうど半分あたりで舞台がガラッと変わります。色々ありすぎてホテルから逃げた主人公が、これまで狩る対象だった森の独り身コミュニティへ加わるのです。捕まりさえしなければこれで自由を謳歌できると思いきや、独り身絶対殺すマンだったホテルの環境に対してなんと今度のコミュニティはカップル絶対殺すマン。極端。

そしてこのB面から、レイチェル・ワイズやレア・セドゥといった魅力的な女性陣が新たに登場します。レイチェル・ワイズは主人公コリン・ファレルが掟破りの愛を育んでしまった相手。冷たい眼がたまらないレア・セドゥはコミュニティのボス。いい女優揃えてます。森の中、泥まみれ、雨合羽みたいな姿で。

レイチェル・ワイズ、両目眼帯というトラウマ級のビジュアルに終盤なるんですけど、そういえば「女王陛下のお気に入り」でも終盤で眼帯させられてたじゃないですか。ヨルゴス・ランティモスさんはレイチェル・ワイズに眼帯させたい性癖の持ち主なんでしょうか。どう考えても変態の作る映画なので今更ですが、変態ですね。

でまあ、その眼帯事件からの、直視できないシーンからの、幕引き。これは監督のお決まりなのか、いつしか環境音だけになるエンドロール。今回は「水の音」。かつて主人公が希望していた「動物」はロブスターだったのですが、果たして…。謎を残したまま映画は終わります*2

ホテル編のA面と森編のB面で、短編2本を観たような気分にもさせられる作品です。およそ人に勧めやすい作品じゃありませんが、「女王陛下のお気に入り」がお気に召した方、ナンセンスなものが好きな方、多少の過激な描写に耐えられそうな方はぜひ! 声に出して言いたい監督名ランキングTOP3確定ヨルゴス・ランティモスさん、推していきます。

(2019年65本目)

ロブスター(字幕版)

ロブスター(字幕版)

  • 発売日: 2016/09/15
  • メディア: Prime Video
女王陛下のお気に入り (字幕版)

女王陛下のお気に入り (字幕版)

  • 発売日: 2019/05/15
  • メディア: Prime Video

*1:この設定は「TIME/タイム(2011)」あたりを思わせますね。こういうディストピアものがわたし好きなんですね。

*2:考察がまた非常におもしろい作品となっておりますので、鑑賞後は考察記事を漁って楽しませていただきましょう。考察できる人ってすごい。

海獣の子供(2019)

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感想ブログは鑑賞順で基本書いてますが、これは公開終了が迫っているので早めに書かねばと前倒し。ライムスター宇多丸さんがムービーウォッチメンにて絶賛していたので観ることにした安定の宇多丸チルドレンことわたしです。

どういう映画か

五十嵐大介さんの同名漫画「海獣の子供」を原作としたアニメーション作品です。

海獣の子供 (1) (IKKI COMIX)

海獣の子供 (1) (IKKI COMIX)

あんまりそそられるジャンルでもなかったのですが、「月刊IKKI」の作品だと知ってGAZEN観なければと。「ドロヘドロ」とか好きだったので。

一応、どういうお話かというと、舞台は主に湘南・江ノ島あたり。女子高生の琉花(るか)が夏休みに体験した「子供のときにだけ訪れる不思議な出会い」的なやつ。あとはもう、各所で言われている通り2001年宇宙の旅」系と表現するのがわかりやすいと思います。わかりづらいってことですね。あとその、生命のうんたら系ってことですね。

だもんで結構な覚悟をした上で映画館へ向かったのですが、いざ入ってみると高校生前後のお客さんが多いこと多いこと。どういうことかというとおそらく「主題歌:米津玄師」っていうところで来てるんじゃないかと思われます。お友達と連れ立って、素晴らしいことだとは思いつつ、お兄さんが仕入れた前情報によると多分これ結構「マジ意味わかんなかったんだけど」系だと思うよ大丈夫かな…などと余計な心配も。上映終了後の空気がこわい。

そんなこんなで、鑑賞いたしました。

うまく言えないけれど

どんどん、どんどん進化してますねジャパニメーション。この分野では確実に世界一、他の追随を許さない、といったところだと思います。原作の緻密な線を再現したセル画っぽさのないタッチが全体通して印象的で、宇多丸さんも言及していた「そういう動き方するんだ?!」っていう衝撃の背景美術もすごいです。

直前にチケットを取ったため(満員御礼につき)端っこの席で観たんですけども、これはど真ん中、それもど真ん前かぶりつきで観たかったなと。字幕の心配もないんだし、願わくばIMAX最前列ぐらいの環境で観たかったなと。「海のジェットコースターや!」って感じの映像がとにかくすごくて、最前列の人たちを終始羨みながら観てました。あれはなかなか得難い映像体験だったことでしょう。

「2001年〜」系なのは確かです。この日は映画のハシゴをした2本目で、正直何度も寝ました。でもなんか、寝ることすら心地良いというか、贅沢な寝落ち体験というか、久石譲さんのミニマルな劇伴ともあいまって、寝落ちも悪くないなと思ってしまえる不思議な映画でした。うまく言えないけれど、ひと夏の不思議な映画体験をさせてくれた作品、です。

米津玄師抜きには語れない映画

エンドロールで流れる米津玄師さんの「海の幽霊」。これが、素晴らしかった…。

コーラスを重ねに重ねたとても独創的な世界観の楽曲なのですが、今の若い人たちはこういう世界観にすんなり入り込めるってことですよね。ってことはこういう映画も、そういうものだと思えば多分すんなり観れるんですよね。

仮に、いやきっとほとんどの人が「難しい映画だったな…」と思っているところにこの曲が流れて、するとおもしろいことに、これまでの「ちょっとよくわからない映画」はそれこそ「米津玄師のMV」に見えてくるんですよ。「2001年宇宙の旅だよ」と言っても彼らには伝わらないかもしれないけど、「米津玄師のMVだよ」ならきっと腑に落ちるところがあるんじゃないかと思うんですよ。

そういう意味でこの楽曲はこの映画と切り離せない存在であり、これをもって最後にようやくパッケージングされる、そんな役割を果たしていると感じたのでした。米津玄師さん、ジェネレーションギャップ代表みたいな人だったけどついにわたしも平伏する日がやってきた…。

海の幽霊 - Single

海の幽霊 - Single

  • 米津玄師
  • J-Pop
  • ¥250

「大切なことは言葉にならない 夏の日に起きた全て」。わたしの感想、とっくに歌詞で書いてあったじゃないか。

あ、それでその、最初に心配してた子たちのことなんですが、上映中は静かに鑑賞していて(もしくは寝てたかもね)、上映が終わるとあちらこちらから熱心な感想戦が始まったのでした。当然「難しかった」「抽象的だった」という感想もあれば、「でも映像めっちゃ綺麗だった」「久石譲の音楽がよかった」みたいな話をね、キャップ被った今風の子たちが大真面目にしてたりするわけですよ。おじさん感動ですよ。

昨年「カメラを止めるな!」で経験したような観客も込みでの映画館体験というものを期せずしてすることができて、非常に、非常〜〜に満たされました。観に行ってよかった。上映館がだいぶ限られてきていますが少しでも気になった方はぜひ劇場でご覧ください。わたしは立川シネマシティで鑑賞しました。寝落ちしてもなお、もう一度観たいと思える映画です。

(2019年64本目/劇場鑑賞)