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主に映画の感想文を書いています

「レオン 完全版(1994)」雑感

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午前十時の映画祭で「レオン 完全版」を観てきました。「完全版」の差分はどこなんだろうと調べてみたら、レオンと聞いて真っ先に思い浮かぶようなシーンがことごとく完全版だったという。通常版(劇場公開版)は観たことがないようです。

あらすじ

ニューヨークの殺し屋レオンジャン・レノは、ひょんなことから隣家の少女マチルダナタリー・ポートマンを匿ってしまい、なし崩し的に共同生活が始まる。マチルダは、自分の家族を殺した男ゲイリー・オールドマンへ復讐するためレオンに殺しを教わろうとするが……。

作為的名作、だが良い。

この映画に影響されて観葉植物を買ったこじらせ男子はわたしだ! ということで、なんというか結構わかりやすく、かなり狙って作られた名作だったのかもなという印象を受けた今回の鑑賞でした。

映画観てて「うわ、好きだ」「これは自分にとっての名作だ」と思えるポイントって、ちょっとしたことだったりしませんか。アメリはクリームブリュレがいいよね、みたいな。その一点があれば名作認定!っていう。観葉植物しかり、そういう要素が「レオン」にはすごく多いなと思いました。

で、まあその最たるものが本作の場合はキャスティングの部分にも運良くあって、言うまでもなくナタリー・ポートマン(当時おそらく12歳)なわけです。だってもうやはり圧倒的ですもん、スクリーンで観たら特に。こんな子が出てる映画を名作と言わずしてなんと言う、ですよ。あの髪型、チョーカー、初登場シーンのタバコ。狙ってどうにかなるものではない運命的キャスティングと作為的な演出の相乗効果による、抗えない至高。

これが映画デビュー作となるナタリーですが、少女でしかない「12歳のマチルダ」を見せるときもあれば、もはや完全に「ナタリー・ポートマンの横顔」を見せるような瞬間もあり、幼くとも女優は女優だなとあらためて感動。ちなみに、個人的な「あの子役がいなければそこまで名作認定してなかった映画トップ3」で本作と並ぶのは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ1984」。ジェニファー・コネリーでございます。もう一本は考えてない。

今回気付いたこと

  • ゲイリー・オールドマンは完全なる悪人の役だとばかり思い込んでいたら、嘘じゃなく麻薬取締局の人間だったんですね。だからマチルダの家襲ったときに「バカお前…! やりすぎ…!」って仲間にたしなめられてるのか。

  • ミルク、ベートーヴェン雨に唄えばって完全に「時計じかけのオレンジ」三銃士が揃ってるじゃないですか。びっくりしちゃった。この順番は、「午前十時の映画祭」の粋な計らいなのかも。

  • それでいうと、Wikipedeiaには “マチルダは「ボニーとクライドや、テルマとルイーズみたいにコンビを組もう」とレオンに持ち掛ける。” と書いてあって、字幕だと「ボニーとクライド」しか出てきてなかったと思うけど原語だと「テルマとルイーズ」も言ってたのかなと。「テルマ&ルイーズ」は現在「午前十時〜」の同じ枠で公開中。

  • レオンが映画館で観ているのはジーン・ケリーの「いつも上天気(1955)」。MGMミュージカルを観漁ってた頃に、ソフト化されておらず観れなかった一本。確か「ザッツ・エンタテインメント」シリーズで一部分を観ることはできたはずですが。

  • 上記の件に加え、マチルダのものまねファッションショーに出てくる「雨に唄えば(1952)」など、小ネタで出てくるのってアステアよりジーン・ケリーのほうが多いかもなあとちょっと嫉妬するアステアファン。

  • …だったもんで、じつはこの直後(20分後くらい)に細野晴臣さんのドキュメント「NO SMOKING」を観ているのですが、そこにいきなりアステアが出てきて大喜びしちゃった、なんていうエピソードあり〼。

  • ニューヨーク映画としても楽しめる一本ということで、初見時よりもその点ではだいぶ違った楽しみ方をできるようになりましたが、ホテルを追い出された二人が街を歩いてるシーンの背後に映る橋、てっきりクイーンズ・ボロ橋だと思い込んでいたらどうやら違った。ウィリアムズバーグ橋とも微妙に違うっぽいし、あれはどこの橋だ…?


前述のとおり、この直後に観た「NO SMOKING」があまりに良くて「レオン」のことなんて吹っ飛んじゃったよ(レオンも吹っ飛んだし)と思ったものの、なんだかんだ語れることはいっぱいある映画でした。ぜひ劇場のスクリーンでマチルダを。そして一人暮らしのみなさま、観葉植物いいですよ。ポトス買いましょ。

(2019年128本目/劇場鑑賞)

レオン 完全版 [Blu-ray]

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原題が「Léon: The Professional」なことを知り、ちょっとダサいなと思ってしまった。アメリも原題長いんだ…。

映画「列車旅行のすすめ(2019)」第32回東京国際映画祭コンペティション部門作品 雑感

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東京国際映画祭(以下TIFF)に行ってきました。存在は知っていましたが行くのは初めて。日本未公開の作品をいち早く観れるのはわくわくしますね!

今回観ることができたのはスペイン、フランス合作の「列車旅行のすすめ(Advantages of Travelling by Train/Ventajas de Viajar en Tren)という作品です。上に貼った「特急列車の座席でなにやら目を見開く女性」のキービジュアルがまずピンときて、おまけにサスペンスとくれば、んーこれは面白そう! 列車旅行、好きですし。記念すべき初TIFF鑑賞、いってみましょう。

あらすじ

列車の旅に出会いは付きもの。主人公と思わしき女性の対面に、男性が座る。少しお話しませんか、と声をかけてきたその男性は精神科医だという。およそ信じられない奇妙な体験談を披露する男と、思わず顔をゆがめる主人公。途中、何か食べるものをと停車駅で男は一旦下車するも、その帰りを待たずに列車は出発してしまう。手元に残された彼のものと思われるファイルを頼りに、主人公は彼との再会を試みるのだが……。


覚えてる限りの雑感

ものすごく奇妙な映画でした。でも刺さる人にはど真ん中に刺さるタイプのやつ。そう、わたしは刺さった!(ラッキー!)

本作が初の長編作品となる監督のアリツ・モレルさんは、短編作品のほうでキャリアを積んでおられる方だそう。本作はまさにいくつもの短編作品から成るような作品なので、長編デビューには相応しかったんじゃないでしょうか。

短編の集合体といってもオムニバスというわけではなく、虚構に虚構を重ねるような、何が本当か分からないタイプの映画です。精神科医の話す体験談、体験談の中で起こる虚構、聞き手である女性自身の体験談、やはり体験談の中で起こる妄想、精神科医が残していったファイルに記録されていた症例、その他諸々。正直かなりブッ飛んでますが、初見でも迷子にはならない構成になっていて単純に没頭して楽しめました。

なお同名の原作小説があり、こちらはなんと20年前の作品なのだとか。

Ventajas de viajar en tren / Advantages of Rail Traveling (Andanzas / Adventures)

Ventajas de viajar en tren / Advantages of Rail Traveling (Andanzas / Adventures)

11/4(月)の上映時には原作者のアントニオ・オレフドさん、プロデューサーのティム・ベルダさんが登壇されました。監督は2日後にスペインでの公開が控えているということで(TIFFのほうが先に公開なんですね)前々日の舞台挨拶のみで帰国されてしまったのですが、原作者さんとプロデューサーさんのお話をじっくり聞けるというのもまた貴重な機会で、とても興味深かったです。

アントニオさん曰く、原作の執筆時に設定したテーマが2つあったそう。1つは「フィクションを読むとき、人の脳内で何が起こるのか」。もう1つは「他人が自分について語るとき、そこに自我はあるのか」。2つめのほうはかなりうろ覚えでニュアンスが変わってしまっているかもしれませんが…、現実とは言葉とイメージによって構築されるものである、みたいなことを話されてました。

女性を主人公にしたのは、単にスペインでは女性のほうが本を読むと言われているからで他意はなく、「読者と作者の関係性」みたいなものも描いていると。読書体験そのものについてをテーマにしたような原作だったのかなと思いました。それを映画化したことで本作は映画体験そのものについてがテーマになった感じですね。

アントニオさんは映画化に際する「脚色」についても印象深いことをおっしゃっていました。「原作者は脚色に関与すべきではない」。客観的に作品を見れない原作者はそもそも脚色という作業に不向き。「映画は小説の文法に則ってはならない」。映画と小説は全く違う表現手法なので、文章のままに映画化するというのは好ましくない。原作者がこういう姿勢を保つのはなかなか難しいことなんじゃないないでしょうか。素敵な方です。

もっとも、「20年前に書いたものだから正直あんま細かく覚えてない」なんてことも言われてましたが(笑) 半分ぐらい本当だとしても、半分は気遣いな気がします。なんにせよちょっとこのアントニオ・オレフドさん、ファンになっちゃいました。

余談としては、フランスのシーンでエッフェル塔が大きく出てくるが、本来はノートルダム大聖堂の予定だった。火災があって使えなくなってしまった。などというエピソードも。そういうことになってしまった作品、他にもいくつかあるでしょうね…。

映画のほうに話を戻すと、まあとにかくシュール、シニカル、ショッキング、そんなワードを並べたくなるヘンテコ映画で、でも案外わかりやすく親切には作ってあって、第一印象はヨルゴス・ランティモス監督作品のような…なんて思いました。ああいう作品がお好きな方にはきっと合うはず。

また、途中でとても印象的な使われ方をする音楽があるのですが、その感じは「勝手にふるえてろ(2017)」の「この恋、絶滅すべきでしょうか?」なくだりに、妄想なところも含めすごく雰囲気が似てるな!とか。日本がお好きな監督とのことなので(エンドロールがね、また珍妙なんですけども)もしかしたら観ているかも。とんでもないスプラッタなのに恍惚としちゃうシーンでした。もう一度観たい!


といったところで、覚えてる限りの雑感でございました。直感と残席の都合で選んだ割には完璧な一本釣りだったなと自負。こういうの好きな人は多いと思うので、是非とも正式な日本公開お待ちしております。楽しみにしています! ちなみに本作のキャスト、どなたもスペインでは超の付く大人気俳優さんたちだそうですよ。

※ほぼ最前列の端っこで、思った以上にスクリーンとの距離もなかった&日本語字幕が下じゃなくて縦書きの右だった(下は英字幕)等々の理由から細部まではしっかり観れていないので、正面からじっくり観たいという意味でも楽しみです。

(2019年130本目/劇場鑑賞) 「私の映画はぶっ飛んでいます。めっちゃ頑張った。楽しかった?」by監督

ありがとうアトロク

近頃すっかりTBSラジオの「アフター6ジャンクション」を毎日リアルタイムで聴くようになってしまったわたし。じつは今回のTIFF初参戦も、番組内で紹介されていたのがきっかけでした。

ここで出演されていた、東京国際映画祭プログラミングディレクターの矢田部吉彦さん。年間の映画鑑賞本数700本以上という並外れた映画バイヤーさんなのですが、今回の舞台挨拶は嬉しいことに矢田部さんが進行役! そんな狙いはなかったので期せずして大喜びだったのでした。

それからもうひとつ。

この通訳さん特集。めちゃくちゃ興味深かったので是非聴いていただきたいのですが、これを経ていたため今回は登壇者のなかでも通訳さんを一番ガン見してしまいました。んもう、最高に格好良かった。インクが切れても替えがきくように三色ボールペンを使う人が多い、という話が番組内でありまして、確かに三色ボールペン使ってるー!(ように見えたが確証はない)みたいな感動とか。話の長さに応じて次々メモ用紙がめくられていく様に興奮したりとか。スーパーヒーローに見えましたよ、ほんと。

以上、一本だけの鑑賞ながら大いに楽しんだ第32回東京国際映画祭でした。来年はもっと早めにチケットを取って、何本も観てみたいと思いました!