353log

主に映画の感想文を書いています

大林宣彦監督作品「この空の花 長岡花火物語(2012)」雑感

f:id:threefivethree:20200528202518j:plain

そう遠からず公開日が再設定されるであろう『海辺の映画館 キネマの玉手箱』を万全の状態で受け止めるため、引き続き大林作品履修ノンストップでいきます。今回はついに2010年代の作品に突入! 『この空の花 長岡花火物語』鑑賞しました。これはやばい。

あらすじ

1945年8月、広島・長崎に先立って空襲の被害を受けた新潟県長岡市。その復興と慰霊、伝承のため、長岡では毎年決まった日に花火が上がる。2011年、花という女学生猪俣南反戦をテーマにした演劇「まだ戦争には間に合う」を企画、花火の日に上演することとなった。同じ頃、九州から訪れた新聞記者の玲子松雪泰子も長岡の地を興味深く取材していた。

雑感

わたし、わかった気になってました。もう10作以上大林監督の映画を観てきて、その個性的な部分にすっかり耐性をつけた気でいました。全然でした。2010年代の大林監督、やばい……。

始まらない

大林作品は大きな「A MOVIE」の文字から「映画ですよ」と宣言して幕を開けるのが恒例ですが、今回は何やら開けても開けても幕があっていつまで経っても始まらないというシュールなオープニングから早速“掴み良し”です。冗談なのか真面目なのか、なげえな前口上!っていうところをまずお楽しみください。

オールデジタルのクセが強い

本作は大林監督にとって初のオールデジタル作品なのだそうですが、いやデジタルだからって普通そんなパキッとしないでしょ、ってくらい全編パッキパキの絵作りになっておりクセすごいです。デビュー作『HOUSE/ハウス(1977)』のクソコラ感をそのままデジタルにした感じ。ここまで回帰できちゃうことってある……???

これまでの作品はギョッとするような部分こそあれど映像自体は味わいが深かったり、主演女優の魅力を最大級に映し出していたりしたものですが、今回はそれもなかなか見いだせません。このテイストのままで果たして楽しめるだろうか……。不安を抱きながらの鑑賞でした。しかも160分。長いんだ。

お勉強映画?

序盤は主に「長岡空襲」について、松雪泰子さん演じる新聞記者や長岡のベテラン花火師さんなどを通じて知見を広げていく内容。広島・長崎の影に隠れてあまり知られることのないこの長岡空襲、当然わたしも全く知らず、純粋に勉強になりました。大林監督自身も知らなかった、とのことです。

クセの強い演出も挟みつつ、しかし基本はかなりドキュメンタリック。映画的な映像美とは対極にあるテレビ的で現実的な質感もあいまって、これは本当に「映画」として展開していくのだろうか? と、やはり不安を禁じ得ない導入部です。

怪優 猪俣南 大登場

そんな不安は謎の女学生「花」の登場により、不安混じりの期待、くらいに変わります(まだ不安)。花を演じる猪俣南さんが、すごい……! なんだかよくわからないけどすごい……! 芳根京子さんをより強くしたようなデフォルト上目遣いの強烈な眼力が、観終わった今も脳裏にこびりついたままです。

この「花」はセーラー服にロングヘアーという王道の大林映画的キャラクターとして演出されており、かつ何故かいかなる時も一輪車に乗っているという設定が最強にMOVIEです。猪俣南さんは国際一輪車大会で優勝しているほどの超チャンプだそうで、どの時点でこの一輪車要素が本作に入り込んできたのか知りませんが、結果的にとんでもないマリアージュだったんじゃないかしらと思います。

まだ戦争には間に合いますか

なんだかずるずるずるずると引きずり回され、映画は大団円へ。書き忘れていましたが本作は字幕も特徴的、というかクセが強すぎます。情報過多です。どうでもよさげな字幕がやたら出ます。なんならそう、いかにも大団円なシーンに突入するや「大団円」と。親切。

で、さて、この大団円を飾るのは花たち学生が企画・準備していた劇『まだ戦争には間に合う』。演劇作品全体を見せる構成ではないのですが、何故か力づくで泣かされます。正体不明の圧倒的なパワーで、涙が出ます。え、こわ。小一時間前に「果たしてこれは『映画』として展開していくのだろうか?」と不安がっていたわたしは、ああそうだったこれが大林映画だったと、もう何度目にもなる嬉しいため息をつくのでした。

と、きれい目に書いてみたものの、この劇やばいです。映像としては無法地帯、クソコラの嵐。キャストは全員一輪車。悪夢のような出来事を描いた劇なので当然といえば当然ながら悪い夢でも見ているかのようなカオス。それでもラストの問いかけ「まだ戦争には間に合いますか? まだ戦争には間に合いますか?」では不思議と涙が溢れてきてしまうのです。クソッ、また結局きれい目の文章に落ち着くのです!

しいて言うなら、映画というよりもまさに演劇そのものを観ているような消耗がありました。

書き疲れたので終わります

これは感想の、ほんの一角にすぎません。全部書こうとしたら大変なことになっちゃうので(この後また映画観たいし)終わります。公開間近の最新作まで残り2本。これ以上ぶっ飛んでいると受容できる自信がありません。監督がさらなる新境地へ行ってしまっていないことを願いつつ、でも多分行っちゃってるんでしょうね。

(2020年81本目/iTunes Store

iTunes StoreYouTubeムービーで、どちらも400円程度で配信レンタルできます。

いかに妙ちきりんな映画か、というところは宇多丸さんの評がかなりノッてて爆笑しきりでした。そう!そう!!って膝叩きまくりなので鑑賞後にぜひどうぞ。

長岡市運営のサイトに掲載された大林監督のインタビュー、良かったです。

大林宣彦監督作品「女ざかり(1994)」雑感

f:id:threefivethree:20200527191001p:plain

大林作品履修期間、00年代に突入したところですがまたちょっと戻って、1994年公開の『女ざかり』を観ました。こちら、なんと(?)主演は吉永小百合さん! 吉永さんと大林監督の食べ合わせはどんな感じなのでしょうか。

あらすじ

新聞社に勤める弓子吉永小百合は、このたび家庭部から論説委員へと異例の出世をした。斬新な切り口で意気揚々と社説デビューする弓子だったが、その内容が早くも彼女の立場を揺るがすことになる。

雑感

新聞を広げながらもぐもぐと朝食を口に運ぶ弓子。すっかりインクの出なくなったラインマーカーで気になった記事をキュキュッと囲む。その後ろで何やら詩めいた台詞を独演する娘。怪訝な顔つきの弓子がようやく声を発する。「何それ気持ち悪い!」

もうこれだけで、ははは、と太鼓判押してしまいたくなる秀逸な冒頭シーンです。タイトルからは想像もつかないような予想外をもたらしてくれるのがやはり大林作品の一番の魅力ですね。

本作は大林監督にしては珍しく(たぶん)、登場人物の平均年齢がかなり高い映画です。定年間際のおっさんたちの会話劇を眺めたり、そこに咲く一点の花、百合子さまを拝んだりと、そんな感じで楽しみました。弓子が最初に書く論説はフェミニズム的内容なので、なんかそういう展開なのかなと思いましたが必ずしもそうではなく、気づけば妙な夢みたいな空間に飛ばされてたり、社会派ホラーみたいなことになったり、戸惑いタイムを経てまた新聞社のデスクに戻ってきて謎の安堵を感じたりと、やや変化球ながらまあ、安定の大林映画でした。

記憶が正しければわたし吉永小百合さんの主演映画を観るのってこれが初めて。絶対に代表作ではないだろうという確信はありますが、しかしこの一本でも吉永さんめちゃくちゃ魅力的で、ミスチョイスという気は全然していません。まるで悪びれることなく愛人津川雅彦と10年間も関係を持ってたり、ぞっこん惚れてくる同僚のおっさん三國連太郎のアタックをさらりとかわしたり、死期の迫る元亭主を放置してたりと、善良なる吉永小百合像とのギャップがとてもよいです。ひわいなぞうさん歌ってくれるし。

藤谷美紀さん演じる弓子の娘も、すごく好きな役どころ。日常パートから謎ホラーパートまでナイス助演でした。年代的にそれはないと思いつつも、貫地谷しほりさんとよく似ていて不思議な気分に。(ちなみにセクハラホラーパートにて特殊メイクで出演の片岡鶴太郎さん、ありゃ気づかないわ。おまけにそのシーンはせっかく風間杜夫さんとの「異人」共演だというのに)

岸部一徳さんがようやくわたしの知ってるワルい感じになってきたなあとか(政治家、似合いますねえ)、どんなチョイ役でも根岸季衣さん出てくると嬉しくなっちゃうなあとか、尾美さん見逃したわ……とか、とにかく豪華キャスト+おなじみの面々で飽きさせません。慣れてきた頃に観る大林作品のひとつとして、新鮮に楽しめる一本でした。あと、本作を観た人は東郷平八郎が四男であることを学びます。

(2020年80本目/U-NEXT)

女ざかり (文春文庫)

女ざかり (文春文庫)

女ざかりは19だとあなたが言ったのよ、という歌詞が真っ先に出てきてしまうわたしです。