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主に映画の感想文を書いています

宇多丸さんに気持ちが届いたり、厚木拓郎さんにお会いしたり…。とある日の「ユメから出たマコト」備忘録

大林宣彦監督の遺作海辺の映画館─キネマの玉手箱(2020)に音声ガイドを付けさせていただいた話というのはこれまでも何度か書いているのですけども、その事後報告といいますか、だいぶ夢みたいな体験をしてしまったことの記録をですね、まだかろうじて現実味の残っているうちに書いておこうと思います。自慢……ですね、自慢です。これは自慢です。

その1: 厚木拓郎さんにお会いする

大林作品には「大林宣彦自己投影型主人公」的な主演俳優さんが時代ごとに存在していました。初代はなんといっても尾道三部作の尾美としのりさん、その次は『野ゆき山ゆき海べゆき(1986)』などの林泰文さん、そして最後が『海辺の映画館』主演の厚木拓郎さんです。

『海辺の映画館』における厚木さんの役名「馬場毬男(ばば・まりお)」は映画監督マリオ・バーヴァに引っ掛けた大林監督の由緒あるペンネームで、劇中で多く引用されている自伝的作品『マヌケ先生(2000)』の主人公も同じ名前なのですが、こちらもなんとリアル幼少期の厚木さんが演じています。つまり20年間スクリーンの中で大林宣彦に扮してきたと言っても過言ではない、それが厚木拓郎さんなのであります。

前置きが長くなりましたが(まだまだ長くできますが)、今回バリアフリー版を上映するにあたって気持ちが高ぶっていたわたしはどうしても出演者の方にも観ていただきたくて、畏れ多くも厚木さんにアタックしてしまいました。そうしましたらすぐにお返事くださって、ぜひシネマ・チュプキへ伺わせていただきますと。そしてお約束通り上映期間最後の週末にプライベートで来てくださったのでした。

「毬男さんが!!!」とチュプキ平塚代表から急報を受けたわたしは即座に飛んで行き、ほんのちょっとだけ……と厚木さんにプチ舞台挨拶をお願いし、おまけにどういうわけか音声ガイド制作者としてわたしが「舞台挨拶」する場も作っていただき(これはちょっと意味がわからなかった)、厚木さん直々に「音声ガイド、素晴らしかったです!」とメッセージ入りのサインも書いていただき……などなど処理不能なほどのご褒美に思考回路はショート寸前。


チュプキの壁にもサインを頂いているので、ご来館の際は探してみてください!
チュプキの壁にもサインを頂いているので、ご来館の際は探してみてください!


また、お客さんが帰られた後の劇場内でスタッフさんたちと一緒に「かなり濃い立ち話」をさせていただいたのも貴重な体験でした。監督のご逝去にコロナ禍での公開といくつもの不幸が重なり『海辺の映画館』についての裏話はその大半がまだ表に出ていないのだろうなと思わされました。この作品はこれから何度でも何度でも舞台挨拶をおこなって、失われかけたエピソードを取り戻していくべきです。

いくら書いても書き足りませんが、厚木拓郎さん本当にありがとうございました。



その2: 宇多丸さんに気持ちが届く

夢はまだ続きます。「夢その1」からふわりふわりと帰宅しましたらば今度はアトロクことTBSラジオアフター6ジャンクション」リスナーのチュプキスタッフさんから「気持ち、届いてましたね」と連絡があって。

なんじゃらほいと思ったら、アトロクにてライムスター宇多丸さんがわたしのメールを読んでくれていた(しかも3日も前に)と! 何のメールかって、まさに『海辺の映画館』に音声ガイドを付けましたっていうご報告メール!

これがまたポッドキャストで配信されていない隙間の部分でして、全ッ然知らなかった。教えてもらわなかったら知らないまま生涯を終えてましたよわたしは。チュプキのAさん、恩人です……。

高まる鼓動でどうにかなりそうになりながらradikoのタイムフリーで当該部を確認し、一呼吸おいてしっかり録音。うへえ、読まれておる……。と、いうわけで、わたし以外にほぼ需要のない非公式書き起こしをしました。

放送日は2021年8月11日の水曜日、出演はメインパーソナリティのライムスター宇多丸さんと曜日パートナーのTBSアナウンサー日比麻音子さん。19時台終盤『シアター 一期一会』のコーナー、ではなくその後に読まれています。緑のアンダーラインがわたしのメールです。大変僭越ながら、どうぞお納めくださいませ。

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宇多丸さん: ここでですね、ちょっとメールをご紹介させてください。これね、8月2日に頂いてたメールなんだけど先週いろいろイレギュラーな構成が続きましてご紹介し損なってたので、是非これ読みたくて。ラジオネーム「さんご」さん。

「こんにちは、いつも楽しく興味深く聴かせていただいています。今日はどうしても宇多丸さんにお伝えしたいことがあり、メールしました。」

「8/1(日)より」 15日までみたいですけどね、 「番組内でもときどき名前の挙がる田端のユニバーサルシアター“シネマ・チュプキ・タバタ”にて大林宣彦監督の遺作『海辺の映画館─キネマの玉手箱』がバリアフリー上映されています。」

「幾度も取り上げていただいていますので説明不要とは思いつつ補足しておきますと、映画のバリアフリー上映とは目や耳の不自由な方でも映画を楽しめるよう音声ガイドと日本語字幕を付け加えて上映することです。」

「じつは今回の音声ガイド原稿は、チュプキ代表・平塚さん」 わたくしもタマフル時代に音声ガイド講座を受けた、 「平塚さんのご指導のもとわたしが制作させていただきました。」

日比さん: 制作者の方!

宇多丸さん: 「個人的な話となってしまいますが、わたしが大林作品に魅了されてしまったことも音声ガイド制作に興味を持ったことも、全てアトロクからの影響です。」 マジか!

「この一年と少しの期間、宇多丸さんに感化されまくった結果です。ですので、今シネマチュプキで上映されているバリアフリー版の『海辺の映画館』は“アトロクなくして”と言わざるを得ない案件なのです。」と! わーー、光栄だわーこれー。光栄だし、大林さんに自慢したい(笑) 「大林さん!!」つってね(笑)

日比さん: う〜ん、ほんと!

宇多丸さん: 「隙間あらば埋める、という編集スタンスの情報過多な作品『海辺の映画館』に、さらにどうにか隙間を見出してガイドを入れた、わたしとチュプキ平塚さん渾身の作。」

確かにねえ! あのー、『海辺の映画館』っていうか近年の大林宣彦作品はもうとにかくありとあらゆる情報が濁流となってしかも隙間全てに埋め尽くされてるっていう情報量なのね、そこにさらに音声ガイドを入れるってこれ、至難の業だと思うんだけど(笑)

日比さん: うわあ〜〜めちゃくちゃ気になる、どうやってなさったんだろう〜

宇多丸さん: っていうかさらにカオス度が増してて面白いかも(笑)

日比さん: あらあ〜〜

宇多丸さん: 「15日までの2週間限定公開となっておりますので、こんなご時世でなかなかプッシュもしづらいのですが、もしご都合つきましたらチュプキへ足を運んでみてくださいませ。」

「以上、つまるところアトロクと宇多丸さんのおかげで人生楽しいほうへ動いております、」 いやいやいやありがとうございます! 「そんな御礼と、あわよくば告知のメールでした。少なくともこの気持ち、宇多丸さんに届いてほしい…! よろしくお願いいたします。」ご紹介するのが本当に遅くなって申し訳ございません!

ということで15日までの上映となりますが、シネマ・チュプキ・タバタで、『海辺の映画館─キネマの玉手箱』……いやーーーこれまず端的にやっぱりさんごさん、いやこちらこそ本当にあの、めちゃくちゃ光栄っていうか、番組やってる甲斐がね、本当にこんなに嬉……ッこんなに嬉しいことはないッ!!っていうね、やつですし、あとやっぱり本当単純に『海辺の映画館』、その近年の大林メソッドのあの、もう「あれ」に、どうやって、どうやって情報を足すの?!っていう(笑)のも、見ものというかある意味。お手並み拝見ですね!

日比さん: うわ〜〜!

宇多丸さん: いやーーこれ逆にだからその、情報の濁流度がさらに増して、さらにすごい『海辺の映画館』になるんじゃないですかね。もし大林さんご存命だったらきっと「これが正解!」くらいの感じでおっしゃっていただけるのかもしれないですよね。そっか行けるかな15日まで、ちょっとね……。もし皆さんね、ご興味ある方、もちろん感染対策、映画館のほうもとられてると思いますしご自身もとりながら、是非ちょっとこちらも行っていただければと、思う次第でございます!

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以上でございます。正直これ、録音聴くのも勇気いるっていうか。あまりにも夢みたいで正視できないっていうか。将来の自分のために、勇気を出して書き起こしました(笑) 神はなぜこうも耐えられないほどの幸せを与えるのか……。もういっそこの日で死んでおきたいとわたしは思った。

突然ですが宇多丸さんが編著者として大いに関わった書籍『森田芳光全映画』、本日発売です。比べるのもおこがましいけれど、好きが高じたわたしの大林宣彦エピソードと重なるように思えて仕方なかったこのプロジェクト。ひとまずの完結おめでとうございます。そしてわたしは森田映画を観たことがありません。いつ踏み込んでやろうかと、わくわくしております。

それから、非常にお世話になっているチュプキ代表・平塚さんのご著書もあらためてご紹介しておきます。小さな小さな映画館チュプキの誕生秘話から音声ガイド制作講座まで盛り沢山の内容です。アトロクで紹介されたこともありますよ!

以上、一区切りつける意味合いの「ユメから出たマコト」備忘録でした。

映画「ベイビーわるきゅーれ(2021)」感想|最高に愛おしい本格ほのぼの殺し屋アクション

ああもう、こういう「知る人ぞ知る、超最高な映画」の紹介も兼ねた感想記事みたいなの、もどかしくて一番書きづらいんです。というわけで、はい、1996年生まれの超新鋭・阪元裕吾監督による最新作『ベイビーわるきゅーれ』を観てきました。


映画「ベイビーわるきゅーれ」ポスター
映画「ベイビーわるきゅーれ」ポスター


こちらだいぶ前から「知る人ぞ知る」な盛り上がり方をしていた印象の作品だったんですけどもなんとなく見送っておりまして、しかしライムスター宇多丸さんが熱弁しているのを聞いたら辛抱たまらず映画館へ走ってしまう、これぞ宇多丸チルドレンのチョロさです。

火曜OP:宇多丸「『ベイビーわるきゅーれ』を観てきました」 - TBSラジオ「アフター6ジャンクション」 | Podcast on Spotify


で、まあ最高でした。最高に愛おしい殺し屋映画でした。こんなの絶対好きなやつだった。とりあえずこの30秒の特報映像見てラブいものを感じたら公開館探して行ってください。絶対幸せになるので。


概要としてはそうですね、さしずめ元女子高生殺し屋バディの本格アクションほのぼの日常コメディ(ほのかに百合めき)といったところ。スーパーキラキラカラフルクッキリバイオレンスアクションなどでもよい(時事210915)。

とにかく主人公ふたりのカップリングがもう最高に尊くて。新鋭スタントウーマン伊澤彩織さん演じる「まひろ」の不器用なメンタル&強靭なフィジカル。舞台版『鬼滅の刃』で禰󠄀豆子役にキャスティングされていると聞いて超納得の髙石あかりさん演じる「ちさと」のアンニュイな愛嬌&ギャップ&まひろたそ手懐け感。ほんと見てるだけで幸せ。

最高ポイントはいろいろありますが、まず冒頭。死んで欲しいやつが死ぬ。もうこれだけで固い握手です。フィクションとはこのためにあるのです。『ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪党、集結(2021)』とかが直近の好例ですけど、命を軽んじるのであればとことん軽んじるべきなのです。

かと思えばうっかりマガジン入れたまま洗濯機回しちゃうような日常ゆるふわエピソードも愛おしくて。フローリングを走る犬で早くもゾッコンだし、喧嘩と仲直りかわゆ、かわゆすぎんぞ。または一周回った「アップデート」ギャグ。これは絶妙な痛烈さ。『オーシャンズ8(2018)』観て分かった気になってるわたしには痛かった。おまけに「仁義」で腹筋よじれた。本宮泰風さん大好き。

あえて言うなら、「ラスボス候補みんなザコ」問題によるクライマックスの見えなさだったり(まだまだあると思っていたら終わってしまった)、「キャラ被りの敵」登場による「しばらく新キャラと気付かない」問題とか(秋谷百音さん、ご家族ともに生き返らせていいんで続編お願いします)、黒澤映画かよというセリフの聞き取りづらさとか(コンマ遅れてふふっと笑えてくる良さはある)、そこ妄想じゃなくてもよくない?(冒頭)とか満点中の難点もいくつかあるにはありますが、否、補って余りある満点です。

ああ。案の定もどかしい。全シネコンでかかっておれよ。海外ドラマなら『キリング・イヴ』とか、ああいうほんわかキレキレな女殺し屋ものがお好きな方には性癖マスト案件でございますので、どうかチェックのほどよろしくお願いします。

映画「ベイビーわるきゅーれ」より
二人は殺し屋/映画「ベイビーわるきゅーれ」より


(2021年158本目/劇場鑑賞) こちらのインタビューによれば参考作品として韓国映画界が誇るトラウマほのぼのバイオレンスアクション『The Witch/魔女(2018)』を観ているあたり、本当に「今」の作り手たちによる映画だなという感じがしました。言われてみればラストのバトルシーンとか近いかも。