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主に映画の感想文を書いています

「ゼロ・グラビティ(2013)」雑感

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前日に『ROMA/ローマ』を観た流れで、同じくアルフォンソ・キュアロン監督のゼロ・グラビティを鑑賞しました。観てそうで観てない有名タイトルが多い宇宙もの映画。『ライトスタッフ(1983)』から『ファースト・マン(2018)』まで、いろいろ観てない。よろしくない。

概要

スペースシャトルでの船外作業中、事故で宇宙空間に放り出されてしまった女性技師が自力で地球へ帰ろうとするお話。技師をサンドラ・ブロック、彼女を心身共にサポートするベテラン宇宙飛行士をジョージ・クルーニーが演じ、この2名だけで物語は進行する。

なお邦題が無重力を意味する『ゼロ・グラビティ』であるのに対し、原題は『Gravity(重力)』である。

雑感

これは映画館で、しかも3Dで観るべき作品だった!と後から気付きました(笑) 3Dはまだ仕方ないとしても、宇宙もの映画の場合は音響が特に大事だなと思います。いかに「無音」を「無音」として鳴らせるか。自宅鑑賞が映画館に到底及ばない部分です。

だいぶ画期的・挑戦的な作品だったようで、メイキングやインタビューなど非常に興味深く見ました。ただ2013年当時の「画期的」は現在だと当たり前になっていることもあったりするので、中途半端な後追いはフェアじゃないですね。そんなわけで真価を1割程度しか体験できなかったのではという今回の鑑賞、あらかじめすみません(どこかの方向へ)。

本作はアルフォンソ・キュアロン監督が幼い頃よく観ていたという映画『宇宙からの脱出(1969)』にオマージュを捧げているそうで*1、ひとつ前に観た『ROMA/ローマ』劇中にもその映画が登場します。それを見て、宇宙もの大好物ではないけれど『ゼロ・グラビティ』は観なきゃなと思ったのが鑑賞動機のひとつ。

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もうひとつは少し前のこと。愛聴しているTBSラジオ「アフター6ジャンクション」にて、忘れられない映画館体験を投稿するコーナーがあり、映画好きの父と祖父を連れて親子三代で『ゼロ・グラビティ』を観に行った、という投稿が読まれました。すごいことに、火災のシーンで映画館の火災報知器が鳴って避難することになったんですって。数年前に祖父は亡くなったけれど、部屋の映画コレクション棚には『ゼロ・グラビティ』が並んでいた。想い出の一本です、とそんなエピソード。これが妙に印象的で、どちらにせよ観たいなとは思っておりました。

作品に込められたテーマ的なところでは、こちらの記事における分析を読んで大満足してしまったため、貼らせていただいて終了とします(笑) つくづく読み取る力の欠如が甚だしいなあと己に切なくなるばかりでございます。

宇宙を舞台にした映画は、そのスケールに対してミニマムな物語になる傾向を感じます。「ゼロ・グラビティ無重力=宇宙空間」を中心に据えた話ではなく、「グラビティ=重力(きわめて個人的な)」がテーマだったんだということでいろんなことが腑に落ちました。

「これは最高の旅よ」という最後のセリフは、『ROMA/ローマ』で新たな人生を決意した母親が言う「これもまた冒険よ」に通じると思います。「水」の使われ方しかり、ジャンルは違えど同じ監督の作品であることも納得です。

(2020年9本目/Netflix

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「ROMA/ローマ(2018)」雑感

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昨年とても話題になったNetflix映画、遅ればせながら鑑賞いたしました。監督は『ゼロ・グラビティ(2013)』などのアルフォンソ・キュアロン。タイトルの「ROMA」は監督の故郷メキシコの地区「コロニア・ローマ」を指しており、イタリアの首都ローマとは無関係です。という大事なあたりをまず先に。

概要

舞台は1970年頃のメキシコ。アルフォンソ・キュアロン監督が幼少期に体験したことをベースにした半自伝的な作品で、彼が慕っていた家政婦兼乳母(をモデルにした主人公)を中心に物語は展開する。

制作にあたっては乳母のリボにインタビューを行い、幼き日の記憶を補完した。またリボに似ていることを最優先にキャスティングした結果、演技未経験で無名のヤリッツァ・アパリシオが主役に起用された。

水で流そう、あんなこともこんなことも。

なかなかに地味な映画でして。しばらく何も起きません。かと思えば手元のメモに初めて記したワードが「フルチンタイム」とかいう、まあ最初の衝撃的な出来事は間違いなくこれでしょう。清々しい。

で、これは一体どんな映画なんだろうと、どんな感想を書いたものだろうかと腕組みしながら観ていたのですが、どうやら「水」が印象的に出てくる映画だなと。タイルをゴシゴシと水洗いしているだけのタイトルバックから始まり、水不足の解消を唱える政治家、海での水遊び、ショッキングまたはスリリングなシーンにも水が絡みます。

主人公である家政婦クレオと彼女の雇い主ソフィアというふたりの女性は、日々を送っていくなかでそれぞれ深刻な問題とぶつかることに。しかし終盤、とても印象的な「海」のシーンを経て一旦その問題たちはどこかへ流されたように見えます。

もうひとつ目立つのが「犬のウンチ」。タイトルバックで主人公がゴシゴシと水洗いしているタイルは、車を停めているガレージ部分。この家の犬はここで飼われていて、困ったことにそこらじゅうに大きなウンチを落としまくっていると。主人公はちょいちょいそれを「掃除しておいてよね」と注意され、その度に水でゴシゴシしているのでした。

ですがこれ笑えることに、いつ見てもポツポツと落ちているわけです。まあトイレトレーニング云々はおいといて仕方ないよね、生きてるんだから出るさ。つまり、取っても取っても厄介ごとは尽きないけど、そのつど水で流して次へ行こうよと、そういう映画なのかなとわたしは見ました。空元気とも本音とも取れる「これもまた冒険よ!」というソフィア夫人の鼓舞も好きですね。

モノクロ映画の概念を覆す

モノクロ映画=ローテク、なんていう固定概念を覆すように、調べてみると本作かなりハイテクな最新鋭のモノクロ映画でした。まず、カラーで撮ってるってとこからアガります。そのおかげでブルーバック合成などもできたとのこと。

なかでも驚いたのが海のシーンにおける合成技術の話。逆光の環境でよくあんな美しい映像を撮れたなと思っていたら、合成でしたか!っていう。作為的に作られた印象的なシーンがまんまと印象に残ってしまったときの痛快さったらありませんね。

また音響設計もすごくて、まるで5.1chサラウンド! ステレオのスピーカーなのに、部屋のあちらこちらから音が聞こえてくるという。なんて思っていたらこれまた本当に5.1ch対応で、なんならDOLBY ATMOSにも対応しているらしいです。一見ローテクなモノクロの映画に惜しげなく投入されるハイテク。めちゃくちゃアツい…!! 好き!!

劇場で観たかった。

ちなみにこの映画、結構その固定概念やら先入観やらが邪魔して一年間くらい観ずじまいだったところがあります。「ローマってあのローマじゃないんだ」ってのも観てから知ったし、アルフォンソ・キュアロン監督が『ゼロ・グラビティ』とかの監督だというのも恥ずかしながら知らず。名前の字面、モノクロ映画、勝手にもっとおじいちゃんの大御所監督を想像してました、っていうごめんなさい案件。

裸の子供達が抱き合ってるキービジュアルもなんかユニセフ的な、貧困にあえぐ子供達の姿みたいなものかと勝手に想像して勝手に敷居を上げており。あの子たち、どちらかといえば富裕層だったよ!っていう。ジャケットやキービジュアルで食わず嫌いすること、非常に多い。まあそんなわけで大事なこととして冒頭に書いておいた次第です(笑)

制作の背景(時代背景というよりは、監督の個人的な話)を知るとかなり興味深いので、先に調べてから観るのもいいんじゃないかなと思いました。同じような気乗りのしなさで未見の方、ぜひ。

(2020年8本目/Netflix

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