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主に映画の感想文を書いています

ニューイヤー・ミュージカル・コンサート2019 / 東急シアターオーブ(2019/01/06)

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今年のコンサート始めは突然舞い込みました。公演初日の前日に流れてきたこのツイートを見なければ今頃こんな余韻に浸っていることもないわけで。

ジーン・ケリーよりはアステア派だけど、いやしかしこれは気になる、行きたい、まだチケットあるのかしら、えっ明日から?! ってな感じで、最終日のチケットをゲット。縁起モノなんて言われたら見過ごすわけにはいきません。

ただ、先日ブロードウェイまで行っておきながらなんですが海外で活躍されているミュージカル俳優さんの知識も作品の知識もほぼほぼゼロ。これを機に沼入りするかもという自己分析に基づいた懸念(?)を踏まえ、後々後悔のないようにしっかり予習をしておくことにしました。

幸い曲目はすべて公開されていたのでYouTubeで全部聴いて、俳優さんも作品もある程度は調べて、早速お気に入りの曲が出てきたのでiTunes Music Storeで何曲か買って、数日前までゼロ知識だったとは思えないほどしっかり楽しみな状態で迎えた当日。

いやはや、これがもう、本当に素晴らしかった…。楽しくて、ときに涙腺が緩んで、座っているだけでデトックスされるような時間でした。知らない曲なし!の状態で臨んだのは大正解。順を追って雑感書いてゆきます。

キャストと印象

プロフィールは他で見ていただくとして、キャスト5名の印象を。皆さんそれぞれに素敵でした。

  • アリス・リプリー(Alice Ripley)
    • 圧倒するより包み込む、大きな歌を歌われる方。大ベテランであろうに、日本ダイスキっぷりが5人中いちばん出てて嬉しかったです。
  • ダニエル・ウィリアムソン(Dan'yelle Williamson)
    • 今回すっかりファンになってしまったウィリアムソンさん。ソウルフルな表現力、スカーン!と抜けてくるハイトーンの気持ちよさ、最高。柔軟体操のようなお辞儀が印象的。
  • アダム・カプラン(Adam Kaplan)
    • 年下のカプランくん。日本のラーメンが大好きだそう。可愛い系男子だけれど、歌唱のほうはバッチリでした。
  • トニー・ヤズベック(Tony Yazbeck)
    • ジーン・ケリーを敬愛しているということで、踊りも歌もわたしの好きなMGMミュージカル全盛期の匂いがプンプン。とても好きです。
  • ロベール・マリアン(Robert Marien)
    • 圧倒的レジェンド感。役に憑依したときのオーラがすごい。入り込んでないときは気さくなイケオジ。毎年恒例で出演されているのも納得のムードメーカー。

第一幕

ステージの上手側半分に、オケピをそのまま上げたような15名程のバンド。決まって毎回演奏されているというコール・ポーターAnother Op'nin' Another Show(キス・ミー・ケイト)からショウはスタート。通い続けていればこの先「ザッツ・エンタテインメント!」を聴ける日が来るかしら…。あれを何らかのかたちで生で聴くのがひとつの夢です。

5人のキャストが登場し、歌の1曲目はSeasons of Love(レント)。この曲含め基本的にクラシックな曲以外はほぼ一夜漬け(=昨日まで知らない曲だったレベル)ですが、すぐ気に入った曲のひとつでした。特に意外とこの日本人版が良くて、新妻聖子さんうまいな!っていう。目玉のハイトーンは今回ウィリアムソンさんがバッチリ担当。

歌い終えたところで、MC溝渕俊介さんの進行のもとキャストのご挨拶タイム。皆さん日本語の挨拶から入ってくれて、特にリプリーさんは日本語のレパートリーがすごい! コンニチハ! アイシテマス! ダイスキ! MCというより通訳業のほうが主となる溝渕さんも、キャストを立てた進行がとても好感でした。

ここからはMCを1回挟むのみで、各ブロック5〜6曲ずつ続けてのシームレスなセットリスト。魅惑の宵(南太平洋)はまず作品からして全く知りませんでしたが、リチャード・ロジャースの曲なんですね。ガーシュウィン誰にも奪えぬこの思いクレイジー・フォー・ユー)は、わたし的にはアステア映画の曲。ヤズベックさんによる往年のハリウッドを思わせる優雅なダンスが非常に素敵でした。

カプランくんのマリア(ウエスト・サイド・ストーリー)は、若々しい彼のイメージからは意外に思えるほどの歌いこなし。楽しみだったウィリアムソンさんのI Am Changingドリームガールズ)は、んもうエモーショナルで最高…! この先も彼女がソロで歌うたびに視界が滲んで大変でした。ちなみにこの曲の一番好きなところは「Stop!」からの歌い終わり、そして半音上からダダーン!となるバンドです。

ヤズベックさんとリプリーさんで歌い踊るのはShall We Dance王様と私)。リプリーさんは「本当はくるくる回った時に広がるドレスを着たかったけど、次のチャンスにとっておくわ」と座談会で言ってました。この曲は二つ驚きがあって、まず「王様と私」の曲だったんだというのがひとつ、それからまたもリチャード・ロジャースの曲だったんだというのがもうひとつ。

リチャード・ロジャースは「サウンド・オブ・ミュージック」の音楽を書いた人、と言うだけだとまだ足りなくて、「ドレミの歌」を作った人、と言うと偉大さ増し増しな気がします。謙さんの凱旋公演、興味出てきてしまった。

Kiss of the Spider Woman(蜘蛛女のキス)はマリアンさんが男声で渋く。この曲ほんと格好良くて好きです。カプランくんとウィリアムソンさんがデュエットするIn a World Like Thisブロンクス物語)は今回最初のアラン・メンケン楽曲。こういうタイプの曲も書くんだ、と幅広さに驚きました。

さて、罪深い雨に唄えば。ヤズベックさんのパフォーマンスは予想以上に映画のジーン・ケリーをコピーしたものでした。こうやって生で見れるのは嬉しいなあ。これはきっとヤズベックさん本人が一番思っているはずだけど、ジーン・ケリーはやっぱすごいんだよねというのが率直な感想ではあります。いやしかし、とても良い縁起物でした!

言うまでもないリチャード・ロジャースの代表作My Favorite Thingsサウンド・オブ・ミュージック)は、なぜかアレンジが「斎藤ネコ編曲の椎名林檎」って感じの妖艶さでのっけからちょっと笑ってしまったり。リプリーさんの歌声はふくよかで温かみがあって落ち着きます。

Spread the Love Around(シスターアクト)は今回真っ先に「好き!」ってなった曲。こういう曲が大の好物です。アラン・メンケンの曲だというのがまた最高。すごいなアラン・メンケン! ハッピーな流れのままガーシュウィンI Got Rhythmで第一幕終わり。降りていく幕の向こうで足だけ踊るカプランくんと、負けじとタップ繰り出すヤズベックさん、かわいい…。

MCなしでどんどん進んでいくのでボリューム的に物足りないかも…などと思っていたのは間違いで、すでにこの時点で帰ってもいいくらい大満足でした。第二幕もあるのか〜〜贅沢だな〜〜!!

第二幕

休憩中、隣のご夫婦の奥さんが内気な旦那さんに対して「何よぉ、せっかく来たんだからノリノリになっちゃって!」とか言ってるのが微笑ましかった。あなたのおかげで最後のスタンディングオベーションも躊躇せずできました。せっかく来たんだからね!

さて、第二幕はそれぞれの持ち歌を中心としたステージ。感想はちょっとかいつまみ気味です。

マリアンさんのベル〜美しき人お前はわたしを破滅させるノートルダム・ド・パリ)からスタート。この曲は予習時にもだいぶ印象的かつ、ヘヴィすぎてこんなものを生で観たら現実に戻れないんじゃなかろうかと思いました。メイクこそしていないものの、聖職者を思わせる詰襟の衣装で歌うマリアンさんが印象的。

ノートルダム・ド・パリ」は「ノートルダムの鐘」の原作にあたるんですね。

リプリーさんとウィリアムソンさんのデュエットI Will Never Leave You(サイド・ショウ)。この「サイド・ショウ」という作品は、実在した「結合双生児(腰から尻がくっついている)」の女優姉妹をモデルとしたお話だそうで、劇中ではふたりが密着した状態で歌うみたいです。

オリジナルキャストのリプリーさん、普段はリクエストされても当時の相方と一緒でなければ歌わないそう。今回の披露はとてもレアケースだったようです。敢えてなのか、ウィリアムソンさんとはくっつくことなくむしろステージの両端からじわりじわり歩み寄るように歌っていました。

Luck Be a Lady(ガイズ&ドールズ)はシナトラで有名、なんでしょうかね。初めて聴きましたが、クセになって思わず口ずさんでしまいます。

マリアンさんが先ほどとは一転、憑依なしで陽気にパフォーマンス。後からヤズベックさんとカプランくんも陽気に出てきて縁起がいい!

こちらも楽しみにしていたウィリアムソンさんのGod Help the Outcastsノートルダムの鐘)。曲自体は知っていましたがしっかり聴いたのは今回が初めて。こんなにいい曲だと認識していなくて、今やメンケンバラードの超上位に食い込んでおります。ああ〜泣いた〜。

I Miss the Mountainsネクスト・トゥ・ノーマル)。リプリーさんがトニー賞の最優秀主演女優賞を獲った曲。

リプリーさんが演じたのは、精神疾患で苦しむヒロイン。錠剤を捨てながら歌うトニー賞でのパフォーマンスが印象的でした。再演があれば観てみたい作品です。

カプランくんのSoul of a Man(キンキーブーツ)、この曲は予習時にはさほど印象に残らなかったものの、生で聴くとそのどっしりとしたカノン進行がいい感じ。ただ、「これを小池徹平が歌うのか…」という雑念が少々邪魔でした。

Defying Gravityウィキッド)は、アフリカ系のウィリアムソンさんがあの魔女役をやっていたとは知らなくて驚き。

最高潮!というところでウィリアムソンさんが階段状セットの高いところへ駆け上がって歌うのですが、この動画で予習していたおかげで「あの上がるところのイメージか!」と理解できたのでよかったです。歌唱力はもう、言わずもがなでしょう。ウィキッド・グリーンの照明も格好良かった。

かつてファンテーヌ役をつとめたリプリーさんが歌う夢やぶれてレ・ミゼラブル)。スパンコールの衣装があまり夢やぶれた感なかったけれど、沁みました。続けてまたまたどっぷり憑依したマリアンさんによるバルジャンの独白。恒例の十八番みたいです。お見事。

リプリーさんはちょっと高音きついのかなと第一幕の頭から思っていましたが、フラットめに音を取るのと、ビブラートの振り幅が下に広いことでよりそう聞こえるだけだったみたいです。ところで「夢やぶれて」と「オン・マイ・オウン」が区別つかなくなるのはわたしだけでしょうか。

本編最後はWhat I did for Love/愛した日々に悔いはないコーラスライン)。これ、結果的に今回いちばん好きになってしまった曲です。そしてパブロフの犬的に、メロディを思い浮かべるだけで泣けてしまいます。やばい。こんな曲を最後に持ってこないで。直視できない。

いろんな人が歌っているものがありますが、予習していた中では「ハミルトン」のキャストがおそらくカーテンコールで歌っているやつ(40年前に同じステージで「コーラスライン」が初演された、という経緯でのトリビュートな模様。オリジナルキャストも来てる…? なにこの胸熱映像。コーラスライン観たことないけど……)で最初にグッときました。いま見返してても無限に泣けそう。

まあ、そんなわけでぐちょぐちょになっていましたとさ。一応、ほんの少しだけどステージに立つことを15年くらいやっているのでこういうのに弱いの。

アンコール1曲目は、客席みんなでサイリウムをつけてYou'll Never Walk Alone回転木馬)。隣のおばちゃまが折るサイリウム使ったことなかったみたいで、折ってあげました。終演後に「お世話になりました」って言ってくれて、いいおばちゃまだった。

知らない曲でしたがこれもまたリチャード・ロジャースアラン・メンケンリチャード・ロジャースすげえな、ってなった日でした。

そして2曲目はショウほど素敵な商売はない(アニーよ銃をとれ)。年末、ホリデームードに包まれたニューヨークのロックフェラーセンターでこの曲を聴いてえらく感動してしまった直後なので運命!!って感じで嬉しかった〜〜今日わたしはここに来るべきだったのだ! 「ホワイト・クリスマス」にしろ「イースター・パレード」にしろ、アーヴィング・バーリンの曲が持つ高揚感、たまらなく好き……。

あっちのなんかものすごいオルガン(シアターオルガンといって、無声映画の時代に活躍したらしい超すげえアナログエレクトーンみたいな楽器)で弾く動画貼っときます。アーヴィング・バーリンの曲とオルガンの相性、良すぎ。

すっかりスタンディングオベーションなのでダブルアンコールでもう一回Spread the Love Around! 嬉しい! 大大大満足で終演しました。

ヤズベックさんがお客さんと踊るくだりとか第二幕でのトークとか、書きたいことはまだまだあるんですがきりがないので曲の感想のみで。2019年コンサート始め、素敵な空間をありがとうございました。マダムいっぱいだったしチケット代はもう少し上げてもいいと思います。マダムじゃないけど払います。

というわけで、たったひとつのツイートから興味を持ってチケット取ってこの感動っぷり。今年は去年よりももっと強く何か運命が働いているのかも。ピンときたらカード決済、をスローガンに、直感を信じてフットワーク軽く生きていくことを抱負とします。

チャンス(1979)|狙わないほど愛される

f:id:threefivethree:20190105134246j:plain:left:w1802019年の映画始めは全く知らない作品にしました。今年もお世話になる「午前十時の映画祭」にて、ポスターの不思議なビジュアルに惹かれてチョイス。

どんな映画か説明するのはなかなか難しい本作。一応ジャンルはコメディらしいですが、腹を抱えて笑うようなコメディではなく、品があって静かで圧のない、クスッとできる程度のお話。そして後味はややファンタジー

ざっくり言うなら

姿は紳士、中身は子供。
世間離れした庭師が大統領候補にされてしまう不思議な喜劇。


あらすじ

身寄りがなく、後見人の主人のもと中年までの長い人生を屋敷から一切出ずに過ごしてきた男チャンスピーター・セラーズ。読み書きもできず、外の世界はお気に入りのテレビで知るのみ。主人のお下がりである仕立ての良いスーツを着て庭仕事に精を出すのが彼の楽しみだ。しかし主人が死去したことにより、彼は長年住んだ屋敷から出なければならなくなる。

そんなチャンスに新たな居場所を与えたのは、財界の大物ベンジャミンとその妻エヴァシャーリー・マクレーン。ひょんなことから彼らの大邸宅に住まうこととなるが、その落ち着いた物腰と品格のある身なり、深みのある(ように思える)物言いなどから次第に大物財界人だと誤解されてゆき、大統領と会談するまでになった。

大好きなテレビにも出演してすっかり人気者となったチャンス、改めチャンシー・ガーディナー。この名前は、「ガーデナー(庭師)のチャンス」と言ったのを聞き間違えられただけの名前だ。本名ではないから世間や政界がいくら調べても彼の素性は出てこない。結局彼は正体不明のままついに大統領候補へと上り詰める。

身なりは大事

じんわりおもしろい、いい映画でした。なんとなく勘で今年の一本目に選んで正解でした。

チャンスが大統領から経済の冬について問われ、「春の前には必ず冬があります」とただ庭いじりの話を返しただけのところからあれよあれよと高尚な勘違いをされ続けていく流れはすごく上品なコメディ。悪人はおらず、ありがちな「ボロが出る」展開もなく、年相応の教養がないチャンスを滑稽に見せる手段は決して取らない作りがとても好きです。

とはいえ貧相な身なりをしていたらこの展開にはならないでしょうから、身なりと振る舞いは大事ですね。育ってきた環境や学歴に関係なく、身なりは年相応にしておかないといけないなと。そんな感想??って感じですが。ダブルスーツのチャンス格好良かったです。

シャーリー・マクレーンを銀幕で

本作、シャーリー・マクレーンが紅一点的に登場します。当時45歳ぐらいでしょうか。とろんとした目元は若い頃からそのままに魅力的でした。

アパートの鍵貸します(1960)」「噂の二人(1961)*1」あたりの彼女は好きだけれど、「スイート・チャリティー(1968)」になると一気に野暮ったさが、というかカラー映画だと魅力半減?なんて失礼なことを思っていたシャーリー・マクレーン。本作の彼女はかなり良いです。ムラっと人妻お色気シーンも堪能できます。
スイート・チャリティ [DVD]

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今回「午前十時の映画祭」では、先週までのオードリー・ヘプバーン(パリの恋人)に続いてのシャーリー・マクレーン。贅沢ですね。ありがたいです。と言っても彼女はまだご存命で、スクリーンでもリアルタイムに拝見できるんですけど、やっぱり全盛期をね、拝みたいじゃないですか。

ツァラトゥストラ

戯曲「ツァラトゥストラはかく語りき」をベースにした話だそうで、というかシュトラウスの同名曲しか知らなくて、「ツァラトゥストラ〜」が戯曲だったことを初めて知りました。曲のほうも「2001年宇宙の旅(1968)」よろしく序盤で流れます。初めて外の世界を見たチャンスと、グルーヴィーにアレンジされた同曲。絶妙なマッチ感です。ワシントンD.C.までの一本道、中央分離帯を歩くチャンスを望遠で捉えたシーンが印象的。

映画の基礎教養ツートップといえばシェイクスピアなどに代表される戯曲と、それから聖書。久しぶりに町山さんの解説動画を見ていたら、とっておきの聖書ネタで会場を大いに盛り上げていました。

「だから○○なんですよ」で湧く終盤の町山ワールドは流石の一言です(笑)

狙わないほど愛される

自然体の人を見るにつけ羨んでしまう狙いまくりのわたしですが、チャンスはまさに自然体の人。何も狙っていないから周りに愛されてどんどん上り詰めていく。笑わせようとしていないから観客はクスッとしてしまう。原題の「BEING THERE」は「そこにいるだけで」っていう意味になるんでしょうか。理想的かつ程遠くて、とても新年の抱負にはできません。

というわけで新年初映画、良いスタートを切ることができました。今年もたくさん観てたくさん書いていこうと思います。

(2019年1本目/劇場鑑賞)

チャンス 30周年記念版 [Blu-ray]

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*1:ヘプバーンとダブル主演の「噂の二人」、同性愛を題材にしたダークな作品なのですがおすすめです。