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主に映画の感想文を書いています

映画「窓辺にて」「そばかす」感想|年始におすすめ、息がしやすくなる映画たち。

元日、映画初めとして『かがみの孤城』を鑑賞し、完全に満ち足りてからハシゴで(予約しちゃってたんで)観た2本の話をします(でもどちらもすごくよかったです)。

1本目はテアトル新宿で、今泉力哉監督の最新作『窓辺にて(2022)。これ、『あのこは貴族(2021)』とポスターが似てて。

「窓辺にて」と「あのこは貴族」のポスター。淡いミントグリーンの背景と、四角く切り取ったキービジュアルなど、ぱっと見の雰囲気がとても似ている。

似てんな!!!ってのがあまりにもノイズで(笑) 今泉作品好きなのに観る気なくしてたんですけども、あいにく評判もいいのでようやっと観てきました。どっちも東京テアトルだし、もしかして同じ人なのかなー。むしろ同じ人だったらここまで同じにはしないか。

それはさておき、噂に違わず、よかったです。「主演:稲垣吾郎」っていうのもじつは少し消極的になっていた理由なんですが、いや、稲垣吾郎さん、こんなにいい役者さんだったんだなって。SMAPバイアスをかけてしまっていた自分に反省です。

中身はですね、まあいわゆる「今泉作品に期待するもの」が詰まった恋愛群像劇となっておりますが、これまでよりは恋愛要素薄めといいますか、代わりに描かれるのが「続けること/やめること」だったり、もう少し広くいろいろな状況の人に刺さる映画なんじゃないかなと思います。

でも今泉作品ってメッセージ性云々よりも、とにかく「映画として、いい」んですよね。特にやっぱり本作は稲垣吾郎さんの、受け身ながらもバリエーションの豊かな演技に魅了されます。玉城ティナさん演じる女子高生小説家と接する際の全く不純な気持ちを感じさせない様、対して「大人同士の会話」をする際のゾッとするようなオーラと静かな圧、初めてのパチンコ台相手にみせる目玉だけでのリアクション、等々。

ひときわ素晴らしいのは、中村ゆりさん演じる妻との長回し会話シーン。印象的な円形のローテーブルと、手に持ったままの繕い物と。2段階の「斜向かい」は映画的におもしろく、流れるように突かれる「核心」には鳥肌が。倦怠夫婦の会話劇にまたひとつ名シーンが生まれたな、という感じです。

茶店映画なのもいいですね。かなりの数の喫茶店が出てくるのでは。あれ全部巡ってみたいなあ、と思いながら、そのへんにあった椿屋珈琲店へ入り、パフェ、はなかったのでチーズケーキを食べました。そう、本当の意味でのパフェ。あの店でのシーンで、玉城ティナさんが「〜〜かよ」って一度だけタメ口で返すとこ、好きなんです。あの二人の関係、『女の園の星』の星せんせーと女生徒たちっぽいかも。

あ、そうだ、この映画の最も印象的だったワード、それは「田端駅周辺」——っていう小説が出てくるのですが、タイトルだけ。なんだよそれ、なんだよそれ。めちゃめちゃ気になるじゃん。田端駅周辺にご縁のある身としては「ラ・フランス」よりはるかにはるかに読みたいのです、読ませてくれ。もしくは今泉監督、次回作は「田端駅周辺」で。何卒。


2本目は新宿武蔵野館にて玉田真也監督作品『そばかす(2022)三浦透子さんがタバコ吸ってる、絶対これいいでしょ、ってポスターのやつですね。


映画「そばかす」ポスター
映画「そばかす」ポスター


三浦透子さんが演じる蘇畑佳純(そばたかすみ、略してそばかす)は、他人に恋愛感情や性的欲求を抱かない30代女性。難しい言葉で枠にはめるとアロマンティック・アセクシャルというものがそれに当たるらしいですが、劇中でその言葉は使われません。枠にはめようとしない話なので。

これ、わたしもほんのちょっと前まで理解(認識?)してなかったのですけど、近しい間柄の後輩が「自分はそうだ」と一度だけ言っていて、ああ本当にそういうのがあるんだ、と。これまでさぞかし飲みの席など疲れたろうなと。「とかなんとか言って、ある日突然結婚しそうだよね〜」みたいなこと、わたしも言ってたから。「今はまだ出逢ってないだけだよ」って、きっと殆どの人が全く悪意なく言ってしまうんじゃないかしら。

で、まあそんな感じのソバタさんがいろんな人と関わっていく様を追ったお話である本作。なかでも印象的なのは、孤立してしまっていたソバタさんの前に降臨する最強の味方、前田敦子さんですね。このあっちゃんが、まーかっこいいんだ。気持ちがいい。普通に描いていくと月並みなシスターフッドになりそうなところ、終盤の「やっぱできない、ごめん!!」っていう展開もすごくいいなと思っていて。

本作、誰も否定しない映画なんですよね。「ソバタさんはそういう人である」。へーそうなんだ、いいじゃん、と前田のあっちゃんは肯定する。だけど同時にあっちゃんは「結婚をしたい」と思っている。昔を思い出してみても、彼女は自分があの先公のことを嫌いだからソバタさんを庇っただけ。ソバタさんのためじゃない、あくまで自分のために生きてる。勢い任せの連帯感に惑わされず、自分を大切にするあっちゃん。かっこいい。素敵。

ソバタ家のお父さんが解放されていく様もなんだかよくて。最後、立膝で食事をする。つられてカスミ氏もする、おばあちゃんもする。お母さん、してもいいかなくらいの空気になる。あはははは。世間的には「みっともない」とされていることに、「そう?」みたいな。考えてみれば、あのおばあちゃんってバツ3なわけですよ。お母さんが見合い見合いうるさいときからじつは何も援護射撃みたいなことをしてない。じつははじめから立膝で食事をする側にいたのかもしれないおばあちゃんの味わい。あの食卓のくだり好きですねえ。

ただ一点、チェロの演奏シーンだけはいただけませんでした。指導・演奏でプロの方がクレジットされていたのでアテフリだと思うのですが、でまあ三浦透子さんもいい線いっていたとは思うのですが、否、ビブラートかける系の弦楽器はとにかくアテフリが難しいんです。あんななめるようなカメラワークで撮るのはリスク高すぎです。

それから演奏の音。おそらく「ブランクのある元音大生」くらいの「お芝居」でプロの方が演奏しているのでしょう、が、ちょっと下手にしすぎでは。それか、音大は音大でも幼児教育科だったり、チェロ専攻ではないのでしょうか。それならまだわかるかも。といった感じのノイズがとてももったいなかったです。ここでまた『あのこは貴族』を思い出す。なぜ、見せ場に、そういうリスキーなことを。

▲見事に同じようなことを書いています。


最後に難癖をつけてしまいましたが、この日観た『かがみの孤城』含む3本はどれも「息がしやすくなる映画」でした。元日にふさわしいセレクトができて大満足です。

元日といえば、このブログも2018年の元日に始めて、今年で6年目突入なのでした。まだ3年くらいかと思っていたのに、早いものですね。更新ペースはなかなか上げられなさそうですがなるべく積み重ねていきたいと思いますので、たまにお読みいただけたら幸いです。

(2023年2・3本目/劇場鑑賞)