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主に映画の感想文を書いています

映画「マイ・ブロークン・マリコ(2022)」感想|マブダチの遺骨を抱えて旅する映画

現在公開中の映画『マイ・ブロークン・マリコを観ました。



平庫ワカさんの同名コミックを原作として、『浜の朝日の嘘つきどもと(2021)』のタナダユキ監督が実写映画化。永野芽郁さんと奈緒さんW主演ということで(クレジット的には永野芽郁さん単独主演なのかな、でもW主演ですよねあれは)、そんなの絶対観るじゃん案件でした。

ちなみに立川シネマシティのシネマ・ツーで観たのですが、お近くの方、選択肢があるならば是非ともシネマ・ツーで観ましょう! 観れば分かる!


映画「マイ・ブロークン・マリコ」ポスター
映画「マイ・ブロークン・マリコ」ポスター


さて、お話としては、ざっくり「弔いロードムービー」的なもの。奈緒さんのほうは映画が始まった時点から死んでます。最近だと、岸井ゆきのさん×浜辺美波さんの『やがて海へと届く(2022)』などを思い出す感じの作品です。

いかんせん取り返しのつかない状況から始まっているため、永野芽郁さん演じる主人公が起こせるアクションはせいぜい気持ちの整理をつけていくことぐらいにしかならない、それだけの地味な話といえば地味な話です。そのぶん、観客各々が自分というフィルターを通して完成させる映画になっております。

本作で背景となるような事件は毎日のようにテレビから聞こえてきますが、全てのニュースに感情移入できるほどわれわれ余裕はありません。主人公にしたって、冒頭のニュースには箸が止まったけれど最後のニュースは聞き流していました。でも彼女が旅先で接点を持った「ある少女」にしっかり姓名があったように、しかるべきときに誰かの人生に踏み入ることはできる。それぐらいのことができれば人間まあ上出来かなと思いました。

永野芽郁さんと奈緒さん

眼の奥に闇を潜ませたら2022年現在、奈緒さんの右に出る者はいない。すごい。『君は永遠にそいつらより若い(2021)』のときも、このひと死んじゃうんじゃないかなと思わせる脆さが印象的でしたが、今回もやはり、白目のなさ、キャッチライトの入らなさ、笑ってるのに全く笑ってなさ、圧巻でした。

なお原作コミックを読んでみたところ、原作のマリコはそこまで闇深く演出されていません。儚さのほうが前に出てます。奈緒さんが演じたことで内面が数段強く滲み出てくることになったのだと思いますが、映画的にはこの塩梅で正解な気がします。

逆に、シイノは原作のほうがよりガサツ。というか、映画だと序盤では永野芽郁さんに対する既存のイメージがわたしの中に残っていて、少し経ってから「えっ、タバコ吸うの?!」みたいな感じになったので、キャスティングによる先入観も強いのかな。『地獄の花園(2021)』の永野芽郁さんぐらいのキャラクターを最初は想像してました。

印象的なシーン

ひとつめ、ブロークンマリコを抱えて家を飛び出したシイノがしかしさてどこへ行ったものかと立ち尽くす斜め後ろ頭上からジジジッと点滅する街灯。悪く言えばホラー、良く言えばマリコであろう、素敵な演出だなと思ったのですが、この描写は原作にもそのままありました。こだわりの部分だったのですね。

ふたつめ、海辺の歯磨き。なかなかお目にかかれないシチュエーションの名シーン! こちらはなんと原作にありません。たった1回ペッとするだけでゆすぎを終えてしまうガサツさ、この先も絶対持ってたほうがいいアイテムなのに置いて去っちゃうガサツさ、シイノのあらゆるガサツさを表現してくれるナイス脚色でした。

みっつめ。今度遊ぶとき着ていくね、と言っていたワンピースを崖のマリコがおそらく着ていたところ。あの「彼氏かよ」エピソードも原作になかったかと思うので、ああなんかいいなあとなりました。

よく原作のこれを拾ったな!と感心したのは、マリコの部屋の電飾。原作だとほんのちっちゃいひとコマに星形の何かが描かれている程度なのですが、それをあのように解釈したのだなあと。(もう一度読み返したら、カーテンレールに電飾がついてる描写は発見。でも普通に読んでたら見逃しそう。監督か美術スタッフの原作愛ですね)

あと、なんだろ、まだあるな。幼いマリコの手紙が「Dear シイちゃんへ」「From マリコより」なところ。「へ」と「より」が被ってる愛おしさ。でも確か、手紙によっては「Dear シイちゃん」「From マリコ」みたいになってるんだよな。時の経過。細かい。

あの彼を窪田正孝さんが演じてるのも、そこはかとない可笑しみが常に漂っててよかったです。ちょいちょい、笑ってはいけない窪田正孝だった。あ、今ひとつ思い出したのは、川の横断だ。原作よりもスケールでか!

ブラック企業描写とかギャグとか、原作でさらっと流してるところを引き伸ばしすぎかなーみたいなことは思わなくもないものの、まあそれはある程度仕方ないこととして。こんな題材なのに不思議と心の温かくなる、よい作品でございました。

(2022年177本目/劇場鑑賞)

書き下ろしかと思うようなThe ピーズの主題歌もよかったです。