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主に映画の感想文を書いています

ウォン・カーウァイ「欲望の翼」「花様年華 4K」を観た

ウォン・カーウァイ「欲望の翼」「花様年華 4K」ポスター

先日ウォン・カーウァイ4Kレストア上映企画「WKW4K」にて『恋する惑星(1994)』『ブエノスアイレス(1997)』の2作を鑑賞し、初めてウォン・カーウァイ世界に触れたわたしですが、その後すぐ配信で欲望の翼(1990)を、昨日は劇場で花様年華(2000)を観てきました。


欲望の翼

恋する惑星』のひとつ前の作品。前回の記事にも載せた「アトロク」の特集内で、宇多丸さんと森直人さんが揃って「一番好き(思い入れがある)」と言っておられた作品だったため気になってすぐに観たのでした。なお今回の「WKW4K」には含まれていないので劇場鑑賞ではありません。

正直『恋する惑星』が全然ピンとこなくて、『ブエノスアイレス』は好みじゃなさそうな予感を大いに裏切ってすごく良くて、つまりどちらも期待値と感想がずれていたのですけど、今作『欲望の翼』は「好きそうな予感がする」「はい好きでした」という感じの、期待通りの作品でした。

まず、初めてわたしの好みに刺さる女性が登場します。ずばりマギー・チャンさんです。あっ!このお顔は、ええとあれだ、『宋家の三姉妹(1997)』のどなたかだ!くらいの雑認識ではございましたが、明確に「好きな俳優さん」ができると、疎いジャンルも楽しくなります。

それから、レスリー・チャンの寂しげな佇まいには『ブエノスアイレス』同様くすぐられるものがありますね。なかなか稀有な役者さんだったんじゃないかなあと思います。

で、問題はトニー・レオンですよ。出てこないな〜〜〜と思っていたら、……そんなのあり?! 作られなかった続編へのクリフハンガーってめちゃくちゃクール。あとあの「九龍城砦」って超絶惹かれます。写真集あるなら買おうか。


花様年華

欲望の翼』から10年後の作品ですが、こちらじつは『欲望の翼』の続編的作品だそうで、なんと、奇遇な。確かにマギー・チャンも、そして今度こそトニー・レオンもがっつり出ております。ていうかこの二人が主役。

本作に関しては、チャイナドレスのキービジュアルを見た瞬間に「これは好きだろう」と。今すぐ観たいし配信でも観れるけど、劇場で、4Kレストア版で観るべきだろうと。そんなこんなしておりましたらだいぶ遅くなってしまいましたが、WKW4K祭り真っ盛りのシネマート新宿へようやく行ってまいりました。

すごくよかったです。ただ、もっとストレートに色っぽい映画を期待していたわたしとしては意外な内容でもありました。というのも、極限までプラトニックな物語なのです。同じアパートの隣室に偶然同時入居した、共に配偶者持ちの男女トニー・レオンマギー・チャンが、しかしなかなかうまくいかない夫婦生活の隙間を埋めるようにささやかな「不倫ごっこ」をしてみる。それだけのお話。

最近だと『わたしは最悪。(2021)』なんて作品でも「不倫ごっこ」は登場しましたが、あちらはまあ、いやいやそれはもう一線超えてると言っていいでしょ、な「ごっこ」で。でもこちらの「ごっこ」はハグすらするかしないかの、逢瀬を重ねることすら躊躇する、本当の本当にプラトニックな「超えない」お話なんです。

じゃあ単調でつまらないかと言えばそんなことはなくて、むしろ観客側も極限まで禁欲的な気持ちになるというか。思えばそこまでが恋愛のピークなんだよなと再確認させられるというか。斬新な胸の締め付けられ方をする作品でございました。

と同時にこちらは期待通り、一体何着持っているんだというマギー・チャンのチャイナドレス姿を堪能でき(一説によれば25着)、パキッと髪の決まったトニー・レオントニー・レオンらしい表情を堪能できる、眼福な映画でもございました。シネマート新宿では9/8(木)に「『花様年華』"正装鑑賞回"」を開催するそうで、単に不純な動機から行ってみたい…!

同じ曲が何度も何度も何度も流れるウォン・カーウァイ作品お馴染みのやつも、本作の牛歩な感じによく合っており毎回聴き惚れました。シネマートのクラシカルブーストサウンドコントラバスかチェロの弦を大きく揺らしていました。

そんなところで、わたしのWKW履修はひとまずここまで。いいタイミングで、いい環境で観れてよかったです。シネマート新宿の盛り上がりは本当にすごいので、お近くの方はぜひ行かれてみるとよいと思います。

(2022年139本目・152本目) あと、このあたりの作品を正しく理解するにあたっては文化大革命であったり香港返還であったりという近代史を学ばないといけないなとも思いました。思っただけです、まだ。