映画「わたしは最悪。(2021)」感想|これはロマコメではない
一週間ほど前ですが、ヨアキム・トリアー監督の映画『わたしは最悪。』を観てきました。第94回アカデミー賞では濱口竜介監督の『ドライブ・マイ・カー(2021)』と並んで国際長編映画賞にノミネート(最近観たなかだと『FLEE フリー』も)していた作品です。
ちなみに濱口監督とは賞レースでよく戦うことになるため仲がいいのだとか。MOVIE WALKERのインタビューに、面白いエピソードが書いてありました。
『ドライブ・マイ・カー』に登場する赤い車サーブ900ターボは僕の地元生まれの車なので、2人の間では“北欧生まれの車が受賞したということだ!”というジョークが生まれました
“ライバル”濱口竜介監督も激賞する『わたしは最悪。』、ヨアキム・トリアー監督が自虐的タイトルの理由を明かす|最新の映画ニュースならMOVIE WALKER PRESS
さて本作、あれは『オードリー・ヘプバーン(2020)』を観たときだったか、Bunkamuraル・シネマの予告で見て、それがあの「止まる」シーンを使ったものだったんですけど、好きそう!って思って。最近の「止まる」傑作だと『1秒先の彼女(2020)』がすごい好きだったので、ああいうロマンティック・コメディを期待してました。
ただ、蓋を開けてみるとじつは思っていたようなロマコメではなくて結構ゴリゴリに人生考える系の作品で。自分の中でスイッチが全く違うほうに入っていたため、適切?に味わいきれなかったなというのが正直なところです(で、感想書きづらいな〜とうだうだしているうちに一週間経ちました)。
序盤はコメディ色が強く、主人公のユリヤが「医者になる」「やっぱ心理学を」「いいえ私は写真家」と気まぐれで可能性の扉をばんばん開け放していくくだりなどは劇場内のあちこちから笑いが漏れてくる「期待通り」の感じ。「浮気じゃないライン〜いや完全にアウトだろ〜」を模索する遊びもなかなかインパクト大で、キューブリックの『アイズ ワイド シャット(1999)』を連想させるようなトイレのシーンが印象的です。
キューブリックということだと『シャイニング(1980)』の全裸老婆を思わせるシーンも強烈でしたが、こんなにいちいちキューブリックを思わされる映画がロマコメなわけはないですよね(笑) あのへんの深層心理描写を経て見るラストのシャワーシーンと、その後の絶妙極まりない口角の上がり方。まさしく「わたしは最悪」って顔。でも、分かる気するなあ。
わたしは男性ゆえ考えの重さが違うかもですけど、わりと明確に子供は欲しくないと思っている身として、人生まだまだこんなもんじゃなかろうと内心あがいている身として、共感できる部分は多々ありました。
まあちょっと前述の通り、鑑賞モードがそっぽ向いてたり、なぜかやたら眠気に襲われたりと少し不運な出会い方をしてしまった作品なので、機会があったらもう一度観てみようと思います。
(2022年113本目/劇場鑑賞)
主演のレナーテ・レインスヴェさんはめちゃくちゃ魅力的。それだけでも見る価値ありです。男たち二人もそれぞれよい。終盤のエアドラムは満点です(ドラマー視点)。